公の場で放言繰り返す川勝平太・静岡県知事「次々に難癖をつけ、ゴールポストをずらし続けている」との指摘も

 JR東海が工事を進めるリニア中央新幹線(以下リニア)をめぐり、静岡県の川勝平太知事が昨年12月から今年1月にかけて発言した内容が波紋を広げている。「2037年までに解決すればよい」「品川・甲府間で部分開業すればよい」などとする川勝知事の一連の発言に、JR東海は、1月24日に記者会見を開き、「大変困惑している」(同社の木村中専務執行役員)と反論した。

2023年3月に報道公開されたリニア中央新幹線のL0系改良型試験車

 川勝知事の発言で特に今回問題視されたのは、「2037年に品川・大阪間で全線開業すればいい」「品川・甲府間で部分開業すればいい」「山梨実験線を延伸完成させて営業線にすれば開業できる」「工事ヤード(資材置き場)がそもそもできていない(のに工事ができるわけがない)」という主旨の、主に4点の発言である。

 リニアの建設は、静岡県が約10.7kmの静岡工区の工事を許可しないため、未だ完成時期が見通せていない。この4つの川勝知事発言にはどんな意図があるのか、また、JR東海が主張するように事実誤認なのか。ジャーナリストの須田慎一郎氏に解説してもらった。

〈2037年に全線開業〉は「知事の勝手な想像」

 JR東海は昨年12月にリニアの開業時期を「2027年」から「2027年以降」に変更して国交省に申請した。川勝知事は年頭会見でそれに触れ、「2027年という数字がここで消えたため、2037年までに東京から大阪まで全線開通というのが、残された期限になると思う。2037年までに解決すれば良いと、私は受け止めている」と発言。JR東海は、品川・名古屋間の先行開業をやめ、2037年に品川・大阪間で全線開業する方針だと解釈している。

「JR東海は開業は2027年以降になると言っただけで、品川・名古屋間の先行開業を諦めたとは一言も言っていない。JR東海に事実確認もせず、勝手な想像で『2037年の全線開業に間に合うよう、静岡工区の問題を解決すればいい』と言い出しているのです」(須田氏)

 JR東海側も1月24日の会見で「先行開業をやめ、2037年の全線開業を目指すということではない」と全面的に否定している。これに対し、川勝知事は1月29日の定例会見で、記者の質問に答える形で再反論し、「私は自分の考えをJR東海さんが公表したデータに基づいて申し上げている」と述べたが、公職にある人間が公の場で、事実確認もせずに、空想を吹聴するのはいかがなものか。

〈品川・甲府間で部分開業〉は「計画無視のめちゃくちゃな理屈」

 川勝知事は、2037年に同時に全線開業すればよく、どうしても部分開業したいのなら、「品川・甲府間で部分開業すればいい」とも主張した。

「東京・名古屋間に比べれば、東京から甲府への移動の需要は非常に少ないので、まったく現実的ではない。東京・名古屋間で営業を開始して収益を上げながら、名古屋・大阪間の建設を進めるという事業計画をまったく無視している。部分開業するなら、『品川・名古屋』にするのも『品川・甲府』にするのも一緒だというめちゃくちゃな理屈です」(須田氏)

 川勝知事は29日の定例会見でも、相変わらず品川・甲府間で部分開業すればいいという主張を繰り返していた。そもそも、災害時などに東海道新幹線の代替機能としての役割を果たすリニアは東京・名古屋間が結ばれる必要があるし、その前提での計画なのだが、川勝知事発言はそれを無視しているものといえる。

 

 

〈山梨実験線を延伸・完成させるのが先〉は「事実誤認」

 川勝知事は、自身がこれまで問題提起してきた南アルプスの水量、水質、生態系などのモニタリングを先走ってやるよりは、「実験線を延伸・完成させて営業線とするのが先ではないか」と発言している。しかし、JR東海側は、知事が発言の根拠としているのは2010年の資料で、当時はまだ実験線の建設途中だったが、2013年にすでに延伸・完成していると反論した。知事は実験線を営業線にすることを「延伸・完成」と解釈しているので、これは明らかに事実誤認である。

「JR東海と静岡県の事務方の間では、意思の疎通ができているようですが、なぜか川勝知事には事実誤認の発言が多い。事務方から報告がないのか、あるいは、報告されても無視して、思いつきでしゃべっているのか。おそらくは後者だと思います」(須田氏)

 29日の定例会見で、記者から実験線の事実誤認について問われると、川勝知事は「変電所が1つ足りないのに完成したことになっている。変電所を1つ作れば、品川から甲府までが完成し営業運転ができる」と、意味不明な回答をし、「事実誤認ではない」と強弁した。

〈工事ヤードができていない〉は「知事の管轄外」

 この発言も、JR東海側の神経を逆なでしただろう。川勝知事は「先走ったモニタリングの前に、工事ヤードがそもそもできなければ、船ができてないのに寄港地の研究してるようなものですよ」と述べている。工事ヤードの整備をしないJR東海は、工事をやる気がないと言わんばかりだが、実は、トンネル工事の工事ヤード整備を許可していないのは他ならぬ静岡県である。

 この件も定例会見で記者に問われたが、川勝知事は「工事ヤードには2つあり、トンネルを掘削するためのヤードではなく、活動拠点として使うヤードのことを言った。活動拠点のヤードはすでに整備されているが、数年前の豪雨で流されて、そのまま放置されている」と答えている。

 

「活動拠点の工事ヤードというのは、県ではなく、静岡市とJR東海が環境保全のために整備を進めている案件で、そもそも県には関係ない。また、水害で流されて当初の予定より遅れたのは事実ですが、着々と工事は進んでいてほぼ完成しています。流されたまま放置などされていません」(須田氏)

 知事が口出しする案件ではないうえ、情報のアップデートもされていないという。

すべてリニアの工事を止めるための方便か

 これまで川勝知事は、「トンネル工事で地下水が流出し、大井川の水資源が減少する」「工事残土置き場が深層崩壊(表層崩壊よりも深部で発生し、深層の地盤までもが崩壊土塊となる比較的規模の大きな崩壊現象)を引き起こす」「トンネル工事が生態系へ影響を与える」などを理由に、リニアの工事に許可を出さなかった。こうしたこれまでの川勝知事の主張にも、須田氏は疑義を呈する。

「大井川の水問題にしても、JR東海は東電に交渉し、東電の田代ダムから静岡県内に全量を戻す『田代ダム案』を提案した。これで決着するかと思ったら、『水利権の問題はもともとあってリニアとは関係ない。水質も違う』と言い出している。さらに生態系への影響や工事残土置き場の問題と、次々に難癖をつけ、ゴールポストをずらし続けている。すべてリニアの工事を止めるための方便ではないかと疑っています」

 川勝知事の“何が何でも工事を止める”という姿勢が露わになるにつれ、違和感を持つ人が増えている。当初は、ゴネて静岡県に何らかのメリットを引き出したら工事を認めるだろうと楽観視する向きもあったが、まさか、2027年の開業を延期せざるをえなくなるまで反対し続けるとは、誰も予想しなかったはずだ。

 川勝知事は以前、リニア問題の進捗状況を登山に例え「1合目よりは少し進んだ」としていたが、年頭会見では「1回下山したということではないか」と述べている。この発言に、須田氏はこう憤る。

「川勝知事は、リニアの工事をさせないのは、環境保全がされていないからだという主張にシフトしている。それで、国交省が専門科会議を立ち上げて環境アセスをして問題ないという結果を出したのですが、知事は『環境省がやらなければ認めない』と、昨年12月5日に環境省に要望書を提出するアクションを起こした。つまり、生態系への影響の問題は、ゼロから仕切り直すと宣言したわけで、呆れるほかありません」

 それにしても不思議なのは、川勝知事はなぜここまで頑なにリニア建設を妨害し続けるのかだ。リニアが通っても静岡に駅はできないから、何のメリットもないといわれているが、リニアが開業すれば、東海道新幹線の「のぞみ」の速達機能がリニアに代替されるため「ひかり」や「こだま」が増発され、静岡県内の駅に止まる本数が増え、利便性は上がるとみられる。決してメリットがないわけではない。

 静岡県はリニア問題について2月5日に会見を開く予定だという。そこで何が語られるのか、注視したい。

◆取材・文/清水典之(フリーライター)