中国人による情報持ち出し事件相次ぐ 拭えぬ「民間人スパイ活動」の懸念、当局が警戒

中国人による情報持ち出し事件相次ぐ 拭えぬ「民間人スパイ活動」の懸念、当局が警戒© 産経新聞

勤務先から情報を持ち出したとして昨年11月以降、中国籍の男女が警視庁に相次いで摘発された。持ち出された情報の国外流出などは確認されていないというが、中国は近年、民間人や企業に情報提供を強制する法律を成立させるなどしており、専門家は「民間人も活用してスパイ活動を活発化させている」と指摘。警察当局は警戒を強めている。

流出は「なし」も…

「業務の勉強をするためだった」。勤務していた東京都のパスポートセンターで個人情報が書かれた付箋紙を盗んだとして昨年11月、窃盗容疑で警視庁公安部に書類送検された中国籍の女は、「犯行理由」をこう説明したという。

女は、センターの業務を請け負っていた民間企業の契約社員として窓口で勤務。パスポートの申請書や戸籍謄本をコピーするなどして、1920人分もの個人情報を持ち出していた。

捜査関係者によると、女は入手した個人情報をもとに、その家族などをインターネットで検索していた形跡もあるという。警察幹部は「(容疑者から)外部への情報流出は確認されていないが、説明がつかない挙動が多い」と首をかしげる。

公安部は同12月にも、電子部品大手「アルプスアルパイン」から機密情報を持ち出したとして、元社員の中国籍の男を不正競争防止法違反(営業秘密領得)容疑で逮捕した。

男は同社を退職後、ホンダに就職しており、転職先で情報を活用しようとしていたとみられる。こちらも、外部への流出は「確認されていない」という。

目的は「一粒の砂金」

公安部が、一般の中国人による情報持ち出しに神経をとがらせるのには理由がある。

中国が2017年に制定した「国家情報法」は「全ての組織と国民は、法律に従って国家情報活動に支援、援助、協力を行い、知り得た国家情報活動の秘密を守らなければならない」と規定。国家の情報収集活動への協力、支援は中国の企業や民間人にとって「義務」とされているからだ。

日本大危機管理学部の小谷賢教授(国際政治)は、「中国は『千粒の砂から一粒の砂金を探す』というように、雑多な情報を集めてその中から価値ある情報を探すという特徴がある」と指摘する。

特に狙われるのは民間企業の先端技術情報だといい「中国大使館は、在日中国人がどこで働いているか把握しており、必要があれば日本にいる民間人を使うことも可能だ」と話す。

民間の研究機関「情報安全保障研究所」の山崎文明首席研究員は、「日本企業ではすでに、特許技術に関わる部門だけでなく、経理や人事など経営に関わる部門にも中国に関係のある人物の浸透が進んでいる」とみる。

山崎氏は、政府が検討している、有資格者のみに経済安全保障に関する重要な機密情報の取り扱いを認める「セキュリティー・クリアランス」の重要性を強調。「日本人、企業はもっと危機感を持つ必要がある」と警鐘を鳴らしている。