中国経済の

先行き不安が高まる

 足元で、中国の経済が「成長の限界」を迎えている。2018年のGDP成長率は28年ぶりの低水準に落ち込んだ。同年の新車販売台数も28年ぶりに前年を下回った。これまで高い経済成長を実現してきた中国経済は「曲がり角」に差し掛かりつつあるようだ。

 リーマンショック後、中国は主に投資によって景気を支えてきた。

 その結果、大規模な公共事業が続き、経済全体の成長率を高めるような案件はかなり少なくなっているようだ。一方で中国企業が抱える借り入れは着実に増えている。BIS(国際決済銀行)のデータによると、2018年末、中国の非金融民間部門の債務残高はGDP比204%だった。これは、バブルの絶頂期の1989年末、同じ基準で見たわが国の債務残高の水準とほぼ同じだ。

 今後、成長率の低下などで不良債権が増加し、金融システム不安につながることも懸念される。中国の「債務リスク」は、世界経済にとって無視できないリスク要因といえるだろう。

 本来であれば、中国は生産性の低い在来型の産業から、より効率的に付加価値を生み出すAI(人工知能)やIoTなどの先端分野へと、産業構造を変えることが必要になるはずだ。しかし足元では共産党内の保守派の勢力が増しており、改革を進めるのは容易でないようだ。“灰色のサイ(債務リスク)”は一段と大きな問題になるだろう。

 それに加え、米中摩擦の激化から、サプライチェーンがかつてのように機能していない。米中摩擦は「覇権国争い」であり、短期間で終息することは考え難い。

 中国経済の先行き不安は高まるだろう。

中国を圧迫する

債務膨張と生産年齢人口の減少

 中国は経済成長率を高めることが難しくなっている。その状況を端的に言い表せば、「成長の限界」だ。

 まず、債務問題が深刻化している。できるだけ早めに不良債権処理を進めない限り、わが国が経験したような大きな“痛み”を伴う対応は不可避だろう。

 投資を中心に経済を運営する中国の発想は限界も迎えている。

 昨年、30以上の都市で地下鉄開発が行われた。その多くで収支のバランスが取れていない。中国ではインフラ投資を行ったとしても、利払いなどのコストを上回る付加価値を獲得することが困難になっている。また中小の銀行では、資金の乱用などから財務内容が急速に悪化している。政府は中小銀行向けに流動性を供給し、何とか金融システムの安定を維持しているのが実情だ。

 次に、人口動態面からも成長が難しくなっている。1970年代後半、鄧小平が進めた“改革・開放”により、農村部の豊富かつ安価な労働力が都市部に移動し、工業化の進展を支えた。中国が“世界の工場”としての地位を確立したのは、人口の増加が経済成長を支えるという“人口ボーナス”を使うことができたからだ。

 しかし、2012年に中国の生産年齢人口(一般的には1564歳、中国の定義では1559歳)は減少に転じた。

 これは、中国経済が人口の増加に支えられて高成長を謳歌(おうか)した時代が終焉(しゅうえん)を迎え、生産年齢人口の減少とともに労働コストの増加に直面しつつあることを意味していた。20161月、中国政府は“一人っ子政策”を撤廃したが、36年間も続いた人口抑制策が人々の生き方に与えた影響は甚大だ。少子高齢化が続く中で、経済の支え手である生産年齢人口の減少は避けられないだろう。

 生産年齢人口の減少を反映し、中国では人件費の上昇が顕著だ。中国が繊維など軽工業を中心に、“世界の工場”としての産業競争力を維持することは限界を迎えた。その上、米中摩擦を理由に世界の企業が“脱・中国”の取り組みを進めている。世界経済における中国の地位は低下している。

必要な

構造改革の推進は困難

 経済の成長が限界を迎えた中で金融の緩和や財政支出を増やしたとしても、経済の効率性は高まらない。それは、1990年代初頭にバブルが崩壊した後のわが国を振り返るとよくわかる。1997年度までわが国の政府はすでに整備が一巡した上に公共事業を積み増し、雇用の保護を重視した。この間、社会心理の悪化への配慮から改革は遅れ、不良債権は雪だるま式に増えてしまった。

 ここから得られる教訓は、経済が低迷し金融・財政政策の効果が見込めなくなった状況では、構造改革が必要だということだ。

 中国は、バブル崩壊後の日本経済をよく研究している。ただ、実際に中国政府が構造改革を進め、鉄鋼分野などの過剰生産能力を淘汰(とうた)し、不動産バブルの鎮静化などを図りつつ債務の圧縮を進めることは難しい。

 改革を進めれば、中国の雇用環境は一時的に悪化する。

 それは、民衆の憤怒を増大させ、共産党による一党独裁体制の不安定化につながるだろう。今春の全人代などでは習国家主席に対する不満や批判が増えた。習氏が悠久の独裁体制を整備していくためには、どうしても目先の不満に配慮せざるを得ない。

 5月初め、中国は米国と5ヵ月間にわたって協議を重ねてきた150ページに上る合意文書案を、一方的に105ページに修正して圧縮し、米国に送り付けた。習氏は共産党保守派に配慮して、米国への譲歩を取り下げなければならないほどの状況に直面していたのである。

 保守派が求めていることは、“国家資本主義(党主導による経済運営)”の強化だ。国有企業を中心に業績が悪化する中、地方の共産党幹部は企業への補助金支給を通して自らの権力を維持しつつ、地元の経済を支えたい。米国の求めに応じて、中国が補助金政策を手放すことはないだろう。

 中国が目先の景気を支えるために、補助金政策は重要だ。補助金政策の強化は、収益性が低下している“ゾンビ企業”の延命措置でもある。結果的に中国の債務問題は深刻化に向かい、改革を目指すことはさらに難しくなるだろう。

中・長期的には

中国経済の先行きに不安

 このように考えると、中国は米国から第4弾の制裁関税を適用されることは、何としても避けなければならなかった。もし、第4弾の制裁関税が適用されていたなら中国経済は急速に減速し、債務懸念が追加的に高まった可能性は否定できない。

 629日の米中首脳会談で、中国が米国からの大豆輸入拡大など譲歩を示し、ファーウェイへの制裁緩和と追加関税の回避を実現できたことは非常に大きい。首脳会談を挟んで通商摩擦が“停戦”できたことは中国経済にとって大きなサポートだ。

 同時に、米中の摩擦は“覇権国争い”という長期の変化でもある。

 米民主党内には共和党以上に対中強硬派がいる。安全保障を理由に米国は対中強硬姿勢を強める可能性がある。停戦協定が結ばれたからといって通商摩擦が片付いたとはいえない。摩擦が再激化するとともに企業のサプライチェーン再編成は加速し、生産拠点としての中国の存在感が低下する展開も考えられる。中国がこれまでの産業基盤を基にして成長を目指すことは難しい。

 理論的に考えると、中国には産業の変革が必要だ。

 カギは、中国企業家の“アニマルスピリット”を発揮することだ。ファーウェイの独自OS「ホンメン」実用化に向けた取り組みには、他国には見られないスピードと勢いがある。政府が市場原理を導入しつつ、ヒト・モノ・カネがAIなど成長期待の高い分野に再配分されやすい状況を整備し、不良債権処理を進めるか否かが問われる。

 現実的に考えると、国家資本主義体制の維持と強化を目指す保守派の勢いが勝る中、中国が新しい産業基盤の整備を目指すことは難しい。当面、中国は公共投資の積み増しや補助金政策の強化などによって目先の景気浮揚を目指すことになるだろう。同時に、金融緩和を通してシャドーバンキングや中小銀行の資金繰り支援も実施されるはずだ。

 成長の限界を迎えた中で行き場を失った資金は、再度、信用リスクを反映して利回りの高い金融商品に流れ、追加的に債務が膨張する恐れがある。中国の“灰色のサイ”がさらに巨大化する展開は軽視できない

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)

 

古来、シナが弱体化すると周辺国は平和を享受してきました。

10か国ぐらいに分裂すると平和になります。

例:五胡十六国時代