みょん×ソード ep.Ⅲ 届かず、遠く④
「来た!」
飛来するダンを見つけた妖夢は空高く飛び上がり、剣状態の機体表面、刀身の上に降り立つ。
それと同時に目にした。
月に照らされて闇夜に浮かぶ、巨大な三つの物体を。
一つは戦闘機、一つは空を飛ぶ船、もう一つは空を飛ぶ戦車。
いつの間にか現れた三機のマシン。
その中でもひときわ巨大な戦闘機が機首と翼を折り畳んで変形を始め、残りの二つも細長く変形。
その真後ろに組み合わさっていく。
腕と頭がせり出していく戦闘機に、足になった二機が突き刺さる。
その姿はよく見えないが、形成されるシルエットは恐らく人型。
そして、それに乗っているのは……。
(……紫様、本人)
それでも、戦わねばならない。
覚悟を胸に、妖夢は柄にあるコクピットからダンに乗り込んだ。
勢いよく大地に突き刺さる大剣。
その中で妖夢は心を研ぎ澄ませた。
楼観剣を青い流体の流れる床に突き刺して、ディスプレイに映る外の景色に目を凝らす。
その景色の中に、『それ』はそびえ立っていた。
中世日本の武士を思わせる鍬形(くわがた)のような前立てを備えた兜。
ケレン味のある金の装飾の施された青と赤の分厚い装甲。
太い手足。
そして、ダンの四、五倍はあろうという天を衝く巨体。
その中から紫の声が響く。
「私が与え、旅の中で研ぎすませてきたというその力。貴女がどう磨いてきたか見せてみなさい」
巨体の中心、コクピットの中の紫は言う。
足を組んでシートに座り、操縦幹に軽く手を沿わせる。
「それがあまりに未熟なら」
大地を揺るがしながら、圧倒的な巨体が駆動を始めた。
紫の顔がふいに笑みをたたえる。
「この場で……断つ!! 私のマシン『バルディオス』で!」
巨体のマシン──バルディオスの目の前で、大剣だったダンが飛び上がり人型に変形した。
加速し、突撃する白銀の刃。
「……魂魄妖夢、参ります!」
ダンのコクピットの中、妖夢は起動の聖句を叫ぶ。
そして、紫もバルディオスの中で呟く。
「ウェイクアップ、ダン!」
「チャージアップ、バルディオス」」
ダンの機体全体にG-ER流体の青い光がみなぎり、刀をふりかぶる腕に力が満ちていく。
一方、バルディオスも額のクリスタルを輝かせ、全身からエネルギーのスパークを放つ。
鋼と鋼がぶつかり合い、火花が散る。
「……!」
突撃の速度を込めた、ダンの渾身の一撃。
多くの敵を斬り捨てた刀の一撃は、バルディオスが胸部の三つ叉状のエンブレムより取り出した大剣、『パルサーベル』によって防がれていた。
「なんて遅さ……それでもダンの搭乗者(チェスター)なの?」
かみ合う刃。
しかしその大きさとパワーは比べものにならない。
「マシンってのは、こう操るのよ」
紫の一言とともにダンはいともたやすく弾き飛ばされた。
何とか体制を立て直し、受け身をとるダン。
「すごいパワー……」
手が痺れる。ダンからのフィードバックが、衝突の感触を妖夢に伝えていた。
「まだまだ始まったばかりじゃないの」
紫の言葉とともにバルディオスの肩部と脚部が展開。
現れた砲口がダンを狙う。
「!」
連続する光と爆音、衝撃。
肩部砲口から発せられたエネルギーと脚部からのミサイルが、次々と地面に大穴を開ける。
ダンはそれを走り、転がりながらかわしていった。
だがバルディオスの攻撃は止まらない。
「楽しませてちょうだい」
突き出したパルサーベルが一気に伸び、横薙ぎにダンを狙う。
妖夢はダンを大きく跳躍させてその一撃を避け、前方に着地。機体を走らせてバルディオスの懐に潜り込んでいく。
「へぇ、やるじゃない」
まるで緊張感のない声で言う紫。
その一方で、妖夢は初めて相手にする紫のマシンを前に、気を張りつめていた。
「火力やパワーじゃ勝ち目がない……なら!」
妖夢は左手でスペルカードを取り出し、霊力をそそぎ込む。
「魂魄『幽明求聞持聡明の法』!」
宣言とともに、ダンが分身する。
半霊を用いて分身を生み出す魂符『幽明の苦輪』の強化版ともいえるこのスペル。妖夢はそれをダンに応用したのである。
突撃する二体のダンは、光線とミサイル、パルサーベルの攻撃を避け、時に切り払いながら、バルディオスとの距離を詰めていく。
その狙いは一つ。
巨体の足下。
光線が分身のダンを貫き消滅させるが、本体は無事。
バルディオスの股下を転がって潜り抜けると、振り向き様に足に向かって一撃を繰り出す。
「この大きさです、小回りは……!」
「意外に効くのよね」
「!?」
突然、ダンが巨大な腕にとらえられた。
全く予期しない方向から。
妖夢の頭に一瞬、昼の翠香との戦いがよぎる。
腕はバルディオスの背後をとったダンの、『さらに背後の』空間から伸びてダンをとらえていた。
「これが『私』のマシンってこと、忘れていないかしら?」
「え……?」
きしむコクピットから妖夢はバルディオスを見上げた。
そして、見た。
バルディオスの左腕が、スキマのような空間に入って途中で途切れているのを。
そして、ダンをとらえているのは……。
(左腕!?)
振り向いたバルディオスがダンを思い切り蹴飛ばす。
「が……ぁ」
とっさに両腕で防ぐも圧倒的な質量に吹き飛ばされ、跳ねながら地面に叩きつけられるダン。
あまりの衝撃に妖夢の視界は一瞬、ホワイトアウトする。
それでも妖夢は刀を杖にすぐさまダンを起こした。
「その力、まさかスキマ……」
「当たらずとも遠からずね。ついでに」
紫がそこまで言ったところで、バルディオスの姿が虹色にゆらいで消える。
「消えた!?」
「こういうこともできる」
紫の声とともに、ダンの真上、揺らいだ空間からバルディオスが現れた。
迫る巨大な足。
超重量の踏みつけをダンは転がってかわす。
土と木々が勢いよく吹き飛んだ。
土煙のむこうで巨体が身を起こす。
「これがバルディオスの能力『亜空間突入』よ」
「亜空間…?」
「まぁ、私のスキマに似たようなものね。使うのに専門の知識と繊細な計算がいるけれど、この私にとっては問題足り得ない」
再びその姿がかき消える。
妖夢は身を強ばらせた。
周囲に感覚を走らせるも、どこから来るか全く分からない。
得体のしれない恐怖が妖夢を襲う。
「さぁ、どんどんいくわよ」
橙は走っていた。
どこに向かっているかも、どれだけ走っているかもわからずに、ただぽろぽろと涙を流し闇雲に走っていた。
「おーい」
すぐ側からかけられる声。
しかし橙には聞こえない。
「おおーい」
橙は答えない。
ただ走るだけ。
「聞けってー!」
耳元で大きな声がするとともに、むぎゅっ、と橙の頬が強くつねられる。
「ふにゃぁ!?」
「ムシすんなー!」
涙目で橙は自分の肩を見る。
そこには手のひらサイズの萃香が乗っていた。
「ご、ごめんなさい」
「どこ行く気?」
「あ……」
やっと落ち着いたのか、立ち止まって周囲を見回す橙。
「ここは……?」
「たぶん、さっき里のそばを通り過ぎたから竹林あたりに向かってんじゃないかな」
「ええ? 私、そんなところまで来ちゃったんですか? ど、どうしよう……戻らないと」
「いや、その必要はないかも」
「?」
「今、妖夢が紫に拉致られちゃったから神社に『私』しかいないし」
「な、何で!?」
「私は知らないよ。なら直接聞きに行ってみるかい?二人はそう遠くないところにいるようだからね」
「え…?」
ちび萃香は驚く橙の肩の上で、にいっと笑った。