「うぅーん・・・・・よく寝たわ・・・」
私はベットから体を起こし大きく背伸びをした。
白猫の形をした目覚まし時計を見る。
カチッカチッ・・・と時を刻んでいる。
時刻は7:46。
既にベットには私と抱きついていた熊のぬいぐるみのベアちゃんだけである。
「ふわぁぁぁ・・・・・・眠いわ・・・おはよう・・・」
「おはようこざいます。ご飯できてますよ。闇鈴ちゃん」
黒髪の女性が料理を並べていた。
彼女はシンヤと名乗っている。男の子ぽい名前だが女性である。
白米に具沢山な味噌汁などなど。まさに和の食卓そのものが並んでいた。
「久しぶりに日本に戻ってきたからって・・・張り切りすぎ・・・」
「えへへ」
寝起きにこんな大量のご飯を食べれないわ・・・と遠まわしにぼやく私。
それを察したのか笑うシンヤ。
これが私たちの日常。
ラジオからは軽快なトークが流れる。
美味しいご飯を食べ終えシンヤは用事があると言って出かけた。
私もお仕事しよう・・・。
AM9:35
龍断書店
制服に着替え搬入口に積まれた新刊たちが積み上げられている山の前に居る私。
私はここでお昼過ぎまで働いてしばらく休憩、夜中にコンビニのバイトが控えている。
本当は休みもなく次の仕事に行きたかったけど・・・
「休みはちゃんと取らないと駄目です!」
と怒られてしまい私はこの2つの仕事と"本業"の3つだけになっている。
エプロンの帯と気をしっかり締めて作業を始める。
台車にせっせと乗せて運びだす。私の一番嫌いな仕事。
それを大体のジャンルの地点に積み上げておく。
こうすると次の工程の陳列がやりやすくなる。
10分程で沢山あった本は綺麗になくなり今度は一まとめになっている本をバラし陳列する作業が始まる。
開店まで時間はほとんどない。
私や同僚の人たちも大急ぎで、そして丁寧に積み上げていく。
全ての作業が終わったのは開店3分前だった。
「ふぅ・・・終わったわ・・・」
そうこぼす私。
しかしこの勤務はまだ終わったわけではない。
次に私に任された仕事は見回りだった。
万引きを見つけたり本を探している人の手伝いが主な担当。
「あのーすいません。同人誌ってどこですか?」
「はい・・・こちらです・・・」
最近この薄い本の売れ行きがいいらしい。
R-18の赤いのれんをくぐり同人誌の売り場まで導いた。
「ありがとう。君も中々可愛いね・・・ぐへへ・・・」
「・・・・・褒めても何も出ませんよ。それでは・・・」
こういう人たちばっかりで正直この赤のれんはくぐりたくない。
そう感じながらもR-18地帯から抜け出し、別の見回りをして時間を潰す私。
特に何も起きずに私は退社時間となり、自由時間を堪能することにした。
PM2:45
喫茶・ニューワード
いきつけの喫茶店へ足を運んだ私を迎えたのは、いつものマスターだった。
「大分お疲れのご様子で」
「えぇ・・・あの仕事は苦痛でしかないわ・・・」
愚痴も言いたいけど、マスターに愚痴をこぼしてもしょうがない。
愚痴なら代わりに聞いてくれる変わり者が居るからその人にでもまた話そう。
「今日はどうします?」
「いつものをお願い・・・」
数分後、出てきたのはチョコレートパフェとチョコドリンクだった。
ここのチョコドリンクはチョコを溶かし、特殊な製法で喉越しを良くした特注品。
甘党な私の大好物2品をいつもここで食べる。
今頃シンヤもご飯を食べ終え別の用事をしているのかな・・・。
「近頃変な事件が横行しているみたいですよ」
「変な事件・・・?」
マスターから話を聞くとシンヤの住む地域では銃を突きつけて金品を奪う強盗が多発しているらしい。
警察も全力で捜査しているが被害者は増える一方・・・とのことらしい。
「あなたの出番ではないでしょうか?」
「・・・そうね。次の標的がシンヤになっては私が困るもの・・・裁いてきたほうがいいわね・・・・・・」
深夜のコンビニの仕事の前に本業が組み込まれた。
完食して御代を払い私は犯人とご対面しにいくことにした。
PM7:52
路地
かなりの頻度でここに強盗が現れるらしい・・・・。
適当にフラフラと歩いてみる。
1時間が経過し犯人どころかであったのは野良猫が数匹程度だった。
「むぅ・・・・・今日は日が悪かったのかな・・・」
そのとき後ろから足音がした。
カツン・・・カツンと革靴のような足音。
私はその足音の主から欲望を感じ取り身構える。
間違いない・・・犯人だ。
野良猫をなでてその人物の動向を探る私。
犯人は私の後ろにまで歩いてきた。
「お嬢さん、何してんのかな?」
犯人が話しかけてきた。
「・・・猫と遊んでるの・・・」
私は素直に応えた。
「そんな獣よりも俺と遊ぼうぜ!さぁ!」
拳銃の銃口が私の後頭部に突きつけられたのを感じた。
聞いたとおりの手口で少々嫌気が差す。
「猫は神獣ね・・・癒されるわ・・・。でもあなたのような悪い獣は退治してしまわないと・・・」
「何をほざいてやがる!」
「その拳銃・・・既に3人撃ち殺している代物ね・・・犯人はあなた?」
顔は見れないものの動揺しているのが見て取れる。
撫でていた猫に逃げるように念じ、それが届いたのか猫たちは傍の小さい穴から走り去っていった。
「強盗で足がつかないように人通りの少ないところで発砲したのね・・・・・・被害者はかわいそう・・・」
「てめぇは自分の立場がわかってねーのか!」
ぐいっと銃口で私の頭を押す犯人。
やはりシンヤが犯人に遭遇してなくてよかった。
先走って怪我しては大変だもの・・・。
「あなたはとても罪深いわ・・・しかも懺悔をするどころか罪を重ねている・・・」
「気持ち悪いな!さっさと金よこせよ!」
「・・・・・・やはり救いようのない罪人・・・ということね・・・」
私が魔法陣を起動させたのと犯人の発砲はほぼ同時だった。
両側の空間から鎖が犯人の両腕を締め上げる。
発砲された弾は頭から外れ私の肩に当たる。
「何だよこれ!」
犯人がわめく。
「いたっ・・・」と小さな声を上げ肩から出血している私はここで始めて向き直る。
30代の男が空間から生えるように伸びている鎖に両腕を縛られていた。
「どこで道を踏み外したかは知らないわ・・・でも・・・あなたに罪を償う気がないのなら・・・」
私は次の魔法陣を発動させた。
犯人の真下に禍々しい空間が生まれた。
女々しい悲鳴を上げる犯人に私は最終審判を申し渡した。
「私はあなたを裁くわ・・・・・・さようなら・・・」
鎖が消滅し自由落下していく犯人。
悲鳴と共にその空間へと堕ちる犯人に私は罪悪感を抱きながらも見送るしか出来なかった。
私は人間ではない。死神である。
一般生活に溶け込み罪深い人を救済したり、あの犯人の様に救えない存在を審判者の下へ送るのが"本業"の
お仕事である。
送られたあの男の辿る道は審判者によって全て決定される。
もう私の仕事は終えた。
「はぁ・・・また体を傷つけてしまったわ・・・シンヤに怒られちゃう・・・」
さっき逃げ出した野良猫が私に擦り寄ってくる。
私は猫に「また来るからね」と告げて家に戻った。
PM10:01
シンヤ宅
「ただいま・・・・・・」
肩を血ですっかり赤く染めて帰ってきた私。
「おかえりなさ・・・・どうしたんですか!?その怪我は!」
「・・・銃で撃たれただけよ。気にしないでいいわ。後は4時までコンビニで仕事があるから・・・・・」
ぎゅーと後ろから抱きつかれる。
「もう無理しないでください!銃で撃たれたって・・・大変なことですよ!早く手当てしないと・・・」
優しく暖かいシンヤに抱かれ私の我慢も限界を向かえ泣き出してしまった。
死神とはいえ痛みを感じないわけではない。むしろ激痛に必死に耐えていた。
表に出さないように頑張っていたが・・・シンヤの前ではそれは無意味だった。
「シンヤ・・・私は・・・怖かったの・・・とても怖かったの・・・」
泣きながらシンヤの胸に顔をうずめる私。
それをシンヤは頭を撫でてくれた。
数分後私はシンヤの応急処置を受け病院へ行くことにした。
バイト先には少し遅れる旨を伝えている。
流石に銃で撃たれて病院に行くとは言えないので病気で・・・と言っておいた。
「もうこんな無茶はしないでくださいね」
「・・・・・・それは・・・約束できないの・・・」
「そうですか・・・でも、約束してください。怪我だけはしないでください。」
「・・・うん、善処するわ・・・」
肌寒い空を寄り添いあって歩く私たち。
結局病院で安静にと言われたのでバイトは休む羽目になった。
しかし久しぶりにシンヤと一緒にすごすことが出来た。
「もし・・・私が消えたらシンヤはどうする・・・?」
「えっ?」
「ううん・・・なんでもない、シンヤ・・・お腹すいたわ・・・」
「分かりました。美味しい物作りますからね!」
「お願いね・・・楽しみだわ・・・」
今日は・・・とても大変で、でも幸せな1日だった。
こんな日がいつまでも続いてくれればいいな・・・と私は願った・・・。
それから数日が経ち警察は犯人を特定、全国に指名手配された。
その犯人はこの世に存在しないことを告げたいがややこしくなるので言わないで置いた。
闇鈴の日常 終わり。
