ねっちりへん◯医と囚われキョコさんのオマケ的なものにてございます。
ふたりのはじめての◯◯なお話。
前編は通常ですが、後編はたぶん限定なものとなります。



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普段は掃除とシーツの交換にくらいにしか立ち入る事のない部屋。
柔らかな暖色の間接照明だけが灯る薄暗い室内。
どでんと部屋に置かれているのは、主人のその日本人の規格から大きくはみ出した体躯に合わせたような大きな大きなベッド。柔らかなシーツの上、居心地無さげにちょこんと座っているひとりの少女。
ドキドキと自分の耳にさえ煩いような速い心拍音。やがて、その音に混じるように聞こえてきたひたひたと近付いてくる足音に、ビクッと肩を震わせて。
それでも、ぎゅっと瞼を閉じて着ている淡い色合いのナィティの首ともを握り締めていた。



バスを使い終わって、睡眠を取る為に開いた寝室の扉。
肌に馴染む程に見慣れた筈のその室内に、ただ、彼女がいる、其れだけで何時もの眼鏡のない男の目は驚愕に見開かれ、その身体はドアノブを掴んだまま硬直してしまった。
しばしの沈黙の後に、男はカラカラの喉から声を絞り出した。
「…………キョーコちゃん、どうしたの?」
ベッドの上に座る彼の妻であるキョーコを怯えなせないように、可能な限りに優しい声色で。枯れたゴム紐のような理性の糸を握り締め、己の中の欲と闘いながら。
何故ならば、戸籍を共にしてからこちらずっと彼女が眠る筈のベッドはこの部屋のそれでなく、ゲストルームのものを使ってもらっていたのだから。





唯一の肉親である母親からさえ愛を与えらなかったキョーコが、幼き頃から幸せにしてくれる筈の王子様の夢が砕けた混乱に乗じる勢いと有り余る重っくるしい執着でもって、ある意味で詐欺にでも合ったかのような手際の良さで、彼女を首輪と鎖で閉じ込めた犯人である蓮の妻となったばかりの話。
あれよあれよと拐われるみたいにキョーコの自宅とされたワンフロア独占のマンションの部屋。
リビングにキッチン、バスやレストルームなど各部屋を案内していた蓮。
「ここが、寝室。」
そう言って開いた扉の先にあった大きなベッド。
白衣の蓮に無理矢理組み敷かれ弄ばれた過去が思わず頭を過ぎったのだろう。ギクリと、身を竦ませたキョーコ。
そんなキョーコの怯えに一瞬、自らの罪の苦みを滲ませた蓮はキョーコに優しく、だけどどこまでも真摯に告げた。
「キョーコちゃんはゲストルームのベッドを使って。」
きょとりと、意外そうに夫の筈の蓮の顔を見上げている紅茶色の瞳。
「結婚してから言うのも可笑しいけど……キョーコちゃんに俺を好きになってもらえるように、頑張るから。」
愛しさの滲んだ複雑な表情で、安心してとでも言うようにキョーコの黒髪を軽く撫でて蓮は言った。
キョーコが触れるのを蓮に許してくれるまで、夫婦の寝室は別にしようと。
そんなある意味奇妙なふたりの新婚生活も降り積もる時間と日を重ね、季節も変わろうとする頃。
義両親となった蓮の父母の重量級過ぎる親愛と、多忙な筈の蓮の、それでも可能な限りにキョーコを微笑ませようと努力を惜しまずに全力で甘やかして優しく真綿で包むような、目に入れても痛くないような溺愛。そんなキョーコの欲しかった、ぬるま湯でたゆとうような絵に描いたようような照れくさくってじたばたしたいくらいの幸福な生活にもなんとか慣れた頃のこと。
肌触りの良いリネンの上で眠りから覚めてしまったキョーコ。
偶に、あるのだった。寝つきは良い筈なのにどうしても、夜中に目が覚めてしまう事が。
どうにも寝つけずに、ホットミルクでも飲もうとキョーコの城ともいえるキッチンへとペタペタと足を進めた。
ミルクを温めていると、人が動く気配に目を覚ましたのだろう蓮がキッチンへと顔をのぞかせた。
いつもより少し寝乱れた蓮の黒髪。その妙な男の色気に頬を染めながら、目が冴えてしまったからホットミルクを、そう言ったキョーコの肩に
「風邪ひくといけないから、それを飲んだらあったかくして眠るんだよ。」
と、ソファーにあったブランケットをふわりと掛けた蓮の手。
ついでとばかりに、キョーコの髪や頬をなでなでと愛でてからそそくさと離れていったぬくもり。
それは無防備なパジャマ姿のキョーコに犯行に及ぶ前に手の届かない場所へと逃亡した、ただそれだけなのだけど。
唐突に、キョーコは気付いた。
夜中に目が冴えてしまうのは、あの病室に繋がれ閉じ込められていた間ずっと抱き締められて眠っていた蓮の体温と香り、それが足りない所為なのだと。
ぼふんと、真っ赤になるキョーコ。
なななな、なんてことを……などと困惑しながらも暖めたぬるめのミルクを飲み干して、もう眠ってしまおうとふらふらと自分の寝室に帰った。
潜り込んだベッドの中、まだ肩にあったブランケットからふわりと香る蓮の香りに、擦り寄るみたいに眠りについたのだった。
そんなことのあった夜から幾つかの夜を越えて……
自覚してしまうとどうにも独り寝が物足りない。夜中に目が覚める夜を何度か過ごしたキョーコは覚悟を決めると、蓮がバスを使ってる内に寝室へと忍び込んだのだ。
まだ、時折ふと感じる絡みつくみたいな飢えた蓮の瞳は恐い……けれど、でも少しだけ恐いだけでもないようにも思えたから。





ギィっと、ベッドの軋む音がしてキョーコが瞼を上げると、すぐそばに訝しむような蓮の瞳があった。
「夫婦だからって、無理……しなくてもいいんだよ、キョーコちゃん」
微かに震えた低い声。恐いのだろう?逃げてと、そう自分を責めるような耐えるような表情。
その捨て犬みたいな蓮にすとんと力が抜けたキョーコは、ただ黙ってそのままふるふると顔を左右に振ってみせた。
逃げ出さないキョーコをそっと、夢なんじゃないかとこわごわと抱き締める腕。
嫌がる素振りもなくふにゃりとやわらかく身体を任せて、蓮のパジャマの背中をちまっと掴むキョーコの手に、蓮の頭の中ではぷちりと何かが切れる音がする。
優しくシーツへと押し倒されて、見上げた蓮のまるで夜の帝王みたいな飢えた色香にぎゅっと瞼を閉じたキョーコ。
………………けれど、そのまま何をするでもない様子の蓮。どうしたのだろう?とキョーコが瞼を開けると、酷く真剣な瞳をした蓮。
らしくなく緊張の色をありありと乗せた低い声がキョーコへとこぼされた。
「キョーコちゃん……キス、してもいい?」
と、そう。
きょとりとした後にぱちぱちと瞬きを数度繰り返して、そういえば……私、キス……した事ない、と今更にその事実に気が付いたキョーコ。
そんなキョーコのくるくると変わる表情がツボを突いたのか、クスクスと堪えきれずに笑う声。
「……ひどい」
そう拗ねた声で訴えて、プクッと頬を膨らませたキョーコがそっぽを向いてみせる。
ごめん、かわいくってつい……低い声が慌てて謝るけれど
「……メルヘンチックなお城とキラキラプリンセスドレスが夢だったのに…………ファーストキスより初体験、それに結婚まで先だったなんて…」
ぶちぶちと不満をこぼし続けるキョーコに
それはもう本当にごめん…ごめんなさいと、しゅーんと叱られた犬みたい謝って、でも少しだけ嬉しさを滲ませた声が。
「ね……キョーコちゃんのファーストキス、欲しいな。キスしても、いい?」
と甘くとろけた声で強請るのだった。




今までとは違って、涙のないキョーコの額や頬に優しく甘くくちづけを落としながら。





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はじめてちゅーする時は、ドロドロした汚い感情でしたくないのが蓮くん。
んでも、キョコさん繋ぐためにはじめては無理くり奪っちゃうのがへん◯医。
(*ΦωΦ)


後編は、すこしゃ甘くなるといいですなぁ。←ひとごと



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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