7月7日投開票の東京都知事選では、現職の小池百合子知事に対して、立憲民主党から蓮舫参議院議員が出馬を表明した。事実上、女性候補同士の一騎打ちとなる公算だ。

しかし5月31日の記者会見でも小池知事は出馬表明を見送った。

「蓮舫氏という強敵が現れて、選挙戦略の修正を迫られている」

こう打ち明けるのは、小池知事が特別顧問を務める「都民ファースト」所属の都議のひとりだ。

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小池氏を取り巻く環境は厳しい。4月末の衆議院東京15区の補欠選挙では、乙武洋匡氏を擁立したものの、当選した立憲民主党の候補にはダブルスコアの差でぼろ負け。4月の目黒区議選や、目黒区の都議補選でも小池知事が支援した候補が敗れている。こうしたことから、「選挙の小池」の神通力に陰りが出ていることから、態度を決めかねているとみられる。

また、小池知事は、自民党の「抱きつき」に応じるべきかを推し量っているという。政権与党・自民党は都知事選に自前候補の準備はなく、小池知事の支援にまわる見込みとされる。

今年1月の八王子市長選では自民党候補が接戦を制したが、最後の一押しで応援に入ったのが小池知事だった。八王子といえば、安倍派5人衆のひとりで、裏金事件で「党の役職停止停止1年」の処分となった萩生田光一衆議院議員の地元である。萩生田氏が旧統一教会との親密な関係で問題になったのも八王子市だ。

 

萩生田光一の「小池詣で」

萩生田氏は処分を受けたが、なぜか自民党東京都連の会長はその後も居座っている。

「萩生田氏は当初、小池知事に『東京15区の補欠選挙に出馬してはどうか』とけしかけていた。

『安倍派やそれ以外の派閥の議員を束ている。東京15区で当選していずれは自民党に復帰して総理を目指せばいい』と小池知事を誘い、応援する議員のリストまで出した。

しかし、リストに書かれた議員に確認すると『知らない』と言われて、萩生田氏は赤っ恥。そこで、乙武氏が出馬することになった。

東京都連が、都知事選で小池知事の対抗馬を出せるわけがない。誰か擁立して負ければ萩生田氏の責任は大きい。ただでさえ裏金2700万円で処分を受けている萩生田氏は、小池知事に抱きついて責任回避をしようという筋書きを持っているのです」(自民党幹部)

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満身創痍の萩生田氏による「小池詣で」はひそかに繰り返されているという。ある都庁関係者は、補欠選挙の数週間前に衝撃的な様子を目にしている。

「小池知事の携帯電話が鳴ったんですが、なにげなくディスプレイに目をやると、萩生田氏とおぼしき人物からの着信だった。まわりが気遣っていると『いいのよ、うふふ』と放置していたのです」

小池知事は萩生田氏からの電話も無視してあしらっているというのだ。

「いい機会ですから」と都庁関係者は小池知事の執務の様子をこう話した。

「小池知事が都庁に来るとなれば『知事があと5分で』などと声があがります。幹部たちが知事室などで出迎えると、さっと好みのお茶が絶妙のタイミングで出される。しばらくして報告がはじまると『それはいいわね』と小池知事から反応が聞こえます。

 

小池知事きょうも出馬明言避ける 都民が期待することは?

小池知事の好みにある政策や視察を持って行かないと出世できません。その立ち振る舞いはまさに女帝です。萩生田氏も跪くしかないのでしょう」

自民党は、4月の3つの補欠選挙と静岡県知事選でも負け、注目選挙で4連敗中だ。岸田文雄首相にとっては、東京都知事選を独自候補で戦い、低空飛行の支持率回復につなげたいところだ。

自民支援だと蓮舫に足元を

だが、「岸田首相は萩生田氏と仲がいいので、都知事選に関してはすべてお任せ状態だ。もし自前候補を出して負ければ、9月の総裁選を目前に『岸田では戦えない』というムードが広がり、出馬すらできなくなる。

また、小池知事は都議会では公明党と良好な関係も保っている。岸田首相に勝ち目がない小池知事と張り合って自前候補を出すよりも、小池氏に抱きつくほうが得策と判断している」(前出・自民党幹部)

小池氏は現在71歳、都知事選で3期目となれば、任期満了時には75歳となる。年齢的には国政復帰は現実的には難しくなる。前述のように萩生田氏はアテにならない。小池知事が頼りにしていた、二階俊博元幹事長も政界引退を表明していることで「国政復帰しても二階氏がいないと小池知事は足場がない」(二階派の国会議員)。

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岸田首相は、小池知事の出馬は歓迎ムードだ。ライバルが消えて好都合だからだ。だが、小池知事はここにきて、自民党の支援を受けるかどうか、微妙な状況だという。

静岡県知事選では立憲民主党など野党が支援した鈴木康友氏が当選し、自民党が推した元副知事の大村慎一氏が敗れた。

「地元では、自民党の推薦がなければ、大村氏が勝っていたかもしれないと言われている。どこへ行っても『裏金はどうなっているんだ』『大村は裏金もらったのか』とからまれる。それほど自民党の支持は地に堕ちている」

そう悔しそうに振り返るのは大村氏の選対幹部だ。

東京15区の補欠選挙でも、乙武氏は自民党の推薦を受けなかった。

「小池知事もあまりに自民党の評判が悪いことを気にしている。自民党の推薦を受けると、逆に蓮舫氏に足元をすくわれかねないと感じているようです。そのあたりを見定めるため、出馬表明を延期している。

もし自民党から推薦を受けると、岸田首相が演説するというような話になりますからね。おそらく、表向きは自民党の推薦を受けないまま、選挙戦を戦うのではないか。一部でささやかれる小池知事の不出馬というサプライズはないと思う」(前出・都民ファーストの都議)

都知事選をめぐって、小池知事と岸田首相の心理戦は最終段階を迎えている。