[SS] MaskedRider AGITΩ another story
「ママ早く帰ろう? パパもう帰ってきてるかも」
「こらこら幸彦……パパは逃げないから、急がなくても大丈夫よ」
「だって……今日はひさしぶりに早く帰ってきてくれるんだもん。そしたらうれしくて」
「ほんとパパが大好きなのね、幸彦は……」
「うん、でも、ママも同じくらい好き!!」
「ふふ、ありがとう」
沈む夕日の下、川沿いの土手の上を母の手を引いて駆け出そうとする子供。
その中で交わされる笑顔と、母子のたわいない会話。
それはとても幸せな光景だった。
微笑ましく暖かい、平和な日常。
しかし、それを憎悪の目で見つめるものがあった。
川の中から目だけを突き出して、標的を見定める爬虫類の瞳。親子の気づかない遠くから、その背中を追跡していく。
追跡者はやがてゆっくりと水から這い出て二本の足で河原に立ち上がり、その全容をさらす。
それは鋭い牙を備えたトカゲの頭部に微細な鱗に覆われた人間の身体をもち、その身には古代南米の高地部族のような装飾のなされた衣装をまとっていた。さらに手には熊手のような鉤爪付きの棒を携えている。
この蜥蜴の怪人は明らかな敵意を親子……いや、母の手を引く子供に向けていた。
怪人は鉤付き棒を地面に突き刺すと、両手を腹部に持っていく。
そして、右手の甲の上に剣指にした左手で奇妙な印を切ると、再び得物を手にとって親子へ向かって歩き始めた。
土手へ向かって、踏みしめるように一歩ずつ間合いを積めていく。
その歩みを、影が遮った。
そして、その影もまた異形であった。
大きな二本の角と赤い複眼を備えた虫のような、また龍のような頭部。黒い皮膚に覆われた、しなやかで引き締まった五体。胸部と両手足の一部を覆う黄金色の装甲。
そして、バックルの宝玉からまばゆい光を放つ、大きなベルト。
『〈アギト〉……』
その姿を見て、蜥蜴怪人が初めて口を開いた。
親子から前方の相手に注意を移し、両手で得物を構える。
「〈アンノウン〉……あの親子に手出しはさせない」
対し、〈アギト〉と呼ばれた怪人も呟くように言うと、拳を作り身構える。
対峙する両者。
その間で張りつめていく空気。
一触即発の状態から動き出したのは、〈アンノウン〉と呼ばれた蜥蜴怪人だった。
『クアァァァッ!!』
怪人が甲高い咆哮とともに鉤付き棒をかざすと、その先端が燃え上がる。そして、生じた炎はまるで意志を持つかのように〈アギト〉に襲いかかっていった。
「!」
飛来する複数の炎の弾。
それを横に飛んでかわす〈アギト〉。
逸れた炎弾が地面に当たっていくつもの火柱を立てる。
『〈アギト〉の種は絶やす。人は人であればよい!』
〈アンノウン〉は叫びながら再び炎弾を放つ。
先ほどよりも大きな弾。遠距離から一気に倒す心づもりだろう。
〈アギト〉はそれに対し、今度はよけずに立ち向かう。
「俺は……」
迫る炎に照らされる黄金の装甲。
〈アギト〉はそれにも動じず、仁王立ちのままゆっくりと両の手を引いていった。
焦眉の距離にまで迫る炎。
放たれた小さな太陽がその身を焼き付くそうと牙をむく。
だが〈アギト〉は動かない。
その脳裏に浮かぶのはあの親子の姿。
あの幸せを、絶対に壊させるわけにはいかない。
なぜなら──。
「俺たちは、人間をやめた覚えはない!!」
まっぷたつに断ち切られた炎の弾が二方向に逸れ、〈アギト〉の左右後方で爆裂し火柱を立てた。
炎に浮かぶシルエット。
それは先ほどの〈アギト〉とは少しばかり違っていた。
右腕が赤色に変化し、肩には鋭角的な装飾。そして、その手には一振りの刀が握られていた。
炎を両断したのはこの刀だったのだ。
『何を言う、人類のいびつな進化こそ〈アギト〉……おぞましき力よ!』
間合いを詰めて薙ぎ払う〈アンノウン〉。先端に取り付けられた三つの刃が〈アギト〉を襲う。
「フンッッ!!」
しかし〈アギト〉はその刃を左腕でいなすと、腹部に鉄拳の一撃を見舞った。
『カ、ァッ……』
カウンターを食らい怯む〈アンノウン〉。体制を立て直し、反撃しようとする。
「タァァッッ!!」
そこに〈アギト〉はさらに右足での前蹴りで追撃を加えた。
「そんなもの……知ったこっちゃない」
吹き飛び、河原を転がる異形に向けて、〈アギト〉は言い放つ。
その姿はいつの間にか最初の姿に戻っていた。
両手を手を広げ、腰を落とす。
「いびつな進化だろうがなんだろうが──」
頭部の角──クロスホーンが展開し、六つに分かれる。地鳴りとともに足下の地面に光が渦を巻き、〈アギト〉の頭部を模したシンボルが浮かび上がっていく。そして、その光は〈アギト〉の両足に吸い込まれていった。
「これで大切な人を守れるのなら──」
その複眼が前方で身を起こす〈アンノウン〉に狙いを定めた。
『滅びろ!!』
〈アンノウン〉が武器をかざし突撃する。炎をまとった武器で〈アギト〉に襲いかかる。
「──俺は、戦う!!」
対し、〈アギト〉も動き出す。
一歩、二歩、踏み切って、跳躍。
天高く飛び上がる。
そして眼下、得物を突き出す〈アンノウン〉に向かって、降下の速度とともに跳び蹴りを繰り出した。
光り輝く右足を切っ先として、まるで光の矢のように飛んでいく〈アギト〉。
その一撃は〈アンノウン〉の武器を先端から破壊し、勢いのままその胸に鋭く突き刺さる。
大きく吹き飛び、再び倒れる〈アンノウン〉。
〈アギト〉は空中を一回転して着地すると、右手を突きだして構えながら、ゆっくりと〈アンノウン〉に背を向ける。
『おのれ……』
その背後で再び立ち上がろうとする〈アンノウン〉。
『アアァァギィィィトォォォ!!』
しかし、頭上に天使の輪のような光を発生させたかと思うと、光とともに爆散していった。
静寂を取り戻した河原に一人立つ〈アギト〉。
気づけば既に日は沈んでいた。
「……遅くなってしまったな」
呟きとともにその全身を光が覆う。
夜の川辺を淡く照らす燐光。
それが晴れたとき、川辺に立っていたのは一人の男性だった。
歳は三十代前半だろうか。その姿はどこにでもいる普通のサラリーマンといった風体だった。
「帰ろう」
彼は戦場を一瞥することもなく、土手の向こう、街の光へ向かって静かに歩き出す。
その胸に愛する妻と息子の笑顔を抱いて。
彼は決して戦士ではない。
しかし彼は、人を……家族を深く愛していた。
だから、戦う。
異形の力にも、運命にも負けず。
〈アギト〉としてでなく、一人の『人間』として、ひいては一家を守る『父』として。
それが、彼の強さだった。
MaskedRider AGITΩ another story
「Father」 end
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あとがき
みょんソの修正作業が一向に進まないままこんなの書いてました。
「仮面ライダーアギト」を題材に、「あくまで日常に生きる、とあるアギト」がいてもいいんじゃないか、ということで書き始めました。
楽しんでいただければ幸いです。
ちなみに本作に登場したアンノウン。一応設定は考えています。
ドラゴン・ロード(ドラコ・イグニス)
オオトカゲによく似た超越生命体。武器の鉤付き棒から出す火炎で人を焼き尽くし、捕食する。言葉を話すことからレベルとしては中の上。ディケイドに登場したバッファローロード程度の能力を持つ。
こんくらい。まぁ、やられ役だしネ……。
では、修正作業に戻ります。
でわぁ(・ω・)/