難民申請の理由に「近隣トラブル」遺産相続や夫婦げんかも 弁護士ら保証も1400人逃亡 「移民」と日本人の平成史⑤

難民申請の理由に「近隣トラブル」遺産相続や夫婦げんかも 弁護士ら保証も1400人逃亡 「移民」と日本人の平成史⑤

難民申請の理由に「近隣トラブル」遺産相続や夫婦げんかも 弁護士ら保証も1400人逃亡 「移民」と日本人の平成史⑤© 産経新聞

わが国に来日して難民認定申請する外国人はコロナ禍が終わると大幅に増え、昨年は1万3823人となった。これは民主党政権の政策変更により激増した2017(平成29)年の約2万人に次いで過去2番目の多さだ。21世紀に入り急増した難民申請の現場で何が起きているのか。

難民申請の理由に「近隣トラブル」遺産相続や夫婦げんかも 弁護士ら保証も1400人逃亡 「移民」と日本人の平成史⑤

難民申請の理由に「近隣トラブル」遺産相続や夫婦げんかも 弁護士ら保証も1400人逃亡 「移民」と日本人の平成史⑤© 産経新聞

来日→期間満了→申請の「手順」

2020年3月、不法滞在のスリランカ人44人を乗せた民間チャーター機が成田空港を離陸した。44人は、強制退去が決まっても送還を拒否していた「送還忌避者」と呼ばれる20~60代の男女。日本での滞在期間は最長12年の人もいた。

出入国在留管理庁によると、チャーター機による集団送還は2013年から8回行われ、6カ国の計339人が本国へ送り返された。このうちスリランカ人は計100人と最も多い。

スリランカ人は過去5年間の難民申請者数でも国籍別で最多の6336人だった。大半がクルド人とみられるトルコ国籍者の5528人も上回る。この間、入管庁が難民と認めたスリランカ人は2人だけだった。

南アジアの国スリランカは人口約2200万人。09年まで続いた内戦終結後も、19年に日本人も犠牲になった連続爆破テロ事件が起きるなど、観光産業が主力の経済は疲弊、多くの人が職を求めて国を出た。

現在、日本国内に在留するスリランカ人は昨年末時点で約4万7千人。査証(ビザ)がいらないトルコ国籍者と異なり、来日に際しては何らかの査証が必要だ。

このため難民申請者の多くは短期滞在ビザや留学、技能実習ビザで来日し、アルバイトや実習で数年間働いた後、在留期間の満了前後に申請することが多いという。

入管関係者は「スリランカ人の間では、来日方法は問わず、まずは日本に入国して難民申請するという『手順』が知れ渡っている。その帰結として、送還忌避者も増えた」と話す。

「呪術難民」と呼ばれる申請者

難民申請者はスリランカのほか、トルコ、パキスタン、インド、カンボジアなどのアジアと、アフリカのナイジェリア、コンゴ民主共和国など特定の十数カ国に集中。昨年の申請者数は上位5カ国で全体の3分の2、上位10カ国で8割を超えた。

一方で、入管庁が2019年、難民申請を認めなかった人の主な申請理由を調べたところ、全体の約37%は「本国の知人や近隣住民、マフィアとのトラブル」だった。

他は「本国の治安に対する不安」「日本で働きたい」「遺産相続や夫婦げんかなど親族間のトラブル」「健康上の問題や日本での生活の長期化など個人的な事情」で、難民条約上の「迫害を受ける恐れ」とは無縁な理由ばかりだった。

入管関係者は「申請者の中には、あくまで『日本滞在』が目的で、理由は後から考えるという人も少なくない」といい、アフリカのある国で「部族の王になれと言われて逃げたきた」という人、「のろい殺すと言われたから逃げた」という「呪術難民」と呼ばれる人もいるという。

「共通するのは、自分の国が嫌いということ。来日して何年かたって難民申請するのは、日本が気に入ったからだ。日本で在留資格を得るすべがないため、難民申請中という地位を得るために申請するケースもある」

弁護士らに罰則も

民主党政権だった2010(平成22)年、難民申請者に就労を認める運用が行われ、申請者の激増を招いたが、同じ10年、法務省入国管理局(現入管庁)は日本弁護士連合会との合意により、弁護士が身元保証人となる場合は、仮放免の許可を柔軟に行うよう通知を出した。

仮放免は、難民申請中で入管施設への収容を一時的に解かれた不法滞在の状態。この通知により、弁護士の介入が仮放免への「積極事由」として評価されるようになった。弁護士の「信用」があるためだ。逃亡防止のため入管に納める保証金の額も低く抑えられるようになるが、弁護士報酬が必要な場合もあるという。

当時、通知を受けた入管OBは「この施策により、収容者が簡単に身柄の拘束を解かれるという期待を持ってしまった」と振り返る。

入管庁によると、2022年末時点の送還忌避者は4233人。大半は収容ではなく、仮放免されている。一方で逃亡者も多発しており、3分の1の約1400人が手配中だ。前年から倍増した。

弁護士や支援者の中には多数の仮放免者の保証人になり、多くの逃亡者を出したケースがある。入管庁が21年3月までの約7年間を調査したところ、ある弁護士が保証人になった約280人の仮放免者のうち約80人が逃亡、別の弁護士は約190人のうち約40人が逃亡していた。

6月10日に施行される改正入管難民法は、収容に代わる「監理措置」を新設。入管が認める場合、弁護士や支援者ら「監理人」の下での社会生活を認める。

監理人は、仮放免者が不法就労や逃亡した場合、入管庁に報告義務があり、怠ると10万円以下の罰則がある。ただ、これまで保証人になってきた弁護士らは「報告義務があることで、仮放免者との信頼関係が保てなくなる」としており、新たな制度の行方は不透明だ。