滁河(じょが)の水質汚染に対して無責任な幹部

「緑の水と青い山こそは、金山であり銀山だ」――習近平主席の「金句」(模範とする常套句)の一つである。中国政府系のマスコミは、この「金句」を頻繁に宣伝し、習近平主席が環境保護を重視するシンボル的なキーワードとなっている。

5月28日に、中国中央テレビ(CCTV)が、あるVTRを公表した。安徽(あんき)省を流れる滁河(じょが)の水質汚染がひどく、異常な臭いが発生し、川魚などが死んだという。

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中央テレビの取材に、地元の幹部の発言は信じられないほど無責任で、環境保護への無責任さが垣間見られた。安徽省滁州(じょしゅう)市全椒(ぜんしょう)県(注:中国で「県」は「市」の下属自治体)の生態環境分局の竇平(どく・へい)局長は、記者の質問にこう答えたのだ。

「(川魚などが死んでも)水質の毒性を分析する必要はない。茅台(マオタイ)酒(高級白酒)を飲んで死ぬ人もいる。茅台酒を毒性分析するか?」

このあまりにも無責任な発言に、人々は不満を爆発させた。

「これが環境管理部門の幹部なのか」

「環境分局はもはや必要がない」

「お前たちたちだけが浄化された水を飲んでいるのだろう」……。

SNS上で批判が相次ぐ

中国版「X」のWeibo(微博)を始め、SNS上で議論が沸騰し、批判が相次いだ。中国メディアも一斉に、批判した。

「幹部が茅台酒を汚水と比較し、根拠のない言葉を発したのは責任逃れだ」(『中国青年報』)「茅台酒を飲んで死んだ人がいるというたとえは、何ともおかしな態度だ」(『南方網』)

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「茅台酒をたとえとしたことで、県は信頼を損なった」(「紅星新聞」)

この重大な汚染水の一件は、5月7日に始まった。その日、県所属の「富信石油助剤有限公司」の原料倉庫で火事があった。そこから化学原料が、河川に漏れたのだ。

汚染源となった化学物質の一部は回収できたが、5月11日に雨が降った。回収しきれなかった汚染物が、雨でダムなどに流れ、近くを流れる襄河(じょうが)を汚染した。

5月22日、全椒県政府(県庁)は、生活用水を確保するため、長江から水を汲み上げると同時に、汚染された襄河の水門を開放した。すると汚染物が滁河に流れ、川魚などが死んだ。

環境保護の実態はほとんど報じない中国のテレビ

県政府は、一応調査チームを設け、関係する幹部数人が免職となった。しかし、「免職されたとはいえ、どうせ引き続き公務員として仕事を続けるから意味がない」という不満も漏れている。

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事件が暴かれた後、中央テレビが報じたぐらいだから、政府系マスコミは一斉に批判したが、そこにも問題がある。茅台酒と比べたことに焦点をあて、肝心の汚染の酷さや原因は無視したのだ。つまり、国の環境保護政策にまで批判が広がることを防いでいる。中央政府のいつものやり方だ。

中国のテレビは、常に環境保護の宣伝を放送しているが、環境保護の実態はほとんど報じない。中国で環境保護は、単なるスローガンに過ぎない。

この事件では、中国の幹部によくあるもう一つの姿勢が露わになった。中国中央テレビが河川の汚染状況を追う過程で、全椒県水利局の共産党党委員会のメンバー、楊俊(よう・しゅん)氏にも取材した。すると楊氏は、「実を言うと、私はあと2ヵ月で定年になるから、もう(汚染)問題には関わらない」と述べた。

この発言も問題になった。

国家行政学院の竹立家(ちく・りつか)教授は、こう述べた。

「一部の幹部たちの仕事に対する姿勢が明らかになった。要するに、『寝そべり族幹部』だ。(中略)たとえ明日定年になるにしても、今日はまだ仕事中だ。最後の日までしっかりと仕事をすべきでないか。幹部は(自分が保持している)権力に対して、畏敬の精神を持たなければならない。そうでなければ、結局、不作為あるいは『乱作為』(勝手な行為)に陥る」

自主性を失う幹部たち

習近平主席は、指導者になって以降、すべての権力を自分一人に集中させ、何でもかんでも自分が指導する体制を築いた。その結果、幹部たちは自主性を失い、習主席の指示に従うしかなくなった。

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何かを積極的に成し遂げる人よりも、何もしないで指示を待って、それに唯々諾々と従う人が評価される世の中になった。それで「寝そべり族幹部」が蔓延しているのだ。この言葉は流行語にもなっている。

もはや地方自治体は悲惨な状況だ。中国政府が公表したデータから、1月から4月までの全国31の地域の財政状況を、シンクタンクの「全産業鏈研究」が公表した(『新浪網』5月31日)。すると、全国31地域で、財政黒字は上海市だけだった。他の地域はすべて、中央政府の補助に頼っているのだ。

財政の自給率が一番低いのはチベット自治区で、わずか10.98%だった。かつて豊かな地域と言われた浙江省も、財政赤字に転落した。北京市さえ財政の23.46%を、中央政府の補助で賄っている。

5月29日、中国政府が初めて発行した「超長期型特別国債」の取引が始まった。超長期型というのは、満期が20年、30年、50年の国債のことだ。総額400億元(約8800億円)と大規模だ。「買ってから50年間も生きられるのか」と揶揄(やゆ)された代物だ。

習近平主席は認めたくないだろうが、(昨年3月に)無理して3期目を続投したが、経済はお先真っ暗だ。おまけに「寝そべり幹部」たちは、汚染や赤字を垂れ流している――。