中国が、日本を含めた世界53カ国に「非公式警察署」の拠点を設置していたとされる問題で、新たな展開だ。この問題を徹底追及してきた産経新聞論説副委員長の佐々木類氏が、「非公式警察署」が密かに設置されていた親睦団体と関係が深い会社代表との電話インタビューに成功したのだ。代表は、会社の元幹部を中心に日本国内で実行されていた「スパイ行為」の実態を証言した。ウクライナ電撃訪問で「覚醒」した岸田文雄首相は、中国による主権侵害疑惑に、どう対峙(たいじ)するのか。佐々木氏が緊急寄稿した。

東京・銀座をはじめ、全国各地に設置されている中国の「非公式警察署」。私(佐々木)が関係者の取材を進めていたところ、「非公式警察署」と関係がある会社代表、A氏が電話インタビューに応じた。

大阪や名古屋などの大都市圏が点在する西日本エリアで暮らすA氏は当初、対面でのインタビューを了承していたが、取材予定日に「外せない仕事が入った」として、電話で内情を聞くことになった。

この会社は、工業用品の製造、販売などを事業の柱としている。A氏は中国出身で、日本に帰化しているという。

A氏によると、「非公式警察署」は会社が行っていたのではない。元人民解放軍で、すでに会社を辞めた元幹部のB氏が、華僑を中心とする親睦団体を拠点に、日本在住の民主活動家や、中国人留学生に関する情報収集を行っていたという。

驚くのは、B氏がどんな情報収集を行っていたのかを聞いたときだ。

A氏は「スパイ行為だよ!」と明言したのだ。なぜ、そんなことを平然と言うのか不自然に思ったため、私は「スパイ行為という言葉はあからさま過ぎて、にわかには信じ難い」という思いを伝えた。

すると、A氏は「中国や中国人、それに中国より長く暮らしている日本は大好きだけど、中国共産党は大嫌いだよ。だから本音を言うんだ」と語った。

それから、さらにB氏の行動について明かし始めた。

B氏は前出の親睦団体を足場に、優秀な中国人留学生を共産党に入党させるリクルートを行っていたという。また、日本での反中国共産党活動や、思想を持っているとみられる在日中国人らの監視・追跡も行っていた。これらの活動は在日中国領事館の指揮系統下にあったという。

A氏によると、親睦団体は表向き、在日中国人留学生や在日中国人の交流を装いながら、実際には、中国領事館の指導を受けつつ、習近平国家主席に反発したり、反共産党的な危険分子をあぶり出していた。中国本国から通報を受けて、海外逃亡犯などを追跡する役割も担っていたという。

B氏は金銭トラブルから会社を辞めたが、親睦団体を隠れみのにした「非公式警察」活動は続けているという。

「日本人は脇が甘くお人よし過ぎる」

「非公式警察署」は、世界53カ国に存在するとされ、そこに住む中国人民主活動家や一般中国人を監視・追跡しているとされる。

日本で最初に判明した東京・秋葉原の「非公式警察署」は、中国の人権問題を監視するスペインの人権NGO「セーフガード・ディフェンダーズ」が昨年9月の報告書で明らかにした。

その後、東京・銀座や名古屋・栄といった繁華街にも存在していることが分かっている。いずれも、米首都ワシントンにある保守系シンクタンク「ジェームズタウン財団」が2019年1月5日付電子版で公表した報告書や、中国共産党の地方政府が公開した新聞の電子版で判明している。

スペインや米国の報告書は、「非公式警察署」が中国大使館や領事館の指揮下にあると同時に、中国共産党の海外情報機関「党中央統一戦線工作部(統戦部)」が関与しているとしている。

前出のA氏は「日本人は脇が甘くお人よし過ぎる。不当な活動はやめさせなければいけない」と語った。

■佐々木類(ささき・るい) 1964年、東京都生まれ。89年、産経新聞入社。警視庁で汚職事件などを担当後、政治部で首相官邸、自民党など各キャップのほか、政治次長を歴任。この間、米バンダービルト大学で客員研究員。2010年にワシントン支局長、九州総局長を経て、現在、論説副委員長。沖縄・尖閣諸島への上陸や、2度の訪朝など現場主義を貫く。主な著書に『ステルス侵略』(ハート出版)、『チャイニーズ・ジャパン』(同)、『日本復喝!』(同)など。