川勝平太静岡県知事が辞任会見で「本当に怒っていた相手」とは? 分析した臨床心理士が気づいた“一貫したこだわり”

 静岡県の川勝平太知事が2日、「6月の議会をもってこの職を辞そうと思っている」と任期を1年あまり残しながら辞意を表明した。突然のことに呆気にとられる記者たちをしり目に、さっさとその場を立ち去った。

 県庁で新規採用された職員への訓示の中で「県庁というのはシンクタンクです。毎日毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたり、物を作ったりとかと違って、基本的に皆さま方は頭脳、知性の高い方たち」と発言し、問題視されていた。発言について謝罪会見を行ったものの撤回はせず、「不適切ではない」と主張した川勝氏。彼はなぜ発言を撤回しなかったのか。

記者会見の最後に突然辞任を発表した川勝静岡県知事 ©時事通信社

記者会見の最後に突然辞任を発表した川勝静岡県知事 ©時事通信社© 文春オンライン

「腕を組む」「体を揺する」仕草の意味は?

 まずは県庁の入庁式での失言を見ていこう。川勝氏の表情は明るく、晴々しい表情は「俺はいいことを言っている」という自信に満ちているように見える。

 県庁をシンクタンクに喩えたまではいいが、続いて口から出たのが「野菜を売ったり、牛の世話をしたり~」発言だ。

 これが“職業差別”ではないかと抗議や批判が殺到し、川勝氏は翌2日に謝罪会見を開く。記者たちに囲まれ、今度は両手を体の前で組んだまま発言。身体の前で腕を組む、交差させるのは、不安な気持ちから自分をガードしようという無意識の仕草といわれる。表情は硬く、組んだ指も微妙に動いており落ち着かなさが伝わってくる。

 問題視された“失言”については「発言が切り取られたんだと思う」と主張。「全文を伝えているので切り取っていない」と記者が反論すると、右に左に重心を動かして体を揺すった。自分の意にそぐわない発言に対して、体全体でNOと表しているかのように見える。自らの発言に「問題があったかのごとき」捉え方をされ「驚いている」と視線を止める。

 発言を撤回するかと問われると、それには答えず持論を展開した。

「職種差別は皆無」「職種が違うといっただけ」「職業に貴賤はない」「不愉快な思いをされたのであれば申し訳なく思う」と「不愉快な思い」については謝罪したが、基本的には「悪いことは言っていない」という本心が言葉からも透けて見える。

 それでも、話すうちにどんどん言葉に力が入って早口になり、瞬きが多くなり、顔が紅潮していく。自分の想定と違う方向に話がいくのを防ぐためか、時おり記者の質問を遮ることもあった。

 記者が「切り取りだと思わない」と川勝知事の言葉を否定すると、口を固く結んで両方の眉毛をぐっと上げ、不快感を露わにした。

 聞いた人の受取り方が悪いのかと問われた時は、体を左右に揺らし「そうは申しておりません」と否定。目をギュっとつぶったり、一瞬怯んだような表情を見せる場面もあり、理解されないことに焦ったのか「あのー」「えー」というつなぎの言葉が増え、声も上ずっていた。喉が詰まって声が出にくくなるのは、ストレスと緊張の影響だろう。

 県庁職員を持ち上げるために農家や物づくりの人々を下げた話し方についても、「それは違う」と差別であることは否定した。

メディアへの不満を話し出すと早口になり、声が裏返っていく

 しかし人間は、普段考えたことがない、思ったことがないような事は口にしないものだ。日頃から考えているからこそ、無意識のうちに本心や本音としてぽろっと口から出てしまう。失言で度々問題になる麻生太郎氏もこのタイプだ。

 さらに、自身の発言を責められるとなんとか責任転嫁しようとする態度も気になった。今回はそれを「切り取り」「メディアのハラスメント」と主張。メディアへの不満を話し出すと早口になり、声が裏返っていく。内心かなりの憤りを感じているように見える。

「思いもかけないところから」「言葉のあや」「不十分な表現」「意図せざる形」の悪意のない発言を、大仰に切り取って報じたメディアが悪いという論法だ。

 謝罪の場なのにいつのまにか自分を被害者側に置き、それを押し通すために口調がヒートアップする。謝罪会見で時おり見られるこの現象は、謝ることで自分が弱くなったと感じてしまうのが許せないという、プライドの高い人、権力を持つ人などに多いパターンだ。

 しかし突然の辞任宣言翌日の4月3日の記者会見では、口調は落ち着いたものに変わっていた。どこかしら表情もすっきりしている。自身の不十分な言葉使いに「心からお詫び申し上げる」と謝罪し、失言も撤回しなかった。

 それでも「人の心を傷つけた」ことについては「申し訳ない」と謝罪反省するが、「意図せざる形で人が傷ついた」「傷つけたことについては、私の心も傷ついた」「言い換えると不適切だとは思っていなかった」「そこで傷つかれているのは不本意だ」と持論を主張。この日も発言はやはり撤回しなかった。

数々の問題発言には“あるもの”を重視しているという共通点が

 最終的に県議会の圧力などもあり4月5日になってついに発言を撤回したが、なぜ川勝知事は頑なに発言を撤回しなかったのか。おそらくそれは、本人が主張する通り、彼には明確な職業差別の意識がないからだと思われる。

 過去に問題となった川勝知事の発言を見ていくと、そのなかに1つの“共通点”が浮かび上がってくる。

 2021年に富士市の集会でした「顔のきれいな子は、賢いことを言わないとなんとなくきれいに見えない」という発言や、昨年10月に参院補欠選挙の応援演説で、御殿場市について「コシヒカリしかない。飯だけ食って、それで農業だと思っている」という発言、さらに2022年の高校野球春の甲子園で、東海大会準優勝の聖隷クリストファー高校が選ばれなかったことについて「判断がおかしい」「選考に関わった人は辞任を」と日本高校野球連盟を批判した発言。

 これらをみると、彼は「知性」というものにこだわりがあるように見える。今回問題になった訓示についても、「新入職員に知性を磨くよう話した」と力説する場面があった。早稲田大学からオックスフォード大学に留学し、早稲田大学で教授にまで昇り詰めるなどエリート街道をまっしぐらに歩んできた川勝氏だけに「知性」によって評価判断されてきた部分があるのだろう。問題になった訓示でも「知性」という言葉を使っていた。

「不適切だとは思っていなかった」と持論を繰り返しながら、自分の言葉で人を傷つけたことだけは謝罪した川勝氏。内面を分析されることについても「メディアハラスメント」と言われてしまうのだろうか。

(岡村 美奈)