「稼げる研究」優先の壁に阻まれ研究休止に…マンパワーの問題解消が再開の条件【原発汚染水「トリチウム除去」を誰が邪魔するのか #4】

最後まで柔和な表情を崩さなかった山西弘城氏(C)日刊ゲンダイ

最後まで柔和な表情を崩さなかった山西弘城氏(C)日刊ゲンダイ© 日刊ゲンダイDIGITAL

【原発汚染水「トリチウム除去」を誰が邪魔するのか】#4

「経済的波及効果。その点を疑問視されました」

近畿大学原子力研究所の一室で、所長の山西弘城氏は肩を落とした。

超微細な穴がたくさん開いた「多孔質体」の顆粒にトリチウム水を吸着させる──。新たなアイデアに取りかかった頃、山西氏が参加した近大と民間企業の研究チームは資金獲得のため、政府系の補助金を申請した。

文科省所管の国立研究開発法人「科学技術振興機構」の「A-STEP」という産学共同研究の支援プログラムを探し出し、応募した。しかし、審査の結果は不採択。補助金は拒まれてしまった。

「2020年8月に届いた通知には技術について『十分興味深い』と書かれてありましたけど、制度の趣旨からも致し方ない判断でしょう」

A-STEPは募集要項に〈研究成果の社会還元を目指す〉とうたうが、〈国民経済上重要な技術として実用化すること〉が大前提。要は「稼げる研究」以外は支援の対象にならないということ。国立大学法人法の「改悪」にも通じる「カネにならない研究はいらない」という政府の傲慢さの表れだ。

安全よりコスト優先の金儲け主義が未曽有の原発事故を招き、水産業を苦しめるトリチウム水の海洋放出に至ったのではなかったか。

その後、山西氏らの研究は22年度をもって休止となった。

「一度に分離処理できるトリチウム水の量は飛躍的に伸びましたが、トリチウム水の除染率は50%止まり。連携先の企業は90~100%近い除染率を求めていましたから。また、除染率を高く維持するための素材再生も課題です。再開には正直、マンパワーの問題を解消しなければなりません。研究主導員である井原辰彦先生はご高齢でもあり、以前ほどは研究がすすめられません。集中して関わる研究者は何人も必要です」

トリチウム除去の実用化には、まだまだ経費も時間もかかる。そのためにも研究への理解と支援が求められる。ようやく東電も重い腰を上げた。政府の海洋放出方針の決定に伴い、21年5月からトリチウム分離技術の公募を開始。3カ月ごとの募集で、評価判定は第三者機関に委託する。

これまで国内外から136件の提案があり、15件が1次評価を通過。2次評価を経て10件が実地適合性の検証に移ったとはいえ、直ちに実用化できる段階にはないのが実情だ。

「共同研究の縛りがなくなった今、除去の原理を応用できる範囲を広げ、考えを巡らせています。研究開発組織ができて、研究が進めば、将来的には東電の公募に手を挙げることもありえます」

山西氏たちの挑戦は、まだ続いている。 =おわり

(取材・文=本紙・今泉恵孝/日刊ゲンダイ)