2019/01/05 08:31

 

 1221日にロイターが配信した記事を読んで背筋が凍った。その理由は、中国でスパイ容疑により拘束されているカナダ人たちの扱いが今から3年ほど前に聞いた話とほぼ同じだったからだ。(参照:毎日聴取、夜間消灯できず=中国で拘束中のカナダ人-ロイター–時事通信)

 3年ほど前、中国の地方政府の役人と食事をしていたときに、役人からスパイの容疑者を担当する国家安全局(中国語だと国家安全部)での容疑者の扱い方の一部を聞いた。

 スパイの容疑者は基本的には他人と接することがないように個室で収監される。早朝から深夜までおよぶ取り調べは毎日行われ、消灯時間はなく室内電灯は24時間つけたままで、寝るときは仰向けで室内灯を向いて寝なければいけない。

 極めつけは、面会制限で、親族はもちろん弁護士の面会、接見も禁止される。唯一面会できるのは、大使館の関係者のみでそれも月1回のみとなる。むろん差し入れの類は一切できない。

 中国は国際的な人権軽視や虐待との批判をかわすため肉体的には一切手を出していないことを強調している。確かに直接の拷問や虐待ではないが、これではメンタルヘルスを崩壊させる手段を用いて取り調べをしているとしか思えない。

 国家安全局だとそのような扱いとなると地方政府役人から聞いたとき著者は、「本当にそこまでやるのか?話を盛って大げさに話しているのだろう」と思っていた。

 それが現実に行われていることが拘束中のカナダ人と面会したカナダ大使館関係者の話としてロイター通信が伝えたのだ。

◆中国で拘束されるということ

 1219日には中国での3人目のカナダ人拘束が明らかになり、翌20日、中国外務省の華春瑩報道官が拘束理由は不法労働であってスパイ容疑ではないと明らかにした。その際、少し笑みを浮かべるような表情で話していた。華報道官は日本でも厳しい表情で話すことで知られているが、発言を見た人の中には、「3人目のカナダ人も拘束されていることには変わりないのにどうして笑っているのか?」と不思議に思った人もいただろう。

 これには理由と体外的なアピールが隠されている。国家の安全に関わる超重要なスパイ容疑での拘束と単なる不労労働での拘束では、同じ拘束でも雲泥の差があり本質的にまったく違うとアピールしたいのだろう

 これには理由と体外的なアピールが隠されている。国家の安全に関わる超重要なスパイ容疑での拘束と単なる不労労働での拘束では、同じ拘束でも雲泥の差があり本質的にまったく違うとアピールしたいのだろう。

 中国ではスパイ容疑以外の罪、すなわち一般に日本で警察が行うような案件や出入国管理に関する犯罪については中華人民共和国公安部(以下、公安)が拘束、勾留して取り調べをする。以前、本サイトでもお伝えしたように公安でも相当に雑に扱われるが、国家安全局と比べるとそれでもマシと言える。(参照:スパイ容疑で在中邦人が拘束! 中国で拘束されるとどうなるのか?)

 公安拘束でも(外国人の場合)最初に必ず大使館や領事館関係者の接見を受けるまでは友人や家族は面会できないが、面会は週1で認められ、面会時に現金や多少の本や衣類なら差し入れもできる。消灯もあり電気は消える。昼間はテレビを見たり、外部へ13分間だけ電話することも許されている(罪の重さや勾留所によって異なる。以上は大連勾留所の事例)。

 それでも公安案件で拘束経験がある人に話を聞くとひどい環境で今でもたまに夢に見ると話す。

 それが、国家安全局で拘束されると、それよりもさらに過酷な環境下に置かれるのだ。きっと想像に絶する辛さだろう。両者の違いは扱いだけではない。国家安全局は元々政府直属の情報機関なので予算は無尽蔵で公安の予算とは月とスッポンほど差がある。また、公安の人間は日本の警察のような制服を着ているが、国家安全局の人間は情報機関なので基本スーツを着ている。

 2015年から日本人がスパイ容疑で拘束される事例が相次ぎ、現時点で8人の日本人がスパイ罪で起訴されている。この8人に加え半年以上の長期拘束されている日本人は昨年の『日本経済新聞』によると100人近いと見られているのだ。8人以外は、麻薬の運搬や殺人、傷害事件、悪質だと判断された不法滞在、不法労働などであるがいずれも公安案件として扱われている。

◆日本人拘束が減っている背景

 その中国で2018年新たにスパイ容疑で拘束された日本人は0人だった。一体どうしてなのか。日本政府関係筋によれば、2018年が日中平和友好条約締結40周年だったことで春先から多くのイベントがあり、日中両国の要人が往来していたことと、春先から深刻になり泥沼化している米中貿易戦争が影響しているという。

 中国としては日本との不要な摩擦を避け少しでも中国の味方にしておきたいという思惑が関係している。

 その現れの1つが昨年7月に相次いで判決が出された日本人スパイ罪の判決だ。中級人民法院(地裁に相当)で男性2人へ5年と12年の実刑が言い渡されている。128日には上海で日本人女性へ5年の実刑が言い渡された。

 2014111日に施行された「反スパイ防止法」の最高刑は死刑で、施行当時、中国人弁護士へ法解釈を確認すると軽くても懲役20年以上や終身刑と考えられるとの見解を示していた。

 それを踏まえて考えると、相当軽い量刑が下されたと言える。中国はそのときの内政状況によって中央政府の裁量で量刑やスパイの定義すらもいくらでも変更できるということだろう。

 スパイ容疑で拘束が続くカナダ人2人の速報はあまり入ってこないが、中国政府に優遇されていたと言われいていたNGO団体代表で実業家のマイケル・スパバ氏は、201711日から施行された 「NGO国内活動管理法」を半ば力技で適応させてスパイ容疑で拘束したと考えられる。

 現時点、日本人にとって201617年ほどの中国での拘束リスクはなくなっている。そのわけは、上記のような中国の事情に加え、ファーウェイ問題でロックオンしたターゲットが一時的に日本人からカナダ人へ移行しているだけだ。もし、ファーウェイ問題や米中貿易戦争に何かしらの落とし所が見つかり解消し、さらには201951日の新天皇即位後とされる習近平国家主席の来日が無事に終わった後には再びターゲットが日本人となり日本人がスパイ容疑で再び拘束される事案が発生することは十分に予想できる。

<取材・文・撮影/我妻伊都(Twitter ID@Ito_Wagatsuma)>