Japan's Neuclear Future: Policy Debate, Prospects, and U.S. Interests(pdf注意)より
Part1からの続き
アジアにおける軍拡競争の可能性

 多くの安保専門家にとって最も憂慮すべき可能性は、日本が核兵器開発を決定した結果起こりうる、地域における軍拡競争の拡大である(※33)。この憂慮は核装備後の日本が、韓国をして、独自計画の推進をせざるを得ない気持ちにさせる事が出来るという確信に基づいている。その結果、中国に比較的小型の兵器備蓄を増強及び改善する事を促し、台湾の核武装を促す可能性がある。これはすでに核武装しているインドとパキスタンに対し、過剰な効果を順繰りに与える可能性がある。数国の核保有国が勃興する『現実に等しい』見通しは、歴史的不満と現代の緊張がすでに蔓延っている地域に、深刻な不安定化をもたらす可能性がある。一部の安保専門家によってなされる反論は、冷戦中に核抑止力が安定をもたらし、アジアにおいても似たような核バランスは達成できるとする物である。しかしながら、多くの評者は危険性が安定要因を上回ると主張する。

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※33:『Prudence and Realism in Japan’s Nuclear Options(日本の核オプションにおける打算と現実主義)』松村 昌廣著。 Brookings Institution website。2008年1月16日発表
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米中関係

 米中政府間関係の向こう数年間にわたる道筋は、日本における核武装論議に重要な影響を及ぼしそうである。関係が大幅に冷え、冷戦型の睨み合いが拡大するならば、数国からの合衆国の抑止力増強要求があるかもしれない。合衆国の一部のタカ派評論家は、中国の戦力に対抗するための『解き放たれた』日本を必要とした(※34)。中国の苛烈な脅威が認識された事により、日本と合衆国の当局は、日本の非核状態への見解を再考することとなった。このシナリオが流布するために、地政学的な予測は相当な転換を必要とされるだろう。他方、米中関係がより緊密になるならば、日本はより独立した防衛態勢をとる必要性を感じる可能性がある。合衆国と中国が 様々な双務戦略や核協議に携わるのであれば、これは特に当てはまる(※35)。今日までの関係改善にも拘らず、日中政府間の不信感は強いままであり、日本の防衛関係者の多くは、中国の急速な近代化を重大な脅威として見ている。

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※34:Richard Lowry氏の『Time for the Sun to Rise(太陽が昇る時)』(National Review。2005年7月4日発行)を参照のこと
※35『Japanese Perspectives on Nuclear Weapons, Disarmament, and Nonproliferation(核兵器・軍縮および拡散防止における
日本の展望)』古川勝久著。Research Institute of Science and Technology for Society powerpoint presentation。2007年11月29日発行。既存の米中原子力協定の詳細については、CRS報告のRL33192『U.S.-China Nuclear Cooperation Agreement(米中原子力協定)』(Shirley A. Kan編)を参照のこと。

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朝鮮半島の将来

 朝鮮半島の最終的な再統一はどのような形であれ、さらに日本の核に対する態度を再考させる事となるだろう。2つの朝鮮が核兵器を保持したまま再統一を果たし、核軍備を維持することを選ぶならば、日本は異なる予測に直面する事となるかもしれない。確かに、日本の数人のアナリストは核装備のまま再統一された韓国は、核装備の北朝鮮より一層の脅威となると主張している。

このような核に対する判断は、さまざまな要因に依存している:新しい国の合衆国との関係における政治的方向性や、再統一された政府の、歴史的に難しい関係にある日本に対する交渉姿勢など。韓国と日本は1965年に関係を正常化したが、1910~1945年までの半島での日本の過酷な植民地支配に対し、多くの韓国人は恨みを抱いている。非常に密接した隣国である韓国が敵意を表すのであれば、日本は核武装能力を開発する事を意識せざるを得ないかもしれない。韓国との軍事同盟と六者会合での主導的な役割のため、合衆国は韓国の統一に向け、考えられるあらゆる関与を行うだろう。朝鮮半島で将来起こりうる展開に対する合衆国の非常事態計画は、核兵器開発に関する日本の考え方を考慮に入れなければならない。

日本の国際的評価

 日本が核武装を決定したとすると、信念を持つ核拡散防止の主唱者としての国際的評価は損なわれる事になるだろう。多くの評者達は、これが日本の最終的な野心である、国連安保理の常任理事国入りを妨げると主張する。これらの結果の矢面に日本が立つ事は勿論の事であるが、同様に合衆国の国益にも害を及ぼすだろう。日本は大抵の場合、国際社会から圧倒的かつ肯定的な印象を持たれており、国際的問題に対する合衆国主導の努力への日本の支持は、信頼性と合法性を添える事となる。多少例を挙げるならば、民主主義促進、平和維持活動、環境協力、そして多国間防衛演習等が等が挙げられる。

世界的な拡散防止体制への損害

 日本独自の核武装開発は、合衆国の拡散防止政策にも有害な影響を与える事になる。合衆国が非核武装国に、核武装否定の立場を維持するよう納得させるより、北朝鮮のような国に武装計画を諦めさせるよう説得する方がより困難であろう。日本が脱退するか条約に違反するのならば、平和的原子力利用の保証人であるNPTと監視体制であるIAEAへのダメージは、回復不能なものとなるだろう。核の傘の下にある友好同盟国が核爆弾を獲得する事を選択するならば、おそらく合衆国との効果的な二国間関係を享受している他の国は、自身の選択を行うにあたり抵抗が軽くなるだろう。また、より一般的な合衆国の安全保障に対する信頼を、徐々に蝕む事となるだろう。

(完)