壁一面の窓の外には、まるで宝石箱をひっくり返したみたいな色とりどりの夜景が広がる。
狭い島国の住宅事情に真正面から喧嘩を吹っかけるかのような敷地面積を誇るモデルルームのような室内、腰を降ろすのを躊躇しそうな価格帯の有名ブランドのソファーの上には、この世の無情を嘆くかのような男がひとり。
彼は、漸く帰り着いたのだ。数々の苦難と苦節を踏み越えて。
愛しい恋人のもとへ。
彼、敦賀蓮がそのルックスに反してラブミー部員入りな鶏にさえ初心者マーク認定されていたそのヘタれと形容しそうな程に焦ったく抱えていた恋心を、キョーコへ告げたのは2年も前の事である。
顔よし身体よし収入よしな花マル超優良物件、しかも例え一夜の戯れだろうとこぞって挙手が上がりそうな抱かれたい男NO.1である男からの将来を見据えた真剣たる交際の申し込みである。
……しかし、まぁそのお相手は、やはり違えようもなく、愛の欠落者のラブミー部員1号な恋愛拒絶曲解思考回路搭載な難解乙女であった。
キョーコは逃げた。気の迷いだ勘違いだ何かの間違いだと、蓮の求愛の言葉を先読みしては真っ向からはたき落とし、詐欺だイジメだ信じられないと拒絶と逃亡を重ねに重ねて、見事なまでに蓮を袖にし続けた。
その余りにな釣れなさっぷりに、怯え竦むキョーコの心の傷が癒えるのを待つつもりであった蓮もこれには、べっこべこに凹みに凹み……
偶然にも捕まえた妙に頼りになる鶏の着ぐるみに縋るように恋愛相談教室を乞うたり、そのアドバイスを元に捨て身の覚悟で自身の過去と本来の名前と姿を露見させて……ようやっと彼女の隠しこんでいた恋心をそっと告げてもらえたのが1年前のことである。
お付き合いをはじめたばかりの蜜月期間。そう呼んでしまえそうなその1年間も、スケジュールみっちり満載な人気俳優と注目度赤丸急上昇で引っ張りだこなタレント兼女優であるふたり。
電話やメールはもちろん毎日交わすけれど、撮影現場や事務所ですれ違うような短い時間にでも逢えれば良い方、お家デートなゆったりした時間など数える程で……
最初こそ、喜びに浮かれ切ってたがだかネジだかの外れた蓮が持ち前のセレブな感覚と財布をフル解放して庶民派なキョーコを震え上がらせたりや、純粋乙女と数だけの経験は重ねた男との感覚すれ違いなんかも乗り越えて。
彼女の幼き日の妖精王子であると理解したが上での、尊敬する先輩の下地はあれども敦賀蓮とキョーコの時にはなかった安心して打ち解けてくれるようなやわらかな空気と憧れだった親密度高めな感じ……なによりも、そっと触れるだけでも頬を赤らめてくれる夢に見たような反応と抱き寄せても逃げずに腕の中にいてくれるかわいい恋人。
そんな愛しい愛しい、目に入れても痛くない程に溺愛している恋人から離されることなんと6000マイル。
専属ブランドのポスターやその他撮影に、コレクションでのモデルを含め、フランスはパリでの滞在期間なんと2週間。
2週間かもだ!それこそ身を引き裂かれるようだと嘆いては、ニヨニヨと揶揄うのも馬鹿らしいとマネージャーに呆れられたりもした。
時差もあり、なかなか声も聞けずにいたその2週間。潤いを奪われた蓮は、日を重ねるごとにキュラキュラと輝きを深く深く、それはもう重度のキョーコ不足に陥っていた。
そんなマネージャーの顔色を悪くする笑顔と飢えて滲む色気さえも利用してサクサクと仕事をこなしながら、降るような日本よりもストレートで積極的な誘惑や誘いの数々を躱し……
それは、明日、やっと日本へ、キョーコのもとへ帰るというその日のことだった。
蓮の身に不幸が襲ったのだ。
それはもう、誰が悪いとか何が要因だとか言えないような、天候や撮影地点や衣装に小道具とポージングなど偶然の因子が積み重なったかのような事故だった。
蓮ひとりであったなら……彼に備わった反射神経と身のこなしで軽傷で済んだかもしれない。
だが、その時蓮の傍らには女性モデルが配置されていた。
蓮はその女性モデルを庇い、転落した。
それはきっと彼に備わるフェミニスト精神が思考回路に働きかけるよりもはやく、咄嗟の反応だったし、その事を蓮は悔いたりなどはしていなかった。
ただ……何ともないような顔で、撮影を終えた蓮を待ち受けていたのは彼の優秀なるマネージャーが手配した彼の所属事務所社長との繋がりのある病院への強制移動だった。
左足首の捻挫と右手首の第5中手骨の剥離骨折。モデルを庇って転がり落ちたのだから、もしかしたら頭を打ってるかもしれない。大事を取ってひと晩、入院するべきだと言うその声に反対したのは、他でもない蓮だった。
「大丈夫です。ギブスで固定してもらいましたし、足も杖があれば歩けます。帰りますよ、予定通りに明日。」
キュラリラキュラリラとグサグサ痛い光を放つ笑顔と笑っていない瞳で、だってキョーコちゃんが待ってるんです!と全力主張する蓮を止めたのは……社から社長を経てのSOSを訴えられたキョーコからの
『私の大事なコーンを大事にしてくれないコーンなんて……きら』
との国際電話だった。
「キライ」の一言を言い切るのを遮って、蓮は全面降伏の白旗を掲げたのだった。
そうして、予定より遅れることおよそ49時間。
12時間のフライトと、蓮の負傷によるスケジュールの組み直しの為に先に帰国していた社が運転の出来ない状態の蓮が出入国管理の為に戻した久遠のビジュアルのまま人目に付かずにいちはやく帰宅と出してくれた車での移動を経て。
恋人の待つスィートホームに帰り着いた蓮。
そんな蓮を待ち受けていたのは、依頼されたと妙に張り切って至れに尽せり細々と蓮のお世話をしようとする愛しいキョーコとの幸福な……それと同時に、試練のような時間であったのだ。
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| 壁 |д・)捻じ曲げたリクエストの影がチラリホラリ。
あ……このお話、かっこよい蓮さんなど登場いたしやせんぜよ。
まぁ、この辺境の地な我が家にゃ元より変な蓮キョコさんズしかいないから、甘さとかかっこ良さ成分をお求めで迷い込む方も少ないとは思いますので今更ですが。
所詮、猫木ってことでありんすよ?
ァ,、'`,、 (◍'౪`◍)'`'`,