日本の解き方 時期を逸し〝力不足の定額減税〟事務負担の給与明細明記 GDPギャップ、20兆円に拡大 12万円「罪滅ぼし減税」を

6月から始まる定額減税について、給与明細に明記することが義務付けられた。岸田文雄首相は「減税の恩恵を実感いただくのが重要だ」と発言したが、多くの国民にとって恩恵を受けられる規模の減税なのか。

まず嫌みを言わせてもらうと、「子ども・子育て支援金」は税でもないので、給与明細にも特記しないで保険料ともに徴収されるが、減税だけ明記とはどういう理屈なのだろうか。「ステルス増税」をしれっとやりながら、減税では恩着せがましい。

今回、定額減税については、税なので減税額を給与明細に明記しなければならない。ただしその義務の根拠は何か。給与明細を従業員に交付しなければならないというのは所得税法231条に規定されているが、その中身は財務省令である所得税施行規則だ。その財務省令はこの3月31日に出された。財務省は昨年の税制改正議論時に給与明細に記載することを言ったというが、実務では省令が出なければ動けず、余計な事務作業であることは間違いない。

経済政策としてみれば、本コラムで再三主張しているように、本来であれば昨年12月にやるべきだった対策だ。

足元の経済状況をみると、1~3月期の国内総生産(GDP)が2四半期ぶりのマイナス成長となったが、特にGDPの半分以上を占める個人消費がひどく、前期比0・7%減で4四半期連続のマイナスだった。4四半期連続での減少はリーマン・ショックに見舞われた2009年1~3月期以来で15年ぶりとなる。

所得税減税を昨年12月末にやっておけば、ここまでの消費の落ち込みはなかっただろう。

約1年前の23年4~6月期には、筆者試算によるGDPギャップ(潜在的な供給力と実際の需要の差)は10兆円程度だった。なお、筆者の試算は、失業率が最低水準になるまでの必要な有効需要を算出しているので、内閣府のものよりGDPの2%程度厳しめだ。いずれにしても、今回の景気低迷でそれが20兆円程度まで拡大してしまった。

経済政策はタイミングが命である。いいタイミングを逃すと、GDPギャップが拡大し効くものも効かなくなってしまう。今回の定額減税が生み出す有効需要はせいぜい5兆円程度だ。今のGDPギャップ20兆円から見たら力不足と言わざるを得ない。

しかも、昨年12月ではなく今年6月実施になった理由は、もし総選挙があればということで仕組まれたのはミエミエで、事務負担を課した上に国民をいらだたせている。

要するに、タイミングを失したので、効果も少なくなってしまったのだ。効果が少なくなったのに、岸田首相は恩恵を感じろといい、給与明細を見ろと、言わんばかりだ。

タイミングを失したツケを挽回するには、4万円の定額減税を12万円程度にする必要がある。そうであれば多くの国民が恩恵を感じるはずだ。追加経済対策として補正予算を打ち、罪滅ぼしで8万円の追加定額減税を実施してはどうだろうか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)