「さらば南洋! さらば戦友!」安斎晃さん パラオの「墓守」写真集に

「さらば南洋! さらば戦友!」安斎晃さん パラオの「墓守」写真集に© 読売新聞

 表紙に写るのは、パラオの青緑色の海をわたる在りし日の倉田洋二さんの姿だ。倉田さんは、約1200人の日本軍守備隊が玉砕したパラオ・アンガウル島の数少ない生き残りの一人で、戦後勤めた東京都庁を定年退職後、パラオに移住。「帰国を果たせなかった仲間のため」と同島に建てられた慰霊碑などをボランティアで管理する「墓守」を務めた。この本はそんな倉田さんの姿を追った写真集だ。

 著者が読売新聞でカメラマンとして働く中で、倉田さんと最初に会ったのは1987年。「南洋の海洋生物について情熱的に話をしてくれた。戦争の話はそんなに聞かなかった」。ところが、94年に同島で一人で慰霊を行う倉田さんに同行し、かつて立てこもった陣地に酒やたばこを供え、戦友の名を叫ぶ姿を見て衝撃を受けた。「この人の中にある『戦争』を知りたいと思った」

 

「この人の中にある『戦争』を知りたい」

 求めがあれば倉田さんはパラオ中の戦場跡を案内した。地権者から慰霊碑の移転を求められた際には、地元の州政府に掛け合い、公園を整備した。その公園が台風で壊滅的な被害を受けた後も、中心となって再建に努めた。悠々自適の余生をおくれたはずが、なぜそこまでするのか。「常に戦友のことが頭にあり、生き残った自分がやらなくてはとの思いがとても強かった」

 交流は、2019年に倉田さんが92歳で亡くなるまで、30年余り続いた。倉田さんの生き方を知ってほしいと、自身の退職後、写真集として刊行することを思い立った。

 著者自身、伯父を2人、戦争で亡くしたこともあり、入社以来、戦争に関する取材に意識的に取り組んできた。それでも「倉田さんほど戦争を背負っている人に会ったことはなかった」と振り返る。終戦後も個々の中で「戦争」は終わっていなかったことを、この本は伝えている。(四月社、3850円)前田啓介