ねこバナ。 -5ページ目

◎随筆 8月のつぶやき

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ここ2年ばかり、自らの急速な心身の衰えを自覚せざるを得ない。

物忘れや勘違いはまだいいほうで、物事の順序が組み立てられない、文章を整えられない、会話の途中で突然言葉が出なくなるなど、すでに仕事や日常生活にそこそこ影響をきたしている。ご無沙汰しているみなさまにも、なんとか元気な様子をお見せしたいと思いつつ、身体の不調を理由に会いにゆかずじまいで、どんどん人付き合いが悪くなる。

いわゆるコロナ禍で外出が極端に減ったことが衰えに拍車をかけたのだろうと推測するが、それにしてもこの情けなさはどうだ。20代30代の若者と同じようにとは言わないが、せめてもう少しだけ、生活がうまく転がっていくようにならないものだろうか、と無い物ねだりを虚空に向かって呟いてみる。

そんな私を、猫どもは、やれやれと言わんばかりの表情で眺めつつ、午睡を決め込んでいる。

 

 

 

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我が家の二代目猫マルコは、今年の12月で15歳になる。

そして、すっかり「チビ」ではなくなったトットとマメは、先日10歳の誕生日を迎えた。

2年前のマメの尿路結石以来、誰も大きな病気をすることなく、皆そこそこ健康に過ごせているのは下僕として嬉しい限りだ。療法食しか食べられなくなったマメや、柔らかい食事ばかり食べるようになったマルコのために、私はあれこれと頭を悩ませてはいるのだが、それでも大事なく、起きて寝て食べてまた寝る、この繰り返しを彼らが続けていることに感謝すべきなのだろう。もちろんその合間に、とてつもなくへんてこりんな事件を起こしたり、我々家族が脱力して崩れ落ちるほどのギャグをかましてくれることも、私の生きる張り合いになっている。

彼らの生活を守るためなら、多少の辛さがあっても仕事に精を出すし、家内環境を保つためなら、汚されたカーペットやシーツをいそいそと片付けたり洗ったりすることだって、何とも思わない。これが我が家の日常なのだし、たとえ頼りないつっかい棒であっても、その日常を支えているという自覚があれば、私はもう少し生きていけるような気がする。

 

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先代猫ゴン先生が亡くなって15年が経つ。マルコが生まれた年の10月に、彼はこの世を去った。

その年齢に近づきつつあるマルコのお腹をなでながら、ゴン先生の老境を思い出してしまう。こうしてお腹を撫でながら、腸の中で固まったウンチを優しくほぐしてあげたっけ。

ふと、彼らは自らの心身の衰えをどう自覚しているのだろうと考える。マルコは明らかに運動能力が衰えてきて、高い所に飛び乗ることが難しくなった。無理してジャンプするようなことはしないから、そのあたりの自覚はありそうだ。ただ無作法なトットとマメに怒りのシャーを浴びせるのは相変わらずだし、丸めた紙を追いかけていくスピードはなかなかのものである。あえて擬人化するなら、小煩くて気難し屋の遊び好きな爺さんといったところか。

「俺ぁまだ若い!つべこべぬかさず、ほれ、その紙を投げろ!」と、お腹のたるんだ爺さん(人間)に怒鳴られるさまを想像すると、ちょっと面白い。自らの衰えをいちいち確かめながら、そのスピードに落胆するよりも、まるで衰えなどないかのように、快活に無邪気に日々を送るほうが、はるかにましな生き方のように思えてくる。

私もそんな無邪気な爺さんになりたいものだと思ってみるが、どうも私にはゴン先生やマルコのような推しの強さがない。相手の顔色をうかがいながら、おずおずと「あのう、その紙、投げてくれたら、うれしいんですけど...」と頼むのが関の山だろう。

ますます我が身の老境を嘆きたくなるが、いくら嘆いても時間は過ぎてゆくものだし、ここはやはり彼ら猫達の生き方を少しだけ見習って、無理せず日々のんびりだらだらと、自分に都合よく暮らすのがよいかもしれない。

 

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あす8月20日は、先代猫ゴン先生の誕生日だ。

生きていたら32歳。まだまだ世界記録には及ばない。我が家の猫達にはギネスブック登録は望まないにしても、せめてハタチくらいは目指してほしいものだと思う。下僕は嬉々として、長い介護の日々を送るだろう。

ただひとつの不安は、彼らの寿命まで私の身体が保つのか、ということである。彼らの老後を見届けるためにも、日々衰えてゆく心身に鞭打って、いま少し快活に生きなければいけないのかもしれない。勘違いしたり物忘れしたりキャットフードの配合を間違えたりしながら、情けなくとも彼らとともに生きてゆけるのであれば、それが私の、私だけの人生になりうるのだろう。

 

8月はマメとトットに私の連れ合い、そして亡父にゴン先生、たくさんの誕生日が連なる月だ。

家族の来し方と行く末をぼんやりと思う月。いのちの大切さを改めて思い起こす日々。

暑い季節は、もう少し続いてゆく。

 

 

 

 

 

 

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