15年ぶりに全線開通し、山上の阿里山駅から嘉義駅に向けて出発する「阿里山森林鉄道」=6日、台湾・嘉義県(西見由章撮影)© 産経新聞
【嘉義=西見由章】台湾南部で日本統治時代に建設された「阿里山森林鉄道(阿里山林業鉄道)」が6日、15年ぶりに全線開通した。2009年と15年の台風被害で寸断されたが、新たなトンネルを建設し、安全性も高めた。「世界文化遺産」登録という目標に向けて再出発する。
6日午前、ふもとにある始発の嘉義駅(標高30メートル)と、本線終点の阿里山駅(同2216メートル)から上り・下りの第1便がそれぞれ発車した。下り便ではディーゼル機関車に牽引(けんいん)された4両の客車が、ヒノキの原生林など71・6キロの道程を約4時間かけ走り抜けた。
家族旅行中の会社員、陳治緯さん(45)は「高速鉄道とは違った味わいがある。台湾は海岸沿いのローカル線も山岳鉄道も楽しめる」と話した。
全線開通のネックとなっていたのは標高1500メートル超の山腹にある「42号トンネル」。15年の台風で崩壊し、近くの場所に延長約1100メートルの新たなトンネルを3年余りかけて建設した。
農業部(農林水産省に相当)阿里山林業鉄道・文化資産管理処の黄妙修処長によると、新トンネル建設は標高が高く出水も多い山間部に機材を運び込む難工事だった。しかもロシアによるウクライナ侵略の影響で「必要な爆薬が不足する事態にも直面した」という。
全線開通にあたっては沿線に光ファイバーを敷設して落石の監視システムを強化するなどし、安全性の強化も図った。
阿里山鉄道は日本統治時代にヒノキなどの木材運搬を目的に建設され、大正3(1914)年に本線が開通。戦後は登山客のための観光鉄道として利用されてきた。
1986年に日本の大井川鉄道(静岡県)と、2013年には黒部峡谷鉄道(富山県)と姉妹提携しており、黄処長は「日本側は安全面などで多くの技術を提供してくれた」と謝意を示す。
台湾当局は、日本が礎を築き台湾が発展させてきた阿里山の林業と鉄道を「世界文化遺産」に登録する目標を掲げる。台湾は国連教育科学文化機関(ユネスコ)に非加盟で、中国の妨害により申請には大きなハードルがあるが、黄処長は「大事なのは準備を進めること。申請の時機は必ず到来する」と前向きだ。
取材に応じる台湾の農業部阿里山林業鉄道・文化資産管理処の黄妙修処長=5日、嘉義市(西見由章撮影)© 産経新聞