能登半島地震で大きな被害が出た石川県の奥能登4市町(輪島市、 珠洲(すず) 市、能登町、穴水町)で、商工業などに携わる事業所の再開が進んでいない。廃業を決めた事業所も100を超える。被災した店舗などの復旧の見通しが立たないことに加え、人口減が進む地域の先行きへの不安が背景にある。(能登半島地震取材班)

置き場所のない荷物を見つめる田腰さん(15日、石川県輪島市で)=久保田夢撮影

置き場所のない荷物を見つめる田腰さん(15日、石川県輪島市で)=久保田夢撮影© 読売新聞

 各市町の商工会議所や商工会によると、14日までに少なくとも輪島市で38、珠洲市48、能登町16、穴水町7の計109事業所が既に廃業したか、廃業予定だとした。経営者が避難して連絡が取れない事業所や会員以外の事業所もあり、実態はさらに多いとみられる。

 輪島市河井町で飲食店を2店営む田腰弘治さん(78)は、自宅を兼ねた1店舗が全壊し、もう一つの店舗も外壁がはがれるなどの被害が出た。今も片付けに追われ、「再開の見通しは立たない」と肩を落とす。

 輪島商工会議所が会員995事業所に行っている聞き取り調査では、13日までに9割以上の調査を終え、再開は約340事業所と約3分の1にとどまった。650以上の事業所が再開しておらず、38事業所が廃業の意向だった。3月中旬時点では廃業意向は20事業所で、2か月でほぼ倍増した。

 商店街は特に深刻だ。同市商店街連合会(加盟146店)の高森健一会長は、「再開は5%ほど。時間がかかると働き手が市外に出てしまい、商店街の復興は難しくなる」と懸念する。

 珠洲商工会議所は4月に会員の533事業所に調査を行い、回答があった235事業所のうち87事業所が休業、33事業所が廃業済みだった。廃業予定も15事業所あり、会員の1割近くが廃業する計算だ。廃業した経営者の大半は70歳代以上という。会員の約3割は所在がわかっていない。

 調査では「人口が大きく減ることが予想される中で商売が成り立つのか」という意見も寄せられたといい、 袖(そで) 良暢事務局長は「再建を断念する人がさらに出るかもしれない」と危惧する。

 能登町では、商工会会員の590事業所のうち、14日までに16事業所が廃業を届け出た。穴水町商工会では、会員の297事業所のうち66事業所が再開しておらず、7事業所が廃業予定だという。同商工会の菅谷峰明事務局長は、「再開にはお金も労力もかかる。後継ぎがいなければこれを機にやめる人も出てくるだろう」と不安を口にした。

衣料品店 100年の歴史に幕…「莫大な資金」再建を断念

接客する坂下重雄さん(左)と久美子さん(中央)(16日、石川県珠洲市で)

接客する坂下重雄さん(左)と久美子さん(中央)(16日、石川県珠洲市で)© 読売新聞 提供

 石川県珠洲市で100年以上にわたり住民に親しまれた衣料品店「衣料ストアーサカシタ」が、28日に閉店する。住宅を兼ねた店舗は1月の能登半島地震で全壊し、店主の坂下重雄さん(77)は、「建て直すには 莫大(ばくだい) な資金がかかる」として再建を断念した。

 店は坂下さんの祖父が雑貨店として開店。正確な記録は残っていないが、1900年頃には営業していたという。父の代からは洋服や寝具などを扱う衣料品店に形態を変え、3代目を継いだ坂下さんは妻・久美子さん(76)と半世紀以上、店を切り盛りしてきた。

 坂下さんは元日、店2階の自宅で地震に見舞われた。とっさにこたつに潜り、大きなけがはなかったが、築80年の建物は倒壊した。

 地震前から店の売り上げは落ち込んでいた。後継者もいない。営業再開を検討したが、地震を機に店を閉める判断をした。

 近所の店の一部を間借りして13日から閉店セールを開催していて、初日は常連客が列を作った。坂下さんは「これだけ愛され、必要とされる店だったのだと感激している。『店やめるのやめました』と言いたいが、年なので仕方ない」と話した。