もう……なにも聞きたくない、なにも見たくない。ここにいたくない。
だけど、ひと足どころか指先ひとつ動かせない。
そんなキョーコの言葉にならない望みをそっと汲み取るように、蓮は可能な限りキョーコの耳を手で塞いだままキョーコを元いた部屋の中へと連れ戻した。蓮の腕に促されるがままにキョーコベッドの端にちょこんと腰掛けている。
そして、またこの部屋にキョーコ、ひとりきり。





シーツの上に波打って落ちている銀の鎖。その先にあるのは、行く筋も切り裂かれ強引に外された細い首輪。
無残に引き千切れたそれは、もはやなんの意味も持たないものと成り果てていた。
落ちていたカッターの刃だけを拾ってポケットに入れた蓮も、どこかへと出て行った。
キョーコをここに縛り付ける拘束も、閉じ込める蓮も、今この部屋にはない。
だけど、床に根でも生えたかのようにピクリとも動かないままのキョーコ。
どれくらいそうしていただろう。トンットンッと、控えめなノックの音。
その音に顔もあげずなんの反応も返さないキョーコ。
「…………キョーコちゃん、傷の手当てをさせてね。」
キョーコの座るベッドの横へと小さな椅子を動かして来た蓮は、そう言って取りに行っていたのだろう応急用の薬箱をサイドチェアの上へと乗せた。
首もとに散らばった傷へと蓮が手を伸ばしても、身を竦ませたりもせずにただされるがままでいるキョーコ。
蓮も、言葉のひとつもなく、ただ黙々とキョーコの肌に走る傷を消毒し、薬を塗り、ガーゼを当ててゆく。ただ、キョーコへ見せていたあの恐ろしい執着ではなく、凪いだような暗い瞳をして。
「先生…………知って、たんですか?」
両手の手のひらや指にある傷の手当てが終わる頃、ぼそりとそうキョーコがこぼした。
「彼は、声が大きいからね。」
何をと詳しく言葉を重ねなくとも、蓮はキョーコの質問の意図を理解したのだろう。ただ、そう低く苦いような声にして答えた。



蓮の頭の中に甦るのは、あの夜に偶然に遭遇して耳にしていたショーとそのバンド仲間なのだろう安くさいジャラついたアクセサリーのたくさん着けられた少年たちとの会話。
「便利って、ヒデェなそれ。女じゃねぇのかよ?」
「キョーコなんてあんな地味で色気のねー女、俺が相手する訳ねぇじゃん。それに、アイツが俺のために身を粉にして働くのあったり前じゃね?俺、業界以外で汗ひとつ流すのイヤだしー」
騒ついた雑踏の中でもはっきりと蓮の耳に届く
、平然と、ヘラヘラと笑うキョーコの王子様の筈の男の口から吐き出されてゆく会話の応酬。
「生活費も全部貢がせるつもり?働かすって、もしかして、売んの?まぁ、胸は小さいけど……あの優等生ってタイプって妙に親父ウケ良さそうじゃねぇ?…………俺にも安くまわしてくれよ?」
蓮が聞いていれたのは、そこまでだった。
その恵まれた体躯でもって強引に人の流れに逆らって向かう方向を変え、足早にショーたちから遠ざかった。
そうしなければ、蓮の中に湧き上がり暴れ回る凶悪な衝動のままに猛威を振るおうとする、ぎゅぅと強く握り締められた己の拳を抑えていれそうもなかったから。





ハラハラと、流れ続け頬を伝うキョーコの涙。
この部屋でキョーコが涙を零すたびに、蓮が酷く嬉しげにその唇で舌で拭っていたそれを、今は少しカサついた蓮の指さきが拭ってゆく。
「彼と一緒に行って欲しくなかった。彼の所為でキョーコちゃんが泣くのが許せなかった。だから……」
茫然と、されるがままにしているキョーコの涙に濡れた視界に映るのは、酷く痛ましい表情をした白衣の蓮。
つぶやくような、まるで自戒の誡告のような苦味を含んだ絞り出された低い声が告げた。





「だから、ここへキョーコちゃんを閉じ込めたんだ。」




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なんで、猫木のとこの敦賀さんはこんなにも犯罪思考なんだろうか?
ぼくだけなのかしら???
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皆様のところの脳内妄想の敦賀さんは、監禁したり拘束したり拉致ってますでしょうかぁぁぁー??

(」〃>Д<)」





ひっさしぶりに↓拍手ボタンのポエム入れ替えました。

『わたしの罪とあなたの罰。』『たすけてあげる。』

甘さナッシング病みキョコさんな2つがランダムで出てくるらしいので、どぞおヒマな時にでも覗いてやってくださいまし。



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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