小泉純・橋下両氏に並ぶ「SNS時代」のトリックスター

泉 宏 : 政治ジャーナリスト

2024年07月17日

東京都知事選での大躍進で一躍「時の人」となった石丸伸二・前広島県安芸高田市長が、選挙直後から連日連夜のテレビ出演で、お得意の「石丸構文」も駆使して、お茶の間に話題を提供し続けている。

「現職・小池氏圧勝、石丸氏2位、蓮舫氏3位」という選挙結果を受け、各情報番組がこぞって石丸氏にゲスト出演を要請。「テレビメディアを敵視」する石丸氏も積極的に応じ、各番組のコメンテーターや他のゲストらと丁々発止のやり取りを展開して、視聴率稼ぎにも貢献している。

石丸氏の今後の政治的立ち位置は…

その中で最大の注目点は、石丸氏の今後の政治的立ち位置。選挙直後の記者会見などで、その選択肢として①国政挑戦②都知事選再挑戦③広島県知事選出馬――などが取り沙汰されたことで、多くの政界関係者が、変幻自在の石丸氏の言動に色めき立つ。

特に、冗談交じりともみえた「衆院広島1区で岸田文雄首相に挑戦」発言は、岸田首相周辺だけでなく中央政界全体にも大きな波紋を広げた。「もし現実となれば、次期衆院選で最大の注目区となるのが確実」(選挙アナリスト)だからだ。

その一方で、今回の石丸ショックは「都知事選という特殊なお祭りが生んだ一過性の事態で、熱狂が醒めれば、すぐ“過去の人”になりかねない」(政治ジャーナリスト)との見方も。さらに、多くの政界ウオッチャーの間では「SNS選挙時代突入で生まれた、小泉純一郎元首相、橋下徹元大阪市長に比肩する“トリックスター”」(同)との分析も多く、永田町では「“大化け”か“オワコン”かは、今後の石丸氏の一挙手一投足を見極めるしかない」(同)との期待と不信が入り交じる複雑な反応が広がる。

そうした状況も踏まえ、元NHK記者でジャーナリストの岩田明子氏が12日夜の「BSフジ・プライムニュース」で石丸氏の今後を予測。その中で「広島1区出馬」について「ものすごいパワーワード。岸田政権への逆風の中、痛快な……というか。勧善懲悪的なというか」と刮目してみせ、「昔の小泉さんの郵政選挙的な発想というか。これはインパクトのある1つの選択肢だとは思う」と、小泉純一郎元首相との類似性を指摘した。

その一方で、「今回、東京を良くしたい、東京を動かすということで、165万票も集めたわけで、その思いを大切にするのなら、常識的には次にもう一度チャレンジする(べきだ)と」と、4年後の都知事選への再出馬を予測したうえで、「その間に参院議員選挙に東京で出るとかいうのは、オーソドックスな考え方かも」と分析した。

開票後の「挑発的発言」で反発急拡大

これに先立ち、石丸氏の発言や態度が物議を醸したのが、都知事選開票直後の民放各局の連続的インタビュー。トップバッターの日本テレビのインタビューで、同テレビ解説委員から、石丸氏が「党利党略、自分第一」と批判する「政治屋」という言葉の意味について、「東京をよくしたいというだけではなく(出馬するのは)国政でもいい、広島でもいいというのは政治屋とは違うのか?」と突っ込まれると「自分が当てはまっていたら、洒落にならない」と笑いながら返答。さらに社会学者の古市憲寿氏が「批判する政治屋と石丸さん自身がどう違うのか?」と追及しても「なんか堂々巡りになっている気がする、先ほど定義についてはお話しした」などとはぐらかして時間切れに。

これに続くTBSの中継では、同局アナウンサーの「(2位に浮上した)要因はどのように、とらえているか」と質問に「結果はあくまで都民の総意が可視化されただけ」と返し、コメンテーターに「善戦したという受け止めなのか?」と聞かれると「なんという愚問」と回答を拒否した。さらに、フジテレビの『Mr.サンデー』でも同様な“塩対応”を繰り返していたが、橋下徹・元大阪市長には笑顔で丁寧に回答するなど「相手次第で敵味方を選別」する態度も目立った。

これを受け、一連のインタビューの映像がX(旧ツイッター)上で拡散されると、SNSでの石丸氏への批判が急拡大。「終始挑発的な受け答え。こんな人が国政に出て来ると思うと恐怖しかない」「不機嫌と言葉の圧で有無を言わせない過去のパワハラ上司を思い起こさせ辛くなった」などの書き込みが相次いだ。

「女子供」「一夫多妻制」発言も大炎上

特に、石丸氏がフジテレビに出演中、「女子供」という表現を使ったことが問題視された。やり取りの中で「女、子供に容赦をするっていうのは優しさじゃないと思っている」と説明したためで、石丸氏は「前後を聞いてもらえば……」と釈明したが、「女性らを下に見ている」としてネット上でも大炎上となった。

こうした一連の石丸発言を巡る大騒ぎの終着点となったのが都知事選から1週間後の14日午後に放送された読売テレビ「そこまで言って委員会NP」での質疑応答。パネリストが、衆院議員や兵庫県明石市長を務めた弁護士の泉房穂氏、作家の竹田恒泰氏、元参院議員でタレントの田島陽子氏、元都知事の舛添要一氏らという「強力メンバー」で、石丸氏は「コーナーゲスト」として“緊急参戦”した。

その中で泉氏が「日本をどう変えていきたいのか」と質問すると、石丸氏は「人口減少への危惧」を挙げ「ほとんどの方は知っている話のはずですが、その危なさになぜか気づけていない」と断言。田嶋氏が「どういう具体的なことを考えているか」と迫ると「いまの社会の規範では無理だが、例えば、一夫多妻制を導入するか、遺伝子的に子どもを生み出すとか」と発言すると、居並ぶパネリストは呆れ顔となり、ネット上でも「一夫多妻制」がトレンド上位となった。

その後、地方都市の首長として大きな実績を誇る泉氏が、同じ首長だった石丸氏の実績を疑問視して白熱のやり取りを展開したが、両氏がそれぞれ実施した子育て支援策などを巡る論戦は泉氏が圧倒し、石丸氏は言葉に詰まり下を向くケースが多かった。

同番組終了後、泉氏は14日付けのⅩで、開票特番での一連の石丸発言について「(石丸氏が反発する)忖度やおもねるといった問題ではなく、質問にまともに答えず、マウントを取ろうとする姿勢が政治家としてどうか、と問われているのだと思う」と厳しく指摘した。

支えた“選挙の神様”も、「熱狂は一回限り」と喝破

そうした中、石丸氏自身は一連の“問題発言”について「すべてを聞いてもらえば、理解していただけるはず。一部を切り取って批判するのはおかしい」と力説する。ただ、今回の“石丸ショック”を取材したジャーナリストらの多くは「そもそも、発言の一部を切り取ったものを、支持者にSNSで拡散してもらって成功したのが石丸氏なので、まったくの自己矛盾」(夕刊紙幹部)と厳しく指摘する。

今回都知事選で石丸陣営の選対事務局長を務めたのは、永田町で「選挙の神様」との異名も持つ藤川晋之助氏。その藤川氏も13日の朝日新聞のインタビューで石丸氏の選挙手法について、「この手法は1回限りだ。熱はやがて冷める。冷めた目で演説を聴いても『また同じことを』と思うだけ。石丸氏にはブレーンがいない。ブレーンを使って政策を組み立てていかないと続かない」と指摘する。確かに、「選挙後の石丸氏の言動に、熱狂的だった石丸信者の離反も目立つ」(選挙アナリスト)との見方も広がる。

都知事選で石丸氏に煮え湯を飲まされた格好の立憲民主・共産両党の幹部は、こうした目まぐるしい状況変化に、「そもそも、トリックスターとしても小泉氏や橋下氏には遠く及ばない。仮に4年後の都知事選に出馬しても、当選どころか得票も半減するはず」と納得顔だ。ただ「石丸人気の急落に留飲を下げるより、次なる石丸ショックへの対応を検討すべきだ」(同)との指摘も少なくない。