全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!

北野です。


(@一部映画のPRがありますが、依頼されたわけではあ
りません。)


「プーチン最大の敵」として知られるアレクセイ・ナワリ
ヌイが2月16日、獄死しました。

『BBC NEWS  JAPAN』2月16日付。



〈ロシア野党指導者ナワリヌイ氏が死亡=ロシア刑務所当

2/16(金) 22:34配信BBC News
ロシアの刑務所当局は16日、近年のロシアで最も著名な野
党指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が、収監
されていた北極圏の刑務所で死亡したと発表した。〉
ーー


このニュースを聞いて


「え!?ナワリヌイ死んだの?!」


と嘆き、涙を流す日本人は少ないと思います。

というのも、あまり日本では知られていないからです。

しかし、28年モスクワに住んでいた私から見ると、ナワリ
ヌイは間違いなく、【 プーチン最大の敵 】でした。

なぜ?


ナワリヌイは1976年生まれ。

ロシア一の政治系ユーチューバーでした。

チャンネル登録者数は、2024年2月時点で622万人。

大きな影響力を持っていた「反汚職基金」(FBK)の創
設者でもあります。

彼の名を全世界にとどろかせたのは、1本の動画でした。

2017年3月に投稿した、


「オン・ヴァム・ニ・ディモン」


(彼は、あなたのディモンじゃないよ、意味は、メドベー
ジェフは、君が思っているほど、いいやつじゃないよ)

という動画は、

メドベージェフ首相(当時)が複数の超巨大別荘を所有し
ていることを暴露していました。

これまでに、再生回数は4400万回を超えています。

@実際の動画はこちら。↓
https://www.youtube.com/watch?v=qrwlk7_GF9g&t=1s


ロシア語の動画なので、見たのはほとんどロシア人でしょ
う。

この国の人口は、約1億4600万人なので、ロシア人の
約三人に一人が見たことになります。

それで、「真相究明」を求める大規模デモが、ロシア全土
で起こってきた。

ロシア政府は、デモ参加者の要求を、徹底的に無視しつづ
けることで、この危機を乗り切ります。

しかし、国民の多くがプーチン政権に幻滅したことは間違
いありません。


プーチンはこの事件で、「ネットメディアのパワー」を実
感したのでしょう。

ロシアのテレビは、2000年代からプーチンの支配下に
あります。

テレビで、プーチンの悪口は、一切聞かれません。

では、インターネットは、どうでしょうか?

プーチンは、ネットの影響力を過小評価していて、かなり
自由があったのです。

そして、インターネットは、テレビとは真逆で「反プーチ
ン派の勢力圏」になっていました。

ところが、ナワリヌイのメドベージェフ別荘群暴露動画以
降、ネット規制がどんどん厳しくなってきた。

そして、私自身の業務にも支障が出るようになってきまし
た。

結果、私は2018年、「日本に完全帰国することを決意
した」という流れです。

つまり、ナワリヌイの活動は、間接的に私の生活にも大き
な影響を与えたことになります。

こんな流れを見ると、ナワリヌイは、「プーチン最大の敵」
と言っても、過言ではありません。


さて、ナワリヌイは2020年8月20日、シベリアの都市
トムスクからモスクワに向かう旅客機の中で、毒殺されそ
うになりました。

飛行機は、オムスクに緊急着陸し、ナワリヌイは病院に運
ばれた。

彼の妻ユリヤは、「ロシアの病院にいると殺される」と思
い、ドイツでの治療を求めます。

8月22日朝、ナワリヌイは、オムスクの病院から、ドイツ、
ベルリンに搬送されました。

飛行機は、ドイツのNGO「シネマ・フォー・ピース財団」
が手配したと発表されています。

ドイツでの検査の結果、ナワリヌイ毒殺未遂に使われたの
は、神経剤ノビチョクであることが判明しました。

ノビチョクは、ソ連が開発した軍事用神経剤。

2018年に、ロシアの元二重スパイ・スクリパリと娘の
ユリヤ殺人未遂事件の時にも使用され、全世界に衝撃を
与えました。


ドイツで一命をとりとめたナワリヌイは2020年12月14
日、


「事件は解決された。
私は、私を殺そうとしたすべての人を知っている」


という動画を公開。

@実際の動画はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=smhi6jts97I


この動画の中で、ナワリヌイは、実行犯8人の名前と写真
を公開。
 
そして、「このグループに殺人の命令を出しているのは、
プーチンだ」と断言しています。

動画の中で明らかにされていますが、犯人捜しをしたのは、
ナワリヌイ自身ではありません。

「ベリングキャット」という団体です。

ベリングキャットは2014年、イギリスで設立されまし
た。

「ファクトチェック」と「オープンソースインテリジェン
ス」を専門にしている。

そのベリングキャットがナワリヌイに連絡をとり、「君を
殺そうとした人たちを見つけた」と話したそうです。

この調査結果は、ドイツの週刊誌『デア・シュピーゲル』、
スペインの日刊紙『エル・パイス』、アメリカCNNでも
検証されました。

調査の結果、何がわかったのか?


・8人のFSB諜報員が、3年間ナワリヌイの尾行をつづ
けていた(動画内で、8人の実名と顔写真が公開されてい
る)。

・8人の人物は皆、「化学」あるいは「医学」の教育をう
けており、「ただの尾行」ではない。

・彼らは「シグナル科学センター」から化学兵器を受け取
り、ナワリヌイ暗殺を試みた。

・8人のグループが、3年間ナワリヌイを追いつづけた。
これが、ボルトニコフFSB局長の許可なしで行われるこ
とはない。

・そして、ボルトニコフFSB局長が、プーチンの許可な
しで、この作戦を指示することはありえない。

・よって、毒殺指令を出したのは、「プーチン自身」であ
る。


以上のような論理構成になっていました。

これに対し、プーチンは2020年12月17日の記者会見で、


「毒殺したければ、毒殺しただろう」


と語り、容疑を否認します。

つまり、「ナワリヌイが生きていることが、私(プーチン)
が無関係な証拠だ」と。

日本人には理解不能ですが、ロシアでは、このロジックが
通用します。

ロシア人の多くは、プーチンのこの言葉を聞いて、「確か
にその通りだ」と思ったのです。


2020年12月21日、ナワリヌイは、新たに


「私は、殺し屋に電話した、彼は〔犯行を〕認めた」


という動画を公開します。

@実際の動画はこちら。↓
https://www.youtube.com/watch?v=ibqiet6Bg38


ナワリヌイは、パトルシェフ元FSB長官、現安全保障会
議書記の補佐官マクシム・ウスティーノフと名乗り、実行
犯の「容疑者」に電話しました。

そして、「容疑者」クドゥリャフツェフは、飛行機が緊急
着陸したオムスクで、ナワリヌイの服を回収し、毒が発見
されないように洗ったことを認めたのです。

また、ナワリヌイの下着(パンツ)に毒が塗られたことを
認めました(彼自身が毒を塗ったわけではないが、計画を
知っていました)。

さらに、クドゥリャフツェフは電話で、「なぜナワリヌイ
はまだ生きているのか?」という質問に回答しています。

彼は、飛行機が緊急着陸せず、「もう少し長く飛んでいれ
ば」ナワリヌイは死んだだろうと語った。

ナワリヌイが生き延びたもう一つの理由は、緊急着陸した
後すぐ救急車がかけつけ、適切な治療をしてしまったから
だと。
 
この電話で、プーチンの「毒殺したければ、毒殺しただろ
う」というロジックが成立しないことになりました。
 
つまり、FSBは毒殺を試みて、「失敗した」と。
 
ナワリヌイが2020年12月に投稿した二つの動画は、少
なくともネットの民に、大きな衝撃を与えました。
 

2021年1月18日、ドイツからロシアに帰国したナワリ
ヌイは、空港で逮捕されました。

翌1月19日、ナワリヌイの同志たちは、準備していた動画
を公開。

その名は、


「プーチンのための宮殿。最大の賄賂の歴史」


簡単にいうと、黒海沿岸にある「プーチンの巨大別荘」に
関する動画です。

@実際の動画はこちら。↓
https://www.youtube.com/watch?v=ipAnwilMncI&t=2205s


建設費用は、推定1400億円。

建物以外も入れた総敷地面積は、モナコの39倍だとか。

この動画はものすごいスピードで拡散され、現在までに
1億2900万人の人が見ています。

ロシア人の、「1.13人に一人」が見たことになりま
す。

インターネットを使わない年配の人たち、子供たち以外
は、「ほとんど見た」といえる数でしょう。

これは、「プーチン神話」に対する最も強烈な攻撃でし
た。
 
なぜか?
 
日本人には理解しがたいですが、ロシア国民の多くは、


「プーチンは、真の愛国者で、クリーンな政治家だ」


と信じていたのです。

メドベージェフの汚職動画を見た後でも、「周りは腐って
いるが、プーチンだけは違う」と思っていた。

ところが、この動画を見て、国民たちは「プーチンクリー
ン神話」がウソだったことを悟った。

この時点で「プーチン神話は崩壊した」といえるでしょう。

今まで、ロシア国民の多くは、プーチンに対して「尊敬」
「信頼」「愛」といった感情をもっていました(これも、
日本人には理解困難ですが)。

ところが、この動画を見てしまったら、これらの感情を抱
きつづけることは困難でしょう。


当時私は、(有料講座)「パワーゲーム」などで、


「これで神話による統治は難しくなる。
これからは「恐怖による統治の時代」になりますよ」


と語っていました。

予想通り、プーチンはその後、急速に凶暴化していきまし
た。

プーチンがウクライナ侵攻を開始したのは、この動画で神
話が崩壊してから1年後でした。

偶然とは思えません。


何はともあれ、たった3本の動画でプーチン神話を根底か
ら破壊したナワリヌイは、獄死しました。

死因はまだわかりませんが、ロシア当局が何を言っても

「めちゃくちゃ信用できる」

とは、誰も思わないでしょう。


プーチンは今、ナワリヌイが死んで「ホッ」としているこ
とでしょう。

しかし、ナワリヌイが壊した神話は、もう元には戻りませ
ん。

プーチンは3月の大統領選挙で圧勝するでしょう。

それでもプーチン体制は、崩壊に向かっているのです。

◆重要PS

ナワリヌイについては、彼の戦いを描いたドキュメンタリ
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