ダイヤモンド編集部,杉本りうこ

2019/08/28 06:00

 

 

中国が民間の技術力を活用して国防力を強化する「軍民融合」を推進する中、経済産業省が安全保障的な視点から技術・産業戦略を推進する司令塔組織を新設したことが、ダイヤモンド編集部の取材で27日までにわかった。人工知能(AI)やロボット、半導体といったハイテク領域を特に念頭に置き、こういった領域を振興しながら、技術流出を阻止する戦略を実施する。電子機器メーカーなど企業にとっては、これまで以上に政策との協調が求められることになる。米中では近年、国益を実現するために経済活動をコントロールする動きが活発化しているが、日本にもこの動きが広がっている。(ダイヤモンド編集部 杉本りうこ)

中国は安全保障の意図を

産業政策に盛り込んでいる

 新設されたのは「経済安全保障室」。62日付けで、大臣官房内の組織として設置された。大臣官房には複数の組織にまたがる業務を調整する機能がある。新設された経済安全保障室も、輸出を管理する貿易管理部や各産業の担当部署など複数の組織と連携しながら、戦略の構築と遂行を担う。担当幹部は貿易経済協力局長の保坂伸氏。現在は15人(兼務を含む)が新組織に所属している。

 中国の軍民融合戦略は、2006年ごろに始まった。戦闘機のような軍事兵器の開発のほか、サイバーセキュリティーや社会監視システムなど、より幅広い意味での国防領域で実施されている。全国人民代表大会(全人代=国会に相当)の常務委員会は20189月、「軍民融合発展法」の立法計画を発表しており、中国政府は軍民融合をさらに推進する方針だ。

 これに強い警戒感を持つのは米国。特に中国政府が、外資企業の進出に対して中国企業との合弁を義務付けたり、海外での研究開発やMAを行う企業・大学に対し強力な財政的支援を与えたりしていることについては、市場のルールを利用して技術移転と軍民融合を促進していると批判してきた。このような国益目的で経済的手段を活用する政策は「エコノミック・ステイトクラフト」と呼ばれる。米国政府は中国がエコノミック・ステイトクラフトを実施している以上、自国も行うべきだと考え始めている。

 ただこういった流れは、自由経済のルールと基本的に相容れない面がある。米国の安全保障の識者の間では、自国が積極的にエコノミック・ステイトクラフトを展開することについては賛否が分かれている。

 新設された経済安全保障室は、中国が軍民融合を進めていることを前提に、国内技術の流出を防ぐとともに、日本の産業競争力を高めることを目的とする。実際にどのような手段を講じるかについては、「エコノミック・ステイトクラフトと呼ばれる手法をポジティブに活用していく必要がある」(経済安全保障室の担当者)としている。

 安全保障問題に詳しい拓殖大学の佐藤丙午教授は「中国が安全保障的な意図を産業政策に積極的に盛り込む中、日本にとっては貿易品目の管理といった従来の安全保障手法だけでは対応が難しくなっていた。経済安全保障室の新設は、産業政策と安全保障という2つの分野をリンクさせたという点で評価できる」と話している。

 当面の活動としては、米国が輸出管理改革法(ECRA)で新たに輸出規制対象と指定した14種類の新興技術について、日本のどういった企業がどの程度の水準の技術を保有しているのかを調査する。14種類には、AIやロボット、マイクロプロセッサー(半導体)、バイオテクノロジーといった技術が含まれる。こういった技術を取り扱い、これまで中国企業と取り引きしてきた日本企業は、相手企業に提供した技術や製品が、軍事転用されていないかこれまで以上に厳重にチェックする必要が出てきそうだ。

 

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