経産省「脱東電」断念…電力調達に応札ゼロ
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20120304-OYT1T00770.htm
 経済産業省が2012年度に本庁舎(東京都千代田区)で使う電力を供給する事業者を募集する一般競争入札で、応札した事業者がいなかったことがわかった。

 経産省は4月から料金を平均17%値上げする東京電力から電力の供給を受ける見通しだ。電力自由化を進めたい経産省も「東電依存」から脱却できなかった形だ。

 11年度分の入札では、年間使用電力量1250万キロ・ワット時を約1億8000万円で応札した電力の小売り事業者(特定規模電気事業者=PPS)と契約した。これまではPPSと東電より割安な料金で契約していたが、今回は応札がなかった。12年度分の電力を供給できるPPSを探す方針だが、最終的には東電との契約を迫られるとみられ、「値上げの影響を受ける」(担当者)ことになる。

 経産省は00年9月から電力の調達先を入札で決めており、入札にはPPSや東電など2~5社が参加していた。12年度分はPPSが企業などへの電力供給で手いっぱいで応札できなかったとみられる。経産省は値上げしない中部電力との随意契約も検討したが、「民間企業に先んじて調達するのは問題」(関係者)として断念したという。

 ああ、やっぱりねーという感想しか。
 特定規模電気事業者、いわゆるPPSという事業形態は、工場など自前で大規模な発電機を持ってるような企業から余剰電力を買い取り、それを需要家へと売ることで成立しています。つまりは、発電機を持ってる側に余剰がなければ成立しませんし、たとえPPS側が供給者側と契約を結べていたとしても、需要者側のニーズが高まればそれだけ料金の高騰も避けられる物じゃありません。
 PPSとしても慈善事業じゃないんですから、他に需要があるのに、わざわざ競争入札に参加する必要もないんでしょうね。

 もっとも、昨年以来の電力不足や燃料費高騰によって、PPSの経営そのものも危機的状況にあるというのが本当のところのようですが。

■国内のエネルギー自由化市場とエネルギーサービス市場を調査(抜粋)
https://www.fuji-keizai.co.jp/market/12015.html
3)JEPXへの依存  一般電気事業者の発電能力に左右されるJEPXの電力価格

JEPXにおける電力価格は、実質的に一般電気事業者の発電能力に左右されており、一般電気事業者の設備が正常に稼働する状態であれば、PPSが自社で発電設備を開発・保有するより低コストで電力を調達できる。しかし、原子力発電所の事故や長期停止など、電力需給が逼迫する状態になれば、一気に価格が高騰するため、JEPXへ依存度の高いPPSの事業継続性や採算性を大きく左右している。


 特に重要と思える点を引用してみました。
 一般電気事業者、つまりは、東電や関電などの原発を含む発電所が十分に稼働していてこその電力安売りだったわけでして。
 安いPPS経由の電力が欲しかったら、東電等の大手電力会社の発電能力が健全に機能し、なおかつ燃料費がある程度抑えられている必要があるということが、このレポートからは見て取れるんじゃないかと思います。

 え?電力自由化が進めば発電施設保有したPPSも勃興する?
 どうでしょうね。難しいんじゃないでしょうか。
 電力に関しても地産地消は一つの理想でしょうけど(なにしろ、今次の震災のように一地域の被災によって、それ以外への電力供給に支障が出る可能性は少なくなりますし)、実際には小~中規模の発電会社を作れるかというとかなり難しいんじゃないかと。

 そう考える理由はいくつかありまして、大きな物を一つあげるならば、それは今も電力各社やPPSを苦しめている燃料価格。
 これこそスケールメリットが一番物を言う分野でして、特にLNGなんかですと現状は受注生産に近いのだとか。たとえば合衆国のシェールガスですけど、現在政府が交渉を進めてはいますが、輸入が実現するには液化施設を西海岸の積み出し港近辺に作る必要があります。
 つまり、大量かつ長期的な契約の目処が立たなければ設備投資が出来ないわけで、中小規模の地域密着型発電企業は、交渉のテーブルに付くことも難しいんじゃないでしょうか?
 電力各社が今現在高い燃料を買わざるを得なくなってるのも、原発再稼働の先行きが良くも悪くも不透明になっているのが大きいんじゃないかと思います。なにせ、原発を当てにせず行こうって事で、長期契約結んだところに原発再稼働にゴーサインが出たなんて事になったら、目も当てられませんからね。
 もちろん、東京ガスなどのガス会社が一括で買い上げて、各地の発電企業に分配するという手もありますけど、そうなったらなったで、今度は競争も何もあったもんじゃないかとも。
 コスト削減で競争するとなると、何が削られていくかと言えば、やはり人件費やメンテナンスが槍玉にあげられるでしょう。そうなれば施設の安全性や供給力の安定に不安が出てきてしまうわけで……競争を促すためにその辺が疎かになってしまうと、利用者も安心して使えませんし、立地は環境に対する深刻なリスクを抱え込むことになります。

 もう一つ大きな障害として、発電所建設のイニシャルコスト。個人的にはこれが一番大きいんじゃないかと思います。
 たとえ小規模な発電所であっても、その建設には一定以上の面積を有する敷地が必要なわけで、これの取得と立地地元との長期にわたる交渉、そして厳しい環境基準のクリアなどは、参入に二の足を踏む要因としては十分じゃないかと。以前にも触れましたけど、旧式化した既存の火力発電機のリプレースにしても、計画から営業運転までに最短でも5年、これが新規であれば最短でも10年くらいは見とく必要があるでしょう。
 断言しちゃいますが、10年以上もの長期間、利益出ないことに目をつぶって発電所建設に邁進するなんて事が出来るのは、製鉄所など、どうしても自前の発電機が必要かつ、それだけの投資をし続ける体力あるところか、既存の電力各社くらいなものでしょう。

 それだけのイニシャルコストが必要なのに、安売りをユーザーから強要されるような事業、誰が経営者であっても参入は願い下げなんじゃないでしょうか?


 そんなわけで、たとえ電力の完全自由化が成し遂げられたとしても、現在の地域独占体制が崩れるとはちょっと思えませんね。反原発や反東電で吹き上がっちゃってる人達には、残念ですけどもw


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