ニュース裏表 峯村健司 中国監視船内に2カ月拘留中の台湾軍人…軍事行動・スパイ活動の嫌疑「意図的に拘束」か 台湾有事〝最前線〟金門島ルポ・第2弾

中国海警局の臨検を受けた台湾の観光船(峯村健司氏撮影)

中国海警局の臨検を受けた台湾の観光船(峯村健司氏撮影)© zakzak 提供

先週の拙稿では、台湾の離島、金門島周辺の海域で、中国海警局の監視船や海軍の艦艇による攻勢が強まっていることを紹介した。今回も筆者が5月上旬に訪問した金門島ルポの続きをお届けしたい。

筆者は大金門島の農村部に向かった。一面には赤茶色の穂がつき始めたコーリャン(モロコシ)の畑が広がる。特産の「金門白酒」の原料となる。先日起きた「ある事件」の真相を探ることが目的だった。

3月18日、金門島の近海で漁をしていた釣り船が遭難し、乗っていた2人が中国側に救助された。1人は台湾側に送り返された。だが、もう1人については「台湾軍人だった」として中国当局に拘束された。

中国政府で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は「職業を偽り、意図的に隠そうとした。関連部門が事実関係を確かめる必要がある」と説明した。軍事行動やスパイ活動が疑われているようだ。

金門選出の陳玉珍・立法委員(議員=国民党)によると、中国海警局の監視船上に抑留されているという。いまだに解放されておらず、2カ月近くにわたり洋上生活を余儀なくされているようだ。

この事件の真相を知りたくて、拘束された軍人を知る退役軍人の男性と面会した。2人はかつて近所に住んでおり家族ぐるみの付き合いをしていたという。

この男性によると、拘束された軍人は20代前半の男性で、金門島一帯を防衛する金門守備大隊に所属している。どのような状況で遭難したのだろうか。

「家族の話では、休暇を取って友人と一緒に漁に出ていたそうだ。途中で濃霧に見舞われて遭難したようだ」

中国政府が嫌疑をかけている軍事作戦やスパイ活動に関与していた可能性はあるのだろうか。この男性が続ける。

「ちょうどイシモチのシーズンで、大陸の業者が高く買い取ってくれるから、多くの島民が小遣い稼ぎで漁をしている。軍人でも休暇中ならば漁に出るのは当たり前だ。中国側はそのことを十分知ったうえで、台湾側に圧力をかけるために意図的に拘束しているのだろう」

軍人の釈放の見通しは立っていない。前出の陳玉珍氏ら野党・国民党の議員団が4月末に訪中した際、早期の釈放を求めたが、進展はなかった。

20日の総統就任後に揺さぶり

蔡英文政権の動きも鈍く、軍人の釈放に向けた交渉はほとんど進んでいない。頼清徳新政権が20日に発足することから、中国側を刺激したくない意図が見え隠れする。

前出の男性はこう批判する。

「金門は国民党の牙城であり、民進党政権はそもそも関心がない。ほとんどの島民が政権には不信感を持っており、軍人を見捨てるつもりだろう。私たちが望んでいるのは、中国との対立ではなく、経済を中心とした協力強化なのだ」

中国側は最近、海警局の監視船を金門島周辺に派遣している。一方、金門島と福建省アモイ市とを結ぶ橋や自由貿易区の設置などの秋波も送っている。

中国側が「台湾独立分子」と批判する頼新総統が就任する20日以降、金門島に対する「アメ」と「ムチ」による揺さぶりが強まる可能性が高い。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員 峯村健司)