昨日、第百五十一回直木賞の発表があり、黒川博行氏の「破門」が選ばれた。同作はまだ読んでいないが、近く手にとってみたいと思っている。

直木賞。かつては、室生犀星や松本清張、司馬遼太郎などが選考委員を務めていた。現在の選考委員は、浅田次郎、伊集院静、北方謙三、桐野夏生、高村薫、林真理子、東野圭吾、宮城谷昌光、宮部みゆき。この方々が料亭に集まって、あーでもないこーでもないと選考している。
小説の評価というものは、一定のレベルさえ超えていれば、あとは好き嫌いの問題が大半を占める。受賞作には、その年の選考委員の好みが大いに反映されている。


さて、本作は、二〇〇六年の直木賞受賞作品。
「器を探して」「犬の散歩」「守護神」「鐘の音」「ジェネレーションX」、そして、表題作である「風に舞いあがるビニールシート」。以上六編からなる短編小説だ。
大変申し訳ないが、最初の三作は非常に読みづらい文章で内容もつまらなかった。なんでこの人が受賞したんだろう・・・挫折しそうになりながらもがんばって読み進める。と、最後の二作は良かった。


表題作は、主人公の里佳が、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で働くエドと結婚し、離婚し、彼の死を乗り越えてアフガンへ赴くことを決意する話だ。

エドは、ザイール・エチオピア・コソボなど、現場での支援活動を行うことに使命感を感じている。本作の題名は、内戦に翻弄される難民たちの悲惨な現状を、また、それに心を縛られ突き動かされるエドの焦燥感を、ビニールシートが激しい風にあおられる様に例えたものだ。

このような活動をする男性と家庭を築く。普通に惹かれあった二人だけど、普通の結婚生活はやってこなかった。最後の赴任地アフガニスタンで命を落とすエド。里佳は、彼との短い恋愛をおさらいするように回顧しながら、最終的に彼と同じくアフガンへ赴任することを決めるのだ。


所々新鮮な表現があって楽しめるが、ドラマ仕立て感が少々残念に感じられた。
一般の読者にとっては実感がわきにくい難民支援。だけど、この国際問題の大きさこそが、主人公が愛した男の魅力、ひいては、最後に主人公がなした決断の重みにつながっている。つまり、本作の奥深さを感じさせる上で、最も重要な要素なのだ。そうだとすれば、もう少し肉薄した「本物らしさ」がなければならないだろう。


小学生の時、学校の図書館で緒方貞子という人の本を読んだ。彼女は、女性初・日本人初の難民高等弁務官になった人物だ。実際に問題に取り組んでいる人の言葉は重い。彼女の一言一言には、田舎で暮らす小学生にさえ、同じ地球上のどこかに想像もつかない理不尽があることを、リアリティをもって教えてくれた。
こういう生の声がもつ力に引けを取らない小説を書くには、調べた知識を詰め込んでドラマを仕立てるだけではダメだ。もっともっと想像力を働かせ、文学の力をもって本物以上の「本物らしさ」を産み出さなくてはならないだろう。


さて、読後に、本作の選考に関する選考委員たちの講評を読んでみた。井上ひさしと林真理子、五木寛之が高い評価を与えて票を投じている。反対に、評価が低いのは渡辺淳一と平岩弓枝だ。低評価の理由はともに、下調べをしたことを取捨選択せぬまま全て吐き出してしまっているという点だった。阿刀田高の評が、自分の感想に最も近い気がした。

小説の感じ方は人それぞれで、他人の評価を気にする必要はないと思う。でも、一応は当代に名を馳せている作家たちの言ってることだから、ビールでものみながらペラペラ読めば面白いこともある。占いと一緒で、聞いたからといってそれに左右されないことが大事だけれど。

読んでみてもし気の合う作家がいたら、その人の作品を読んでみるのもいいかもしれない。







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