人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。

100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来の地図帳』は、20年後の日本人はどこに暮らしているのか?人口減少が「10年後、20年後の日本のどの地域を、いつごろ、どのような形で襲っていくのか?についての明らかにした書だ。

※本記事は『未来の地図帳』から抜粋・編集したものです。また、本書は2019年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。

出生数が亡くなる人の数に追いつかない。よその地から引っ越してくる人によって、人口はなんとか増えている。

 

大阪維新の会の大勝利

関西圏の中でも触れてきたが、「西の都」である大阪市についてもう少し深掘りして見てみよう。

私は大阪市を頻繁に訪れる。多いときは週に2回も講演に出向く。人情に厚く、食い倒れに代表される食事の美味しさ。何度出かけても新しい発見に驚かされる街だ。

2025年大阪・関西万国博覧会の開催も決定し、盛り上がりを見せているが、止まらぬ東京一極集中への危機感からなのか変化も求めているようだ。

2019年4月に行われた大阪府知事と大阪市長のダブル選挙は「大阪都構想」を掲げる大阪維新の会の大勝利に終わった。このまま何かしなければ「大阪」が元気を失ってしまうかもしれないという“空気”もあるのかもしれない。

関西圏全体としては人口減少が目立ち始めた中で、大阪市に限れば人口273万5003人(2019年4月1日現在)を数え、人口拡大を続けている。

「住民基本台帳人口移動報告(2018年結果)」によれば、2018年の転入超過数は1万2081人だ。2016年から3年連続での増加となっただけでなく、増加幅も年々拡大している。データを見る限り、関西圏内の各地から大阪市を目指して集まって来る人が少なくないということだ。

ちなみに、関西圏にある大阪市以外の政令指定都市といえば、京都市が1273人、堺市が1073人、神戸市が2331人の転出超過となっている。大阪市だけが持ちこたえているといってもよい状況だ。

大阪市の場合、歴史を振り返ると順調に人口拡大が進んできたわけではない。

大阪市の資料によれば、戦後間もない1950年の国勢調査における大阪市の人口は195万6136人であったが、戦後復興とともに急拡大を遂げて、1960年の国勢調査で「300万都市」となった。さらに人口は増え続け、1965年の国勢調査でピークとなる315万6222人を記録した(ちなみに、現在、政令指定都市トップである横浜市のこの年の人口は178万8915人で、大阪市に遠く及ばない)。

しかしながら、その後は、大阪市へと流入した人々を中心に、周辺自治体への「大移動」が始まる。暮らしが豊かになるにつれて、より広い住宅を求めて都市圏が拡大していったのだ。いわゆるドーナツ化現象である。1970年の国勢調査では早くも300万人割れとなり、その後も長期にわたる人口減少が続いた。

 

社会増数も自然減数も全国トップ

そんな大阪市の転機は2000年代に入ってからだ。2005年の調査では再び増加に転じたことが確認できる。この頃、一足早く少子高齢化が進み始めた地方において、若い世代の大都市集中が始まり、多くの政令指定都市で人口増加傾向が目立ち始めた。

企業の集積地である大阪市にも、再び人々が集まり始めたのである。さらに近年はタワーマンションが建設され、市内中心部でも人口増加が明確になってきている。

総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2018年1月1日現在)によれば1万1007人増を数え、福岡市、川崎市に次ぐ全国3位の伸びだ(東京23区各区も全国の市区町村と同じく1つの自治体としてカウント)。

再び人口が伸び始めた大阪市だが、人口の集め方には大きな特徴がある。実は、大阪市というのは1万8353人増を数える社会増数も、7346人減となった自然減数(自然増減数は、出生者数─死亡者数のこと)も、共に全国トップなのである。大阪市民の出生数が亡くなる人の数に追いつかず、その目減り分をよその地から引っ越してくる人によって穴埋めし、人口が増えているということだ。

では、大阪市の人口拡大を支える人々はどこから引っ越してくるのだろうか?

創生本部の人口移動分析概要(2017年)によれば、大阪市に流入するのは関西圏(京都、大阪、兵庫、奈良の2府2県)および滋賀、和歌山、三重の各県が目立つ。

大阪市から引っ越して出ていく人と、入ってくる人の差し引きである転入超過を見ると、大阪市にとって最も転入超過数が多いのは、大阪府内の市町村で合計3253人である。県外のトップは兵庫県で転入超過数は2476人である。

兵庫県に次いで転入超過数が多いのが、京都府1570人、和歌山県853人、奈良県842人、滋賀県503人、三重県361人の順である。その他の道府県も計4277人の転入超過となっている。

府県単位のデータだが大阪産業経済リサーチセンターの資料によれば、大阪府は長らく兵庫県に対して大幅な転出超過の関係にあったが、2011年から転入超過に転じた。奈良県や滋賀県に対しても兵庫県ほどではないものの、かつては転出超過にあった。

関西地区というのは鉄道網が発達している。これまでは移動しやすい兵庫県や奈良県から大阪市内に通勤・通学していた人も多かったが、他の大都市と同じく「職住近接」というライフスタイルへと転換してきた結果であろう。

兵庫県の「兵庫の経済・雇用に関するデータ集」が20代の大阪府への転出状況を調べているが、2012年は男性が719人、女性1079人、2017年は男性1244人、女性1535人と拡大が続いている。かつて広い住まいを神戸市などに求めた人たちが一線を退き、その子供たちは大阪府へと回帰しているということだ。

背景には、東京圏と同じく大阪市も市内の中心部にタワーマンションなどの建設が進み、大阪市内のビジネス街近くにも“人が住みやすい場所”が増えたことがある。国土交通省の「建築着工統計調査」(2017年)を調べると、マンションの着工戸数は関西2府4県において大阪府は突出して多く、関西全体の37%を占める。老朽化したオフィスビルやマンションの更新時期を迎えて、再開発が進みやすかったという要素もあるようだ。

転入者の3人に1人は外国人

さらに大阪市を特徴づけているのが外国人住民の多さだ。総務省の「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2018年1月1日現在)によれば、大阪市に住む外国人は13万1582人で全国1位である。2位は大阪市より100万人以上も人口の多い横浜市の9万1440人だから、大阪市の多さが際立っている。

外国人住民が多ければ、外国人の転入も多いのだが、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」で社会増の内訳を確認すると、社会増数1万8353人のうち日本人が1万1961人、外国人が6392人(いずれも全国トップ)で、3人に1人は外国人で占められている。

ちなみに自然減は日本人が7093人減、外国人も253人減(いずれも全国トップ)である。日本人住民だけの人口増加数を計算し直すと4868人にとどまり、全国順位6位まで後退する。外国人住民の多さが大阪市の人口拡大を下支えしている姿が浮かび上がる。

一方、大阪市の場合、東京圏への転出超過数のピークを迎える年代は25~39歳で、39歳以下の世代で実に9割を占めている。東京圏への転出超過数を男女別で見ると、男性が1380人、女性が2064人の転出超過だが、女性のうち約6割が25~39歳である。

大阪市といえば、東京と並ぶ大都市だ。若者を魅了する商業施設や娯楽施設も多いのに、なぜ若い女性が東京圏へと流出するのだろうか?

創生本部の別資料によれば、東京圏への女性の転入者の多い職種の上位にはサービス業が並んでおり、東京圏には女性に人気の高い仕事が多いことが挙げられている。大阪市が「東京」と並び立ち続けるためには、若い女性を惹きつける仕事を、東京とは異なる形で創出し続けることである。

日本人が激減する時代に、大阪市の人口拡大を支える人々の正体

日本人が激減する時代に、大阪市の人口拡大を支える人々の正体© 現代ビジネス