「クールジャパンを『リブート』(再起動)すべき時期が到来した」

 

政府は、日本のアニメや食などを海外に売り込む「クールジャパン戦略」を5年ぶりに改定した。巨額の累積赤字が問題視されてきた中での新戦略だ。

新たなクールジャパン戦略は資料にして50ページ以上。アフターコロナの“新たなフェーズ”をリブートの理由に挙げている。

『鬼滅の刃』や『推しの子』など日本のアニメやマンガがテーマソングを含む周辺コンテンツも含めて人気を集め、インバウンドの需要回復も進んでいる今、更なる飛躍を目指して戦略を見直すという。

クールジャパンの海外戦略は2010年、当時の民主党政権時に閣議決定された新成長戦略の一つとして位置付けられて始まった。そして2013年、安倍内閣時に官民一体のクールジャパン機構が設立された。この機構は、民間では十分に資金が集まらない事業を含む「日本のクール」を海外に展開する企業に投資を行ってきた。マンガ・アニメなどのコンテンツ産業、食文化・ファッション・技術などあらゆる分野を支援している。

「クールジャパン」は356億円赤字から再起動できるのか? “政府が本当にすべきこと”を考える

「クールジャパン」は356億円赤字から再起動できるのか? “政府が本当にすべきこと”を考える© ABEMA TIMES

しかし、クールジャパン機構は投資先の業績不振などにより、2023年3月時点で累積赤字が356億円に達している。新たな戦略では「波及効果や呼び水効果など全体としての政策的効果は果たしている」と成果を強調する一方で、PDCAサイクルが回せていない、分野横断の取り組みが不十分などの課題を挙げた。

今後は、「アニメ・マンガ」「食」「インバウンド」など分野横断での連携を推進し、プロモーションや海賊版対策、クリエイター支援などを強化するとしている。政府によると、コンテンツの海外展開規模は4.7兆円に達し、鉄鋼産業(5.1兆円)や半導体産業(5.7兆円)の輸出額に迫る規模である。これを2033年には4倍の20兆円に伸ばし、インバウンドや農林水産物などを含めた関連産業全体で50兆円以上を目指すという。果たして、これまでの損失を挽回するためのリブートは成功するだろうか。

「クールジャパン」は356億円赤字から再起動できるのか? “政府が本当にすべきこと”を考える

「クールジャパン」は356億円赤字から再起動できるのか? “政府が本当にすべきこと”を考える© ABEMA TIMES

クールジャパンの再起動についてThe HEADLINE編集長の石田健氏は「政府が支援をすること自体は良くないわけではない。例えば韓国ではK-POPやドラマなど様々なコンテンツが輸出されて成功している。2000年前後に韓国ではこうした分野を政府がもっとサポートしていこうと決めて関係省庁が支援してきた経緯がある。しかし、日本を見てみると、クールジャパン戦略は少なくともファンドとしては累積赤字があり、投資リターンも出ていない。反省点もかなり多いと思うので、過去の失敗の検証をしないままの再起動ではなく、少し立ち止まってみる必要はある」と指摘。

そもそも、「クールジャパン」は世界から「クール(かっこいい)」と捉えられる(その可能性のあるものを含む)日本の「魅力」。と広く定義されている。もう少しターゲットを絞って支援を強化することはできないのだろうか?

石田氏はメリハリの効いた支援の在り方を提言する。

「コンテンツを作るフェーズと届けるフェーズの2つがあると思うが、どういうものが流行するか、という目利きを政府が行うことは難しい。むしろ、プロモーションのサポートや人材の採用など、届けるフェーズを頑張るべき。投資先についても、もう少しここが流行っているから重点的に…という視点は持った方がよいのではないか。例えばインバウンドの成功は明らかであるため、必ずしも『輸出』という考えではなく、訪日外国人が楽しめるコンテンツや場所をプロモートすればいい。現状、東京と京都など一部だけに観光客が集中しているが、他にも楽しめるところがあると伝える。例えば埼玉には大きなアニメの施設があるが、東京に来た観光客が足を伸ばさないのはなぜなのか? これを解決すべく、観光庁・文化庁と、クールジャパンを担っている経済産業省がもう少し横断的に手を取り合うべきだ」

クールジャパン機構の累積赤字は356億円に上っているが、政府は「波及効果や呼び水効果など全体としての政策的効果は果たしている」と評価した上で、「民間だけでは十分に集まらない中長期的なリスクマネーを必要とする案件に投資している」などと説明している。

これに対し、石田氏は「リスクマネーは民間のベンチャーキャピタルや投資家も拠出している。だからこそ、必ずしも政府がやる必要はない。むしろ、芽が出始めたところに追加で予算を投じて伸ばしていくことが政府の役割だ。投資は一発で大きく回収できるモデルがあるため、必ずしも年次で赤字が出ることは悪いことではないが、果たして投資はうまくいったのか、リターンは返ってきたのかを厳しく見る必要がある」と分析した。

ゲームやアニメなど日本のコンテンツの海外市場規模は2022年に4.7兆円となっている。政府の目標としては、これを2033年までに20兆円規模に、関連産業全体では50兆円に成長させるとしているが、今後は何が重要になるのか?

石田氏は「アニメを見て日本食に興味を持って日本に訪れるなど、コンテンツの波及効果は非常に大きく、日本の独自性を出しやすいため、ここをしっかり支援していくことは大賛成だ。だからこそ、過去の反省を活かせば人材育成や資金の出し方などより良い政策ができるのではないか」と期待を示した。