〈最期の言葉〉を考えるのも終活のひとつに

 

 暖かくなり雪解けも進んだので、久しぶりに実家に行ってきた。
 見慣れないわたしを警戒して近寄らなかった実家のニャンが、

今日はソファの上でのんびりと寝ている。

「この人は怪しい人じゃない」と少し信用されてきたのかな。


 何やらモノクロ映画のDVDが10枚ほどあったので母に聞くと、

私の兄から贈られたものだという。
『地上より永遠に』『レベッカ』は20代の時に見た。

まだ見ていないのは『市民ケーン』。

借りて帰って、じっくり見ることにした。
 だが、帰宅後、気がついた。Amazonプライムビデオで見られるのだった。

 

 

 


『市民ケーン』はオーソン・ウェルズの監督デビュー作。

1941年の公開。映画史に残る名作といわれているのに、

50代半ばになるまで見ていなかった。

 新聞王ケーンの亡くなるシーンから映画は始まる。

死の間際につぶやいた〈バラのつぼみ〉とはいったい何なのか。
 若くして大金持ちになったケーンは、大統領の姪と結婚する。

しかし政治の世界に乗り出そうというところで自身の

スキャンダルから政治生命は絶たれ、離婚。

別の女性と再婚するも、これも破綻。

彼の求めていた幸せとは、どんなものだったのか。


  回想シーンを交えながら、謎ときは進んでいく。

〈 バラのつぼみ〉の謎はラストで明かされるが、

それを知るのは観客だけという、あーうまいなー。


 モノクロ映画だからこそ、想像するバラの色彩がより生きてくる。

色や形、大きさ。そもそも本物のバラ? 譬喩? 

観客それぞれに思い描く余地を与える演出だ。
『インディー・ジョーンズ 失われたアーク』や『ハリー・ポッター』を

思い出すシーンもあったりして、この映画が後世に与えた影響が

どれほど大きかったか、名作といわれるゆえんに納得する。


 わたしはこれをAmazonプライムで見たので、

謎の答えを確かめるために映画を最初から見直したのだが、

うまく隠してある。

映画館で見ていたら、「あー、そうなのか」と

深い余韻に浸りながら帰途についたことだろう。


 『市民ケーン』の脚本ができるまでの過程を描いたのが、

『Mank』(2020)。主演はゲイリー・オールドマン。

くれぐれも、この映画は『市民ケーン』を見たあとに見てほしい。

〈バラのつぼみ〉の謎がサラッと明かされていた。

そんなに簡単に言っちゃうんだ、と驚いたくらいだ。
 自分だったら、最期の言葉は何だろう。謎めく言葉を用意するべきか。

ラストの感動とともに、自分の子どもの頃を思い返すのだった。