ホテルという所には、

いろいろなお客様が宿泊し、

さまざまな人間模様が、

繰り広げられている。

このお話は、あるホテルで、

本当にあった、身につまされる、

ツライお話です。

先に付け加えておくが、

これは、下ネタではない。

大人の保健体育とでも言おうか。

それは6月の日曜日の、

ある朝のことだった。

私は、フロントに立っていた。

午前6時50分。

前の日は、土曜日ということもあり、

満室状態であり、日曜の朝は、

チェックアウトで大変な混雑が、

予想されていた。

まだこの時間は朝食前の時間で、

ロビーもまだ静かだった。

正に嵐の前の静けさだった。

ひとりの若い女性が、

フロントの私の前に立った。

あの、すみません。

病院を紹介して欲しいんですが。

は?

どなたか、お身体の具合でも?

あいにく、日曜でございますので、

病状によっては、

救急車でもご手配致しますが?

いいえ。結構です。

完全に目が座っていた。

女性は、22歳。

昨日、市内で結婚式を済ませ、

当ホテルへ一泊し、

今日、新婚旅行でハワイへ出発予定。

新婦は見たところ元気そうなので、

新郎のお加減でも悪いのですかと、

聞いた。すると思いがけない言葉が。

夕べ、ダメだったんです。

え?

ですから、病院を紹介して下さい。

朝から、何を言っちゃってんの。

新婦は、続けてこう言った。

こういう場合は、内科ですか?

外科ですか? 泌尿器科ですか?

私に言われましても。

新婦は、私の目を見つめて言った。

私、夕べ初めてだったんです。

〇女なんです。

おい。おい。おい。

いきなり私にカミングアウトされても。

それに私を見つめて言うなよ。

照れるだろうが。

何か言わなければならない。

左様でございますか。

何言ってんだ私は、と思いながら、

ご、ご主人は何と?

彼も初めてだと言ってます。

ご主人は、32歳。

恋愛経験なし。

歳の差カップルである。

私は、戸惑いながらも、

それでは、精神的なものでは?

初めてで、緊張なさったのでは?

私は、〇〇〇カウンセラーか!

朝っぱらから、〇〇〇のお悩み相談か!

私は、言った。

どちらかといえば、精神科では?

すかさず、新婦は言った。

彼が、信用出来ないんです。

私を騙して結婚したんです。

自分の〇〇〇が不能なのを隠して、

私を騙して結婚したんです!

彼は、〇〇〇なんです!

おい、おい、デカイ声で言うなよ。

すでにロビーは、出発の人や、

清算のお客様でいっぱいだ。

みんな気づき始めた。

貴方は精神的なものと言いましたけど、

貴方の初めての時は、どうでしたか?!

やっぱり、〇〇〇は、

役に立たなかったんですか?!

急性〇〇〇になったんですか?!

だから、デカイ声で言うなよ。

本当に、〇女か?

貴方も同じだったというなら、

私は納得します。

おい、おい、ちょって待て。

朝っぱらの7時半に、

ホテルの、

フロントカウンターの真ん中で、

みんなの見守る大衆の面前で、

何で、自分の初体験の話を、

披露しなければならんのだ。

嫌な汗が出てきた。

私も、〇〇〇不能の〇〇〇でした。

と言えば済むのかと思ったが、

大勢の大衆の前で、

私も、〇〇〇でしたと言えるか!

今日から楽しい新婚旅行ですから、

ご主人様も緊張もほぐれて、

きっと、うまくいきますよ。

あははっ。

病院でハッキリさせないと、

新婚旅行でハワイなんて、

行く気になりません!

新婦は、その時すでに、

涙や、鼻水やらで、

顔はグシャグシャだった。

彼が〇〇〇で、一生不能のままで、

この先、結婚生活が送れますか?!

だから、〇〇〇と言うなよ。

みんな見てるだろうが!

私、結婚したのに、

一生、〇女のままなんですか?!

悲鳴に近い声がロビーに響いた。

私に聞くなよ!

私は、自分が不能になったような、

そんな錯覚がしてきた。

まずい。このままでは、

本当に精神的なストレスで、

自分が〇〇〇になってしまう。

かれこれ、40分も、

〇〇〇カウンセラーをしている。

めまいがしてきた。

その時、

新郎が現われた。

新郎は、新婦が戻って来ないし、

出発まで時間もないので、

荷物を持って降りてきたのだ。

皆が注目している。

本日の主役。噂の新郎の登場だ。

〇〇〇不能で〇〇〇の新郎。

もはや、周りの皆が知っている。

〇〇〇不能の新郎だ。

急性〇〇〇の新郎だ。

大衆の声が聞こえてきそうだ。

新郎は、びくびくしながら、

こちらへ来た。

多分、昨日の夜に、

かなり、問い詰められたのだろう。

目が怯えきっていた。

新婦は、私を指さして言った。

この人が、承認よ。

新婦は、新郎に向かって言った。

このフロントの人に言って!

私は、〇〇〇じゃありません!

昨日は、緊張していて、

出来ませんでした!

そう言って!

おい。おい。おい!

だから、デカイ声で言うな!

じゃないと、このまま帰る!

新婦の目に、周りの人たちは、

視界に全く入っていないようだ。

私は、〇〇〇じゃありません。

だから、〇〇〇って言うな!

昨日は、緊張していて、

出来ませんでした。

私は、宣言された。

新郎の声が震えていた。

新婦は、新郎を引きつれて、

ごった返したロビーを抜けて、

玄関から出て行った。

その後、どうなったのか、

私は知らない。


結婚、恐るべし。

女、恐るべし。