その時そこにいた猫たち 「ピンぼけ」
ずいぶん昔の話。
マンションをエレベーターで昇ろうとしたとき
おじいさんが乗ってきてこう言った。
「10階は何階ですか?」
私はしばらく無言で考えてから、こう返事した。
「たぶん10階だと思います。」
私はこのおじいさんは少しボケてるなと思ったが
おじいさんはおじいさんで、私のことをかなりボケてるなと
思ったに違いない。
三年ほど前にテレビを処分した。
新聞もいわゆる一般紙は取っていない。
ラジオもほとんど聞かない。
「世間」というピントが存在するなら
私はかなりひどいピンぼけじいさんという事になるのかもしれない。
でもピントが合っていればそれでいいというはずはなく
ピンぼけのほうがいいことだってあると、思わないこともない。
奇麗なピンぼけでいたいものだ。
ねえ、君たち。
また会えるといいね。

