【大阪万博】木造リングが邪魔で工事が進まない…パビリオン設計を担当する「一級建築士」が明かす!絶望の「工事現場」の現状

2月下旬、本誌記者は大阪府・夢洲の会場予定地を訪ねた。巨大木製リングの工事が進む一方、海外パビリオンは基礎すらない。広がるのは茫漠とした灰色の地面。絶対に間に合わない―そう確信した。

前編記事『「建設業界のせいにされても困る…」大阪万博で設計を担当する「一級建築士」の告白…パビリオン完成が開催に間に合わない「納得の理由」』より続く。

行く手を阻む巨大リング

A氏の指摘に同調するのが、建築エコノミストの森山高至氏だ。

「万博の会場予定地である夢洲は、埋め立て地で地盤が弱い。日本の建築基準法は厳しいため、建物のデザインによっては地盤対策に多額の費用がかかります。しかし、諸外国からは『そんなことは聞いていない。今更デザインを変えられない』と文句が出て、そのたびに調整が難航。時間を浪費しているそうです」

ただでさえ現場から「会期に間に合わない」という声があがるなか、さらなる懸念が浮上した。

「(リング)内側のパビリオンなどの建設は、これから着工するものも多く、今後すべてのリングがつながった際には、内側への重機や資材の搬入に制約が生じる」

2月22日、前出の日本建設業連合会の宮本会長が記者会見でこう漏らし、関係者らを騒然とさせたのだ。「リング」とは、この大阪万博のシンボルとして建設している、万博会場を囲む「木製の大屋根」である。円周約2km、高さ最大20mの木製巨大リングが、海外パビリオンをぐるりと囲む予定だが、先にリングを作ってしまうと、内側のパビリオンの建設に支障が生じるという問題をしぶしぶ明かしたのだ。

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Photo by gettyimages© 現代ビジネス

いわば、「先にお堀を作ってしまい、城が建てられない」というギャグのような話だが、なぜこんなことが分からなかったのかと呆れてしまう。

リングをデザインした建築家の藤本壮介氏は自身のSNSアカウントでこう反論している。

〈現在、リングの地上部分に10ヵ所の工事車輌アクセスルートを確保しています。それらはリングが全て繋がった後も、幅、高さともに確保できるルートです。(中略)その周辺の舗装等の工事が入ることも想定して、最低でも5ヵ所のアクセスを確保できる工事計画としています〉

なぜ「場当たり的」になってしまったのか

藤本氏の説明通りであれば大きな問題はなさそうだが、Aさんは、「現場では明らかに邪魔になっている」と証言する。

「現在、リングの内側へ出入りできる大きな通路は2ヵ所しか確保されていません。それ以外にも出入りできる通路はありますが、どこも狭い。大型工事車両はどこからでも自由に入れるわけではないのです。屋根下の床の保護のため、重い車両は先の2ヵ所以外は通れない。大型コンテナ車は回転できないでしょう。

リングがいつどの箇所から完成するのかもアナウンスされておらず、リングの工事車両とのバッティングが調整できない。またリング内の道路が整備されておらず、このままでは現場がぬかるみ状態となり、工事車両でごった返してしまう可能性もある。施工予定の工務店は困っています」

工事の段取りといい、予算の膨張といい、場当たり感が否めないこの万博。なぜこうも次々と問題が起こるのか。

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万博協会の関係者は本誌の取材に「問題を引き受ける責任者がいないからだ」として、こう不満を漏らす。

「'05年の愛知万博では、歴史学者の木村尚三郎さん、建築家の菊竹清訓さん、環境デザイナーの泉眞也さんという3名の『総合プロデューサー』が基本構想、会場計画、催事を分担し、全体の調整役を果たしていました。まず総合プロデューサーがしっかりした指針を示し、そのうえでなにか問題や調整ごとがあれば、彼らがしっかりと決断をしてくれた。

ところが、今回はそれぞれの個性を発揮してもらうという名目で、あえて『総合プロデューサー』を置かなかった。結果、各プロデューサーは自分の業務に専念することとなり、全体を見る人がいなくなったのです」

 

工事現場は被災地同然

万博協会に総合プロデューサーを置かなかった理由を問い合わせたところ、「シニアアドバイザーの方々にその役割を担っていただくことを考え、就任いただいています」と回答した。しかし、大崎洋元吉本興業会長をはじめとしたアドバイザーは15名もいる。「アドバイザー」という名称からも、総合プロデューサーとは役割が大きく異なることは明らかだ。

全体の進行や予算管理を統べる人たちがいない。それが、この万博の不幸を生む根源なのだ。

そのしわ寄せは末端の現場の労働者に来ている。前出のAさんが嘆く。

「工事は遅れ、現場にはいまだ電気や上下水道も通っておらず、作業員は仮設トイレで用を足しています。言い方は悪いですが、被災地で復旧活動をするような状況で彼らは働いています。

万博成功のためにもあと半年でも延期してくれれば、無理無理のところをなんとか解消できるのですが……」

万博会場の隣、咲洲の中心には地上252mのさきしまコスモタワーがそびえ立つ。その43階に万博協会のオフィスがあり、廊下奥の西側の窓からは万博会場となる夢洲を上から見下ろすことができる。協会職員はトイレに立つたびに、工事の進捗を目にすることになる。

夢洲から見えるさきしまコスモタワー Photo by gettyimages

夢洲から見えるさきしまコスモタワー Photo by gettyimages© 現代ビジネス

開幕まで1年2ヵ月を切った現在も、土の地面がむき出しのだだっ広い野原のような工事現場。そこにぽつんと、大きな空洞を抱えた木製巨大リングが佇んでいる。

彼らはこの巨大な建造物を見下ろしながら、何を思うのだろうか。

「週刊現代」202439日号より

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