ニュースの核心 「ボランティア動員」募った新たな手口 中国「非公式警察署」に警視庁がメス すでにあなたの近くにも…スパイ防止法に本腰を

自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会が2月29日と3月1日、開催された。岸田文雄首相(総裁)と安倍派(清和政策研究会)幹部らが出席し、「政治とカネ」「資金還流の経緯」などについて説明したが、疑惑は晴れなかった。岸田首相が2022年、政治資金パーティーを7回も開き、計1億5000万円以上を売り上げていた問題も追及されたが、なぜか「外国人のパーティー券購入」問題は取り上げられなかった。こうしたなか、警視庁が昨年、中国当局が東京・秋葉原に設置した「非公式警察署」が入ったビルを家宅捜索をしていたことが分かった。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は「スパイ防止法」のない日本の平和ボケと、中国の新たな手口に迫った。

岸田文雄首相

岸田文雄首相© zakzak 提供

岸田政権はスパイ防止法の制定に本腰を

日本にある中国の「非公式警察署」に、ようやく捜査のメスが入った。スパイ防止法がないにもかかわらず、強制捜査にこぎつけた警察の努力には拍手を送りたいが、中国の秘密活動は一段と水面下で活発になっている。

各国での摘発に対抗して、中国大使館や領事館が「ボランティア」を募って、在外中国人の動向を監視したり、情報収集しているのだ。いまや中国の秘密警察とその手先は、あなたの近くにもいる。

警視庁公安部は2月21日、新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして、中国籍の女性2人を書類送検した。この事件の関係先として昨年5月、東京・秋葉原のビルに入居していた一般社団法人を家宅捜索していた。このビルには中国の非公式警察署があった。

中国の海外警察問題は、スペインの非政府組織(NGO)「セーフガード・ディフェンダーズ」が2022年、「世界50カ国に100カ所以上の拠点がある」という報告書を発表して、明るみに出た。米欧各国は直ちに拠点と関係者の摘発に動いたが、スパイ防止法がない日本は出遅れていた。

今回の摘発は一歩前進だが、国民民主党の玉木雄一郎代表はX(旧ツイッター)で徹底捜査を求めた。岸田文雄政権はスパイ防止法の制定に本腰を入れるべきだ。

セーフガード・ディフェンダーズが昨年11月に発表した調査報告によれば、中国は対抗措置を講じている。大使館や領事館が在外中国人のボランティアを募って、反体制活動家を含む中国からの逃亡者に対する監視活動や情報収集を強化しているのだ。

自分たちを法の上に位置付け

発端は昨年5月、広島でのG7(先進7カ国)首脳会議で採択された共同声明だった。声明は中国を名指しして、「外交、領事活動に関するウィーン条約に基づいて行動し、われわれの社会の安全と安心、民主的制度の健全さや経済的繁栄を損なう干渉をしないよう求める」と要求した。非公式警察活動に対する公式の非難と警告だった。

すると、中国共産党は1カ月後の昨年6月29日、領事ボランティア・ネットワークを創設する新たな条例を制定して、在外中国人の摘発に民間人を動員する態勢を整えた。日本も例外ではない。

中国外務省のホームページによれば、条例制定と同じタイミングで、日本に設置された、中国のある総領事館は領事協力ボランティア訓練交流会を開催し、出席した約20人が「総領事館と協力して、管轄地域の中国市民と機関の安全と合法的な権利を守る」ことを誓い合っている。

彼らは単なるボランティアではない。例えば、中国系経済団体に所属する経済人でありながら、中国国務院華僑事務弁公室(OCAO)の指揮下で活動している。OCAOは中国共産党中央統一戦線工作部(UFWD)の外部向け別名だ。OCAOは立派な実績を挙げたボランティアを訓練交流会で表彰している。

中国共産党が一体何の訓練をしているのか、不明だが、カナダの裁判所は22年1月、OCAO(=UFWD)を「スパイ活動に従事し、カナダの利益に反する活動をする組織」と認定している。

セーフガード・ディフェンダーズは、領事ボランティアの活動を「中国共産党が国内だけでなく、海外でも、自分たちを法の上に位置付けている習性を示す」と結論付けている。中国と中国人への警戒が怠れない。

■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。