明らかになってきたEV・脱炭素の「欺瞞」とわが道を貫いたトヨタの「先見性」 日本の生命線は「化石燃料の確保」大原浩氏が緊急寄稿

このところ、電気自動車(EV)に関するネガティブなニュースが増えてきた。国際投資アナリストの大原浩氏は、EV化推進を含む「脱炭素」の欺瞞(ぎまん)が明らかになってきたと強調する。大原氏は緊急寄稿で、いまの日本にとって必要なのは「脱炭素」ではなく、石油や天然ガスなど「炭素=化石燃料」だと強調する。

筆者が「人権・環境全体主義者」と名付ける人々が声高に主張する「人権尊重」「全面EV化」「脱炭素」などの主張は欺瞞に満ちており、「特定の人々」の利益になっても、日本や世界の「ほとんどの人々」の利益にはならないことが暴かれるようになってきた。

「脱炭素」は、いまだにその必要性が科学的に証明されているとはいえないが、「EV化推進」に至っては電気のかなりの部分が化石燃料によって発電されているという「不都合な真実」に対して見て見ぬふりだ。

日本政府が「EV化推進」に舵を切るなかでもハイブリッド(HV)やエンジンを死守しているのがトヨタ自動車だ。「EV化に遅れている」などと中傷されたにも関わらず、わが道を貫いた先見性と「不屈の魂」には感服せざるを得ない。

しかも、EV化に手を抜いていたわけではない。2027~28年頃に量産化される見込みの「全固体電池」がEV車に革命を起こすかもしれない。

「脱炭素」について、世界的富豪のウォーレン・バフェット氏が株主に向けた今年の「バフェットからの手紙」に興味深い記述がある。

1975年当時の米国の産出量は800万バレル(1日当たり石油換算バレル)しかなく、その対策のため米国政府はSPR(戦略石油備蓄)を創設した。だが、その後も状況は芳しくなく、2007年までに500万バレルまで落ち込む。

それを救ったのが、「シェール革命」である。これによって、米国の原油(エネルギー)海外依存が解消された。そして現在の産出量は1300万バレルを超え、「原油輸出国」になっている。

だがバフェットは、かつて「米国(経済)が輸入原油に頼っていた時代を忘れるべきではない」と説く。大事なのは数十年後も「米国経済にとって原油(天然ガス)が必要不可欠」だと考えていることである。

バフェットがコカ・コーラへの投資について語るとき、「30年後も人々はコカ・コーラを飲んでいるであろう」というフレーズをよく使う。同じように「米国(経済)は30年後も原油(化石燃料)を消費し続けているであろう」というのがバフェットの考えである。

日本はどうだろうか。石油の99%以上を輸入に頼っているだけではなく、中東依存度も9割を超える。「脱炭素」どころか、「炭素(化石燃料)の確保」が日本(経済)の将来を左右すると言っても過言ではない。

日本の国内に埋蔵されている石油や天然ガスの量は限られているが、救いは天然ガスがアジアを含む世界の幅広い地域に分布していることだ。例えばオーストラリアで、日本の石油開発企業、INPEXの液化天然ガス(LNG)プロジェクトがすでに始動している。インドネシアでも、総事業費3兆円とされる天然ガスプロジェクト計画が進行中だ。

中東における地政学リスクがますます高まる中で、われわれがなすべきことは「脱炭素」ではなく「炭素の確保」であることは明白だ。

■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。