大阪万博で「中国製EVバス」不具合頻発! 自動運転未熟&補助金制度の甘さが露呈――業界構造の歪みを問う
万博EVバスの技術課題
大阪・関西万博(大阪万博)は2025年10月13日、閉幕を迎える。万博の“象徴”のひとつとされていた電気自動車(EV)バスで、相次ぐトラブルが発生した。マスコミでは縁石への接触や運行停止などが報じられてきた。
万博に合わせ、森ノ宮地区では未来のモビリティ体験をテーマに「e METRO MOBILITY TOWN」が運営された。森ノ宮駅や京橋駅からは、レベル2自動運転の路線バスが走行した。しかし、筆者(西山敏樹、都市工学者)が訪問した2回はいずれも自動運転が作動せず、有人運転で運行されていた。この点は重要である。有人の電動バスとしては問題を起こしていないからだ。
従来の報道では、中国製のEVバスに問題があるかのように伝えられていた。しかし実際の原因は、
「自動運転技術の不具合」
にある。EVバス自体は、有人運転では安定して走行していた。電動バスに期待される自動運転は、技術面でまだ完成度が低いことを示している。
それでも万博で注目を集めたのは、輸入EVバスだった。
・品質の低さ
・補助金制度の甘さ
という二重の課題がある。この点は、
「EVバス単体の性能評価」
とは区別して考える必要がある。今後は、国内外での試験や補助金制度の適正化を通じ、輸入EVバスの品質改善と安定運行を両立させることが求められるだろう。
自動運転と車両の接点
2025年4月28日、大阪万博会場北側の舞洲駐車場で、自動運転機能を搭載したEVバスが事故を起こした。ドライバーが手動で停車させた後に離席した際、バスが動き出し、高さ約50cmのコンクリート壁に接触した。乗客はおらず、ドライバーも負傷はなかった。
1か月後の5月30日付読売新聞では、電気システムのトラブルでサイドブレーキが作動せず、事故が起きたと報じられている。さらに7月21日には、万博会場から舞洲の駐車場に向かう自動運転レベル2のシャトルバスが道路の縁石に接触する事故が発生した。
自動運転バスは、
・地図情報
・車両位置のデータ
を照合しながら走行する。7月の事故では、システムが次の地図情報を読み込む際に処理が遅れ、バスの正確な位置を認識できなくなったことが原因とされる。
これを受け、大阪メトロは情報処理手順を見直し、負荷を低減する対応を行った。バスが正しい位置を走っていない場合には、モニター上でドライバーが手動で介入できるアラートを出す仕組みを導入している。7月の事故も自動運転システムに問題があったことが容易に想像される。
4月の事故についても、EVバス供給元のEVモーターズ・ジャパン(福岡県北九州市)は6月13日、調査結果を声明文として公表した。Osaka Metroとともに事故原因を調査した結果、未改造の車両についてはそのまま使用しても問題ないと結論付けたという。
自動運転トラブルの原因を追究するには、
・車両本体
・自動運転システム
・両者のインタフェース
を総合的に確認する必要がある。報道ではこれらが混同されることもあるが、大阪万博でのトラブルは、自動運転システムとEVバスの接続部分に着目するのが妥当である。
中国製バスの日本導入史
自動運転システムを搭載するEVバスには、車両側の高い品質も求められる。問題はEVモーターズ・ジャパンのEVバスに、他にも深刻な不具合が報告されていることだ。
筑後市のスクールバス4台では、
・走行中の原因不明の停止
・回生ブレーキの制御不具合
が発生した。始動時にクラクションが鳴るトラブルもあった。同社の他のEVバスでは、制御系統の不具合や部品の損傷・脱落も確認されている。
2025年9月5日の中野洋昌国土交通大臣の会見では、モーターのフランジ破断による駆動輪のロックや横転の可能性も指摘された。日常利用に耐えない問題として、9月3日付で同社に対し、車両全般の総点検、委託製造先の中国メーカーを含めた品質管理体制の見直しが指示された。
こうしたトラブルは重大な人身事故につながる恐れがある。大量導入が進めば、高齢者や障がい者、子どもやその保護者など公共交通利用者への影響も大きい。
EVモーターズ・ジャパンは2019年設立で、わずか数年で全国に300台超のEVバスを納入した。大阪万博の影響もあり、190台が導入されている。
・伊予鉄バス
・那覇バス
・阪急バス
・富士急バス
などの主要事業者にも納車されている。同社は国内生産をアピールするが、実態は
「輸入依存」
である。これらのEVバスは、中国のWISDOM、KINWIN、VAMOといったメーカーが製造する。
比較すると、中国・比亜迪(BYD)のEVバスは500台超が導入されているが、10年以上トラブルは少ない。海外製EVバスの導入は、2008(平成20)年頃はメンテナンス支援体制の脆弱さで敬遠された。しかし支援体制の整備と品質向上により、BYD製バスは日本市場に受け入れられ、各地で利用が増えている。
輸入EV車審査の課題
輸入EV車の審査では、大幅な緩和措置が行われている。排ガスのテストは不要で、カタログ数値だけで審査が通る仕組みになっている。環境省の補助金制度でも、実車の審査がなく書類だけで交付される例がある。こうした運用に疑問が残るのは当然だ。
大型シティバスの例を比較すると、2023年公募の環境省の商用車電動化促進事業資料が参考になる。脱炭素推進の補助金では、市場で実績のあるBYD・K8には
「1台あたり1235万1000円」
が支給された。これに対し、EVモーターズ・ジャパンのF8 series2-City Busは
「1台あたり1348万4000円」
と、実績が乏しいにもかかわらず高額となっている。10.5m級のサイズで比較しても、新興企業の安全性が十分確認されていない車両に高額補助が出る現状は、適正な価格評価基準が不透明であることを示している。
筑後市のスクールバス4台でも、総額7188万円の補助金が交付されている。さらに問題なのは、トラブルや運行停止があっても
「補助金の返還や減額が行われない点」
だ。現状の日本の補助制度では、不合理な事例が横行しており、EVバス市場の信頼性に疑念を生じさせている。
地方事業者の苦悩
国は脱炭素とEV推進の旗印として、大阪万博を契機にEVバス導入を急いでいる。純粋な国産EVバスとなると、ほぼいすゞのエルガEVしか選択肢がない。補助金制度ではZAC-LV828L1に2775万円の補助が出る。実勢価格は約6700万円で、バス事業者は約4000万円を自己負担する必要がある。
筆者の取材では、大都市圏の事業者でも
「輸入EVからエルガEVに切り替えたい」
と考えるところは少なくない。理由は
・メンテナンス支援体制の充実
・長年の取引による信頼感
である。日産ディーゼルのバス事業撤退以降、国内メーカーは事実上、いすゞと日野・三菱ふそうの2勢力になった。多くの事業者がエルガEVにシフトしており、EVも同様の考えが広がっている。
しかし、現状では生産能力、つまりJ-BUSのラインひっ迫が懸念される。一方で、中国メーカーの短納期・低価格への依存が続く可能性も否めない。大都市圏以外の事業者には、EVモーターズ・ジャパンの10.5m大型路線バス、5000万円前後の価格は魅力的に映る。BYDのK8は実勢で4000万円を切る勢いだ。
多くの事業者にとっては、品質よりも
「数を揃えること」
が優先される。地域にEVバスを投入して社会貢献を示すことが重要になる。地方都市の事業者は、エルガEVの品質を高く評価するが、持ち出しが大きく導入が難しいと感じている。BYDのように日本市場に合わせた改善や信頼性重視の低価格路線を採るメーカーが出ても、業界の国内メーカー信奉は依然強い。
国内メーカーがEVバス市場を本格的に担うことに期待はある。しかし現状の技術力と供給体制を考えると、エルガEV一択になるのはやむを得ない状況だ。
国内メーカー支援強化
構造改革に向けては、まず審査制度の厳格化が必要である。EVバスもCEV補助金と同様に実車テストを義務化し、走行や充電の検証を第三者機関で行うべきだ。人が乗る車両を実車確認なしで運行することは許されない。
補助金制度も成果連動型に改める必要がある。
・日本国内での貢献度
・実車の安全稼働率
・不具合件数
を基準に補助額を決めることで、バス事業者がより適切な選択をできる。評価の低い車両に補助を出すより、評価の高い車両への補助を増やすほうが合理的だ。使用停止が一定期間続いた場合は返還を義務化し、補助金の評価基準を明確にすべきである。
国内メーカーの支援も欠かせない。筆者は大学で電動バスの研究開発に携わり、ビジネス化の可能性も検討してきた。その経験から、
「国内メーカーの生産ライン増設への投資支援」
は不可欠だと考える。さらに地方自治体や電力会社との連携を前提に新規メーカーを育成すれば、産業化も視野に入る。鉄道車両メーカーの新規ビジネスとしてEVバス分野は有望であり、国内の公共交通事業者へのマーケティング機会も広がる。産業全体の成長と技術蓄積にもつながるため期待は大きい。
透明性の確保も重要である。補助金交付額や対象車両の詳細を公開し、トラブルの内容や件数も分かりやすく示すことで、社会的な抑止力として機能する。さらに国がトラブル件数を集計・公表すれば、事業者は安全で信頼性の高い車両を選ぶための情報を得られる。透明性と成果連動を組み合わせることで、EVバスの普及はより安全で効率的なものになるだろう。
質で競うEV導入戦
大阪万博の終了後、少子高齢化の進展もあり、自治体のスクールバスやコミュニティーバスへのEV導入はさらに加速するだろう。小型EVバスも含め、国産メーカーが供給能力を拡大できれば、日本市場は輸入依存から脱却できる。品質面での心配も軽減される。
京都のプリンセスラインのようにBYDを積極導入する事業者もあるが、これは品質が向上しつつあるメーカーを適切に選んでいると考えられる。今後は、国産のいすゞと、品質向上が進むBYDの競争が本格化すると見られる。業界全体、すなわちバス事業者とメーカーは、導入を「量」ではなく
「質」
を基準に整備しなければならない。そうしなければ、公共交通のバス事業そのものの信頼が根本から揺らぐことになる。
大阪万博を機にEVバスは注目を集めた。しかし
・補助金制度の甘さ
・輸入依存体質
・国内生産基盤の脆弱さ
という三重の課題は、自動運転との技術融合が期待されるなかで早急に克服する必要がある。信頼性を確保する仕組みを構築できれば、EVバスは持続可能な公共交通の中核となり得る。