能登半島地震で起きた1000年に1度の規模とも言われる海底隆起。総延長が石川県珠洲市から志賀町の沿岸部約85キロに及び、陸地化した面積は約4・4平方キロとされる。この新たな陸地をどう活用するのが良いのか。能登の観光資源の被害状況を調査した金沢大観光デザイン学類の川澄厚志准教授(観光まちづくり)に聞いた。【聞き手・萱原健一】

 ――石川県は創造的復興プランで、隆起地を「後世に伝えるべき歴史的・文化的価値を持つ遺構」とし、「ジオパークなど震災遺構の地域資源化」などの案を示しています。

 ◆国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界ジオパークを目指すなら、半島全体の認定を目指さないといけません。認定されれば、今回の地震の大きさを伝える重要な装置となるでしょう。1000年に1度とされる規模の隆起が生み出した新たな景観をガイドするツアーなどは、インバウンドも含め観光客に注目されそうです。

 ――復興ツーリズムとして活用する場合、必要なことは。

 ◆その土地の歴史や文化をどう組み合わせるかを戦略的に考えていかねばなりません。例えば、最大約4メートル隆起した輪島市門前町の黒島地区は、江戸から明治時代にかけて北前船の船主や船員の居住地として栄えた歴史があります。こうした歴史やその土地の人の営みと関係の深い場所を選んで観光スポットにするとよいでしょう。今後復旧していく漁港から比較的近い隆起地点なら、港に来た人に、併せて隆起を見てもらう相乗効果も狙えるのではないでしょうか。また、観光を通して防災教育に活用することも可能でしょう。

 ――珠洲市では、長期間にわたり居住が見込めない集落の住民が、隆起地に災害公営住宅を整備するよう市などに求めています。

 ◆隆起した土地が法律上、国の所有になるのなら、道路や住宅など生活再建の場として活用する提案もあり得るでしょう。ただし、外浦と内浦では環境が違うので、その土地ごとの特色を見極めながら活用策を探る必要があります。特に外浦は冬の海が荒々しく、地盤や海抜からの標高の問題が出てくる恐れがあります。その場合には、防潮堤の整備が必要で、設備投資にコストはかかるでしょう。

 ――円滑に活用するためには。

 ◆官民双方が話し合いながら可能性を探るべきです。地域の人や民間が声を上げないと、行政も動きにくいでしょうし、一方で法的な手続きは行政が関わらねば進みません。また、円滑に進めるには、公共性の高い事業かどうかがポイントになってくるでしょう。

被害状況、研究所HPで公開

 金沢大学先端観光科学研究所は、能登半島地震で大きな被害を受けた志賀町以北の6市町(珠洲市、輪島市、能登町、穴水町、七尾市、志賀町)の名所や史跡など計218件の被害状況を調査し、ホームページ(HP)で公開している。損壊状況を全壊▽半壊▽一部被害▽無被害――の4段階で示し、現場の写真も添付している。

 調査は2月9日~6月8日に計17回実施。自治体のHPや観光パンフレットに記載されている観光地や石川県指定の登録文化財、能登の伝統文化として酒蔵も対象とした。調査の結果、観光資源全体の7割超が被災していたことが判明。調査に当たった金沢大観光デザイン学類の川澄厚志准教授は「能登の復興を担う官民の関係者や研究者らに見てもらい、基礎データとして活用してほしい」と述べた。【萱原健一】