米中対立が激化する中、米国のブリンケン国務長官と中国の秦剛外相が6月18日に北京で会談し、緊張が続く中でも双方が対話を継続することを確認し、秦剛外相が米国を今後訪問することで一致した。18日の会談は夕食を含め7時間半に渡ったが、それだけ双方の間で課題が蓄積していることが浮き彫りとなった。会談では当然のごとく大きな隔たりが見られ、秦剛外相が「台湾は中国の核心的利益の中の核心であり、両国関係の最も突出したリスク」だと指摘したように、台湾問題は自由主義と権威主義の戦いの最前線となっている。
一方、こういった不透明な世界情勢に、日本企業の間で懸念が広がっている。台湾有事となれば必然的に日本と中国との関係は一気に冷え込むことから、日本企業の間では今のうちからチャイナリスクを回避しようと、これまでの中国依存から脱却する動きが広まっている。そして、中国では7月から反スパイ法の改正案が施行されるが、スパイ行為の定義が国家機密の提供に加え、国家の安全と利益に関連する資料やデータ、文書や物品の提供や窃取もスパイ行為とみなられるようになる。これによってますます在中邦人が拘束される可能性があり、日本企業の脱中国に拍車がいっそう掛かるかも知れない。
昨年、日本の経済総理とも言われる経団連会長を務めたキャノンの御手洗冨士夫会長兼社長は、こういった懸念に対し、工場など海外の生産拠点を時代に見合った体制に見直す必要があり、主要な工場を日本に回帰させるもしくは安全な第3国に移転させる考えを示した。そして、大手製造業を中心に既に行動に移し出す企業も見られる。
たとえば、大手自動車メーカーのホンダは昨年自社が持つ部品の国際的サプライチェーンを再編し、中国とその他地域を切り離す方針を打ち出し、マツダも新車の製造で使用する部品の中国依存度を下げていく方針を明らかにした。最近でも、タムラ製作所は中国の工場で生産している芝刈り機などをルーマニアの工場でも生産する計画を明らかにし、日本タングステンも主要製品の原料であるタングステンを価格の安い中国産にほぼ100%依存してきたが、今後は北米や欧州からの調達を強化し、LIXILも米国向け水回り製品の製造拠点を中国からメキシコにシフトさせる方針を発表した。
中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、日本企業を中国と切り離すことは日本経済の崩壊を繋がりかねない。しかし、中国が台湾産のパイナップルや柑橘類などを、オーストライリア産の牛肉やワインなどをそれぞれ突然ストップしたように、今後日中関係の冷え込むによって中国側から経済攻撃が展開される可能性が十分にある。そうなれば、中国に部品や原材料を依存する日本企業は、ある日突然生産できなくなり、そもそもビジネスができなくなる恐れがある。
中国からの完全撤退は難しいとしても、中国依存度を下げ、その部分を国内回帰したり、第3国への依存を深めたりするなど、リスク回避を目指した行動を取っていく必要がある。まだ何もしていない企業は、今こそ行動のときだ。
◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。