蔡総統の訪米で習氏〝歯ぎしり〟島田氏「共和党議員との会談は重い意味」 親中派・馬英九氏の訪中を歓迎 総統選を見据え中国の〝暴発リスク〟

 

台湾情勢が緊迫しそうだ。台湾の蔡英文総統は29日からの外遊で米国を訪問し、「自由」「民主」「人権」「法の支配」という共通の価値観を持つ米議会要人らと面会する。米台は軍事的覇権拡大を進める専制主義国家・中国に対峙(たいじ)する連携を深めている。一方、「親中派」とされる馬英九前総統は27日から訪中した。中国の習近平国家主席は「台湾統一」に向けて「武力行使を放棄しない」と公言している。来年1月の台湾総統選を見据えて、中国の〝暴発リスク〟もありそうだ。

「非常に遺憾だ」「台湾に圧力を加え、軍事的な侵入(の度合い)を高めて地域の平和と安定に衝撃を与えている」「こうした圧力や脅威も、台湾人民の自由や民主主義を堅持する意志を損なうことはできない」

蔡氏は26日、中米ホンジュラスが中国と国交を樹立し、台湾と断交したことを受け、このような声明を動画で発表した。蔡氏の4年ぶりの外遊直前、中国側が冷や水を浴びせようとした可能性は高い。

台湾総統府は21日、蔡氏が29日から来月7日の外遊に合わせ、米国を訪れると正式発表した。台湾当局関係者によると、ケビン・マッカーシー下院議長ら米要人と会談、民間シンクタンクのイベントで講演する予定だ。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は同日、「非公式、私的なもので珍しいことでもない」「過剰反応する理由はない」といい、中国側にクギを刺した。

これに対し、中国外務省の汪文斌報道官は同日の記者会見で、「いかなる形式であれ米台の公的な往来に断固として反対する」と断言した。さらに、「『台湾独立』は八方塞がりで、外部勢力と結託して『独立』を図るという幻想は必ず失敗に終わる」と非難していた。

米台関係はどう動くのか。

福井県立大学の島田洋一教授は「中国に厳しい姿勢を示す民主党のジョー・バイデン政権だが、野党・共和党はさらに厳しく、中国の覇権主義や人権問題を批判している。蔡氏と共和党所属のマッカーシー氏との会談は、重い意味を持つ」と語る。

島田氏は、蔡氏がロナルド・レーガン元大統領の業績を記念した図書館で講演する見通しであることにも注目し、続けた。

「レーガン氏は自由主義陣営の先頭に立ち、独裁主義の旧ソ連陣営と徹底的に対峙した。中露などが新たな専制主義連合を形成しつつあるなか、米台でレーガン氏の衣鉢を継ぐ決意を表明する舞台になる」

米台連携に対し、中国は狡猾に動いた。

台湾の最大野党、中国国民党所属の馬前総統が、蔡氏と同時期に訪中している。1949年の中台分断以降、総統経験者の訪中は初めてだ。

馬氏は、中国と距離を置く蔡政権に不満を持ち、「中国と交流すれば、台湾海峡の軍事的緊張を緩和できる」と一貫して主張してきた。訪中は自身の先祖の出身地、湖南省の墓参りが理由だというが、習政権要人と会談する可能性もあるという。

蔡氏率いる与党・民主進歩党は早速、「(馬氏の訪中は)『中国の圧力に屈した』という誤ったメッセージを国際社会に送る」と指弾した。

これに対し、中国政府側は蔡氏訪米をこき下ろす一方、「馬氏来訪にあたり、必要な支援を惜しまない」と歓迎の姿勢を表明した。

昨年8月、当時のナンシー・ペロシ下院議長が電撃訪台すると、中国人民解放軍は台湾を包囲するように大規模軍事演習を実施した。日本のEEZ(排他的経済水域)内にも弾道ミサイル5発を撃ち込む暴挙に出た。今回も反発はあるのか。

中国に詳しい評論家の石平氏は分析する。

「蔡氏訪米に向けて『米台の友好』が国際的にアピールされ、中国は『一本取られた』状況だ。台湾総統選が迫り、前回と同様の大軍事演習をすれば、蔡氏らの行動の正しさを裏付け、台湾の人々の反発を招きかねない。口で罵倒しても、軍事行動は自重するのではないか」

では、馬氏訪中の影響はどうか。

石平氏は「蔡氏訪米を打ち消すために招請したのだろうが、馬氏は台湾で存在感を失った『過去の人物』だ。外交的に無意味だろう」と語る。

石平氏「台湾を孤立無援にするのは最大のリスク」

米台は最近、安全保障上の結びつきを強めている。

米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、米国は「中国の攻撃に備えた訓練」(米政府当局者)を任務に、現状の4倍の軍部隊を台湾に派遣する。台湾メディアも、台湾側が今年下半期に陸軍大隊(400~600人)を米国へ初派遣し、軍事交流すると報じた。

石平氏は「台湾総統選が終われば、中国は軍事的な動きを急加速する恐れがある。日本は米国と歩調を合わせて『日本有事』に直結する『台湾有事』を阻止すべきだ。日本の防衛、反撃能力の強化が『抑止力』を高める。台湾を孤立無援にするのは最大のリスクだ」と警告する。

島田氏は、日本の〝主体性〟を求めて、次のように語った。

「米国は、沖縄県・尖閣諸島や台湾への中国の威圧に『対抗』を明言した。米本土上空を飛行した中国の『スパイ気球』問題が決定的だ。ただ、バイデン政権はあやふやな面もあり、『台湾有事』での軍事介入を確信するのは危険だ。安倍晋三元首相は、侵攻を必ず阻止する意思を示す『戦略の明確化』を主張したが、日本はいまこそ、その姿勢が求められる。軍事的実効力がある日米台連携が必要だ。経済面でも、自由主義諸国の『中国デカップリング(切り離し)』が進んでいる。日本も供給網の対中依存脱却や、半導体などの輸出規制に本腰を入れるべきだ」