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【128】性別変更を不可能に、米政府が検討 「トランプ氏は公約破り」ワシントンポスト紙

株式会社 産経デジタル

2018/10/29 11:04

 

 米国のトランプ政権が性別の変更を不可能にする新制度を検討していることが米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によって明らかになった。厚生省がまとめた資料では、性別は「生まれ持った生殖器によって規定される」案が浮上していて、男性か女性のいずれかに限定される。米国には心と体の性が一致しないトランスジェンダーが約140万人いるとされ、性的少数者(LGBT)の関連団体などが反発している。

■ワシントンポスト(米国)「トランプ氏は公約破り」

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)は23日の社説で、性の定義を生まれつきの性別に限定する政策が実施されれば、「罪もない人々を傷つけることになる」と非難し、政策は「(トランスジェンダーの人々の)現実に即していない」と訴えた。

 同紙はまず、性を定義することの難しさに言及し、「親が選んだ性別に適合せず、変更を望むケースもある」と指摘。国際スポーツの分野でも、遺伝子やホルモンレベルに基づいて科学的に正しい検査方法を模索してきたと紹介し、「遺伝子検査は、生物学的な性別に関する問題を解決するための信頼できる方法にはならない」と主張した。

 また、政策の賛成派は、トランスジェンダーへの理解が欠如しているとも指摘。トランスジェンダーの人々は「浅薄な好み」ではなく、「深厚で本質的な自覚」によって自身の性のアイデンティティーについて考えていると強調した。

 その上で、米社会で長年、否定されてきた同性愛や異人種間の結婚を挙げ、トランスジェンダーの政策が導入されれば、「再び社会から人々を疎外させることになる」と警告。トランプ大統領は大統領選でLGBTのために戦うと訴えていたとし、「新たな公約破りが示されることにもなる」と批判した。

 ニューヨーク・タイムズ紙は23日の社説で、中間選挙を前にトランプ氏が自らの支持層の歓心を買うため、移民問題などで過激な発言を繰り返していると指摘。トランスジェンダーの政策見直しもその一環とし「社会を二極化するゲームをやっている」と政治姿勢を批判した。

 LGBTやリベラル層から反発が強まる中、保守系メディアのワシントン・エグザミナー(電子版)は22日の記事で「オバマ前政権の取り組みから後退したとしても、トランスジェンダーを『抹消』することにはつながらない」と反論した。(ニューヨーク 上塚真由)

■ルモンド(フランス)「敵意に満ちている」

 トランプ米政権が、性の定義を生まれつきの性別に限定することを検討しているとの報道について、フランス紙ルモンド(電子版)は23日、「敵意に満ちている」という見出しで伝えた。米国の人権活動家の発言を引用した。

 同紙は、「トランプ大統領は昨年1月の就任以来、心と体の性が異なるトランスジェンダーやLGBTを守る方策を修正してきた」と指摘。昨年、トランスジェンダーの米軍入隊を大きく制限したことに触れ、「民主党のオバマ前大統領の決定をひっくり返した」と批判した。

 仏南西部の地方紙「ウエスト・フランス」(電子版)は22日、「オバマ政権は学校や刑務所、さらに不法入国者たちの間でもトランスジェンダーの存在を承認させた。後継者のトランプ大統領は全く逆で、LGBTコミュニティーに対する寛容さを持ち合わせていない」と伝えた。

 インターネット・メディアの「スレート」フランス版は10日、トランスジェンダーやLGBTをめぐるトランプ政権の一連の政策について、「いやな時代」との見出しで論評した。キリスト教徒としての信仰を理由に同性婚カップルへのウエディングケーキ製造を拒否した洋菓子店主が今夏、米連邦最高裁で勝訴したことに触れ、「共和党員たちが『宗教の自由』に基づくさまざまな法案を導入すれば、(差別からの)解放を閉ざす手段となる」と懸念を示した。

 さらに、「国の最高指導部が同性愛者への嫌悪を容認すれば、職場や市街地といった日常の場で、公私両面の差別を助長することになる」と指摘。「原理主義的な信仰は、同性愛者への差別をあおる原動力になる」とした欧州の社会学者の論文を紹介し、「トランプ政権は保守派の有権者層を絶え間なく高揚させるためのガソリンを提供し、ポピュリズム(大衆迎合主義)のささやかなゲームをしている。11月の中間選挙を前に、これほど効果的な手段はない」と評した。(パリ 三井美奈)

■ナショナル・ポスト(カナダ)「新たな戦いが勃発」

 同性婚が法律で認められているカナダでは、トランプ米政権の性に関する新たな制度案について「怒りを引き起こす」などと批判し、人権関連団体や有識者の懸念の声を多く伝えている。トルドー首相は、LGBTの平等の権利をカナダが擁護していく方針を掲げている。

 カナダ紙「グローブ・アンド・メール」(電子版)は22日、トランプ政権がトランスジェンダーを排除しようとする動きに脅威を感じながらも、毅(き)然(ぜん)と「われわれは立ち上がる」と徹底抗戦の構えを示すトランスジェンダー団体幹部の声を紹介した。

 「トランプ政権後もわれわれは米国にいるだろう」と、憲法で2期8年までとなっている大統領の任期を逆手にとって皮肉る発言も伝えた。

 いずれホワイトハウスを去るトランプ大統領とは違い、トランスジェンダーの権利を主張する声が同政権よりも息が長いことを強調した格好だ。

 LGBTに対する理解が進むカナダでは、トルドー氏が昨年11月、かつてカナダ政府がLGBTを差別していたことについて「国家による組織的な抑圧と排斥」があったと議会で謝罪した。同性愛者ら多くのLGBTが1950年代から90年代にかけてカナダ政府や軍で解雇された過去を抱えている。

 カナダ紙「ナショナル・ポスト」(電子版)は23日にトランスジェンダーに関する「新たな戦いが勃発」と人権を擁護する世論とトランプ政権との対立を指摘した。

 今回の検討はオバマ前米政権が進めてきたトランスジェンダーの存在を認めて保護する取り組みを真っ向から否定する形で、トランプ政権が共和党支持層の保守派にアピールするという思惑も見え隠れする。

 ナショナル・ポストは、11月6日に迫った米中間選挙を前に、トランスジェンダーの権利を広めてきた運動が「議会の過半数に向けた戦い」に入り込んでいくことに懸念を示した。(坂本一之)