マスコミはまた間違えるのか…「トランプ低迷、ハリス躍進報道」のウラで、民主党の「不都合な真実」が明らかになっていた!

最も不人気な候補が「人気絶頂」の奇々怪々

「ハリス猛攻で米国民熱狂」

「すべての激戦州でトランプをリードして引き離し」

「立場が劇的に逆転、トランプは焦り戦々恐々」

「選挙の潮目が変わり振り出しに戻った」

「尋常ではない盛り上がり」

トランプ氏当選がほぼ決まったとする「ほぼトラ」予想は米メディアから消えた。代わって、ハリス氏が極めて優勢とする「ほぼハリ」へと雰囲気が一転している。

カマラ・ハリス副大統領 Photo/gettyimages

カマラ・ハリス副大統領 Photo/gettyimages© 現代ビジネス

今秋11月5日に投開票が行われる米大統領選挙は、7月21日に現職のジョー・バイデン大統領が撤退を表明した後、それまで世論調査の支持率でリードを保ってきたトランプ前大統領を、バイデン氏に代わって民主党の大統領候補に指名されたハリス氏が圧倒的な勢いで逆転し、波乱含みの展開が続いている。

よく考えると、これは極めて興味深い現象だ。なぜなら2021年1月の就任以来、ハリス副大統領には一貫して好ましくない評判が付きまとってきたからだ。この不人気の候補者がなぜいま、「ほぼハリ」と言われているのだろうか。

ハリス氏のこれまでの評価を見ると、「ジェンダーと人種の属性のみで選ばれた、実力を伴わない副大統領」「手柄を挙げられない」「バイデン氏や自身の支援スタッフといざこざを起こしてきた」など、ネガティブな印象が支配的だった。

実際に、1000人の有権者を対象にした6月のNBCニュースの世論調査では、ハリス氏に対して肯定的な見解を持つ回答者がわずか32%であったのに対し、ほぼ半数の49%は否定的な意見を持っていた。

バイデン大統領とハリス副大統領 Photo/gettyimages

バイデン大統領とハリス副大統領 Photo/gettyimages© 現代ビジネス

バイデン氏撤退直後の7月21~23日に1605人の有権者を対象に実施された英エコノミスト誌とユーガブの共同世論調査でも、ハリス氏の支持率は42%とトランプ氏以下で、不支持率に至っては過半数の51%に達していた。

そのためハリス氏は、「米史上最も不人気な副大統領」と酷評される存在であった。

トランプ前大統領とハリス副大統領の直接対決という設問でも、支持率がバイデン氏よりも軒並み悪く、トランプ前大統領に完敗していたのである。

ところが、顕著に不人気であったハリス副大統領の支持率が、7月の立候補後に今年2月から10ポイントも上昇した(ニューヨーク・タイムズ紙とシエナ大学の共同世論調査)。そして、各世論調査で50%に近い支持率を獲得してトランプ氏を大きくリードし、「ほぼハリ」が言われるようになった。では、何が支持率急上昇につながったのだろうか。

 

信用できない世論調査

ハリス氏の支持率上昇は、「ご祝儀相場」で当初3~4ポイントほどジャンプして、さらに彼女の人となりや政治的信念が複数の記者会見で国民にしっかりと伝わって、数ヵ月の時間をかけてじわじわと10ポイント上昇したものであるなら、合理的な説明がつく。

だが、民主党の大統領候補になることが決定して以降1ヵ月の間、メディアとのインタビューから逃げ回り、政見や実像もよくわからないハリス副大統領が、突然に全米の期待を一身に集めるようになったという物語(ナラティブ)には不審な点がある。

ニューヨーク・タイムズが8月13日の記事でまとめた、接戦州で実際に大統領選において投票する確率の高い、新規に所属政党を表明した登録有権者数の推移によると、東部ペンシルベニア州では赤棒で示された共和党への登録が2月以降コンスタントに増加し、トランプ氏暗殺未遂後の共和党全国大会で3000人近くに跳ね上がっている(下の図)。

(ニューヨーク・タイムズ紙)

(ニューヨーク・タイムズ紙)© 現代ビジネス

一方、青棒の民主党登録者は2月以降ほとんど増えず、バイデン氏撤退後に数百人単位で増えたのみ。世論調査のハリス支持率急上昇に見られる「大熱狂」は確認できない。

「ほぼハリ」はミスリーディング

世論調査で報告される支持率と実際の投票行動の不一致については、リベラル系のメディアが世論調査の信頼性についての「ファクトチェック」を行っている。

まず米国の世論調査では、固定電話や携帯電話、さらにウェブ上で回答志願者を募集する「オプトイン方式」などを組み合わせて実施されているのだが、スマホへの電話に回答する、あるいはウェブ調査に志願する人たちは民主党支持者あるいはリベラルな傾向のある人が多いことが知られている。

さらに、保守的な回答者が多い固定電話でも、トランプ支持者は応答しない率が高いなどの傾向が報告されている。

ニューヨーク・タイムズのネイト・コーン政治チーフアナリストは8月16日付の論評で、「候補者の実際の得票数と世論調査で得られた支持率を比較すると、ニューヨーク・タイムズ紙とシエナ大学の共同世論調査は2016年以来、トランプ氏の支持率を常に大幅に過小評価してきた。結局、どの世論調査や調査方法が正しいのかは、投票の結果が明らかになるまでわからない」という、驚くべき結論に到達している。

そうであるならば、メディアが世論調査の結果をもとに「トランプとハリスの立場が劇的に逆転」「選挙の潮目が変わり振り出しに戻った」と断言して報じるのは、ミスリーディングであろう。せいぜい「逆転の可能性」「潮目が変わりつつあるかも知れない」としか言えないはずであるからだ。

Photo/gettyimages

Photo/gettyimages© 現代ビジネス

ハリス氏は、本当にこのまま大統領になれるのだろうか。

さらに後編記事『アメリカ大統領選に異変が…!大人気ハリスに「防戦一方のトランプ」が、実は虎視眈々と狙う「選挙最終盤の大逆転劇」』では、ハリス氏が決して優勢とは言えない理由を、アメリカ経済の実態に即して考えていこう。