《なぜドリル優子が?》自民党による裏金問題聴取は疑問だらけ 岸田首相が言う「信頼回復」に足りない3つの要素

自民党「政治刷新本部」初会合に臨む小渕優子選対委員長。2024年1月11日、東京・永田町の同党本部(時事通信フォト)

自民党「政治刷新本部」初会合に臨む小渕優子選対委員長。2024年1月11日、東京・永田町の同党本部(時事通信フォト)© NEWSポストセブン 提供

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップする連載。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、派閥の政治資金パーティー裏金事件に関し行われた、収支報告書の不記載が判明した国会議員への聴取などについて。

【写真】旧統一教会から選挙支援を受けたのか、白髪でシャツの袖にはカフスの盛山正仁文部科学相

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“ドリル優子”という言葉を久方ぶりに聞いた。2014年10月、政治資金収支報告書への虚偽記載が発覚した時、小渕優子選挙対策委員長につけられたあだ名だ。当時経産相だった小渕氏は不祥事の発覚後、東京地検特捜部の家宅捜索前に証拠隠滅のため、事務所にあったパソコンのハードディスクをドリルで破壊した疑いがもたれ、そのように揶揄された。元秘書2人は政治資金法違反で有罪となったが、小渕氏が立件されることはなかった。

 その小渕氏が派閥の政治資金パーティーの裏金事件に関して、2月2日から関係議員の聞き取り調査を始めた。党内で党の議員が裏金疑惑に関係する議員らを聴取するというだけで、自民党のやり方に?がつくのに、ここでなぜ小渕氏が?と思うのが普通の感覚だろう。小渕氏もなぜ辞退しないのか、政界を引退した日本維新の会前代表の松井一郎氏は、メディアやSNSを通じて度々「永田町の常識は世間の非常識」と述べていたが、その通りだ。

 ところがさらに驚くことが5日に起きた。この事件を徹底的に解明するためアンケート調査が始められたが、その質問がわずか2問なのだ。「派閥による政治資金パーティーに関する全議員調査」という仰々しい表題がついた用紙には、収支報告書への不記載があったか、なかったかに〇をつけ、あれば2018~2022年の隔年で金額を記入しろというたったこれだけ。裏金議員のリストはすでに党内にあるとか、アンケートは野党が要求したとか、予算審議の途中だとか、彼らなりの言い分はあるかもしれないが、こんなアンケートを見せられれば自民党の本気度を疑えと言っているのと同じだ。

 岸田文雄首相はことあるごとに「国民の信頼を回復する」と意気込むが、首相も自民党もなぜこんなにも国民の信頼を失墜させ続けるのか。なぜ自分たちの首を絞め続けるようなことをするのか。同志社大学の心理学部教授、中谷内一也氏の研究によると、信頼を決めるとされる要素には「能力認知」「動機づけ認知」、それに加えて「価値共有認知」があるという。

 能力は専門的な知識や経験、権威であり、動機づけは公正さや誠実さ、努力や行動などに対するモチベーションであるが、肝心なのはそこに「認知」がつくことだ。そうみなしていいのか、それで任せていいのか相手に認知させることが必要になる。さらに中谷内氏の研究の結果、信頼の形成に重要なのは価値の共有だということがわかっている。同じ方向を向いているのか、何が大事なのか、自分たちと意見や見方が一致しているかが認知されなければ、信頼は形成できないというのだ。

 首相をはじめ閣僚や党幹部の能力をとやかくいう気はない。だが度重なるトラブルや不祥事の対応に公正さや誠実さは感じられず、動機付け認知は低い。価値共有認知となればもはや底辺スレスレだろう。首相や自民党が世間と違う方向を向いているのは裏金疑惑だけではない。2021年の衆院選で、盛山正仁文部科学相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の友好団体から推薦状を受け取っていたというではないか。旧統一教会の解散命令請求を控える所管閣僚がそこから推薦状をもらっていたというのに、本人も辞任せず、岸田首相も盛山氏の更迭を否定。首相が更迭しないのは毎度のことだが、「信頼を回復するには、早めに監視と制裁体制を申し入れるべき」と中谷内氏はある講演で述べている。

 だがそもそも回復できるような信頼があるのか、そこが疑問だ。←正論すぎて草wwwww