Japan's Neuclear Future: Policy Debate, Prospects, and U.S. Interests(pdf注意)より
Part7からの続き
合衆国の政策における課題

合衆国の安全保障義務


 日本政府に現在まで核兵器保有推進を思い留まらせている唯一の重要な要因は、おそらく日本の安全を保護する合衆国の保証である。冷戦中、核攻撃の脅威が拡大していたため、日本は合衆国の『核の傘』の下へ入った。しかし日本が核攻撃を受けた場合、合衆国が核兵器で応酬するかについては、ある種の曖昧さがつきまとっている(※25)。合衆国政府当局は、そうすると仄めかしてはいる:2006年の北朝鮮による核実験の後で、コンドリーザ・ライス前国務長官は「…アメリカ合衆国は、あらゆる種類の応戦をする能力があり、それによって日本に対する抑止力と安全保障を確約する事を私は強調する」と、東京で語った(※26)。日本の大部分の政策担当者は、同盟を強固にする事と同様に通常戦力を共有する事の方が、独立した核戦力の追求よりも健全な戦略と強調し続ける(※27)。

 冷戦中、合衆国とソビエト連邦による相互確証破壊の脅威は、一種の捩れた安定を国際政治にもたらした。日本は合衆国の対ソ封じ込め戦略の太平洋正面として、合衆国の広範な抑止力を確信しているように思われた。 合衆国は繰り返し日本防衛を約束してきたが、戦略的利害関係の変化に伴い、日本の識者の幾人かはアメリカの誓約に疑問を抱いている。合衆国が中国との間に緊密な関係を結ぶならば、日米政府間の安全保障の展望に食い違いが生じ、合衆国の関与が更に弱まるのではないかと、少数の日本人達は心配している(※28)。また、これらの評論家達は、六者会合における北朝鮮の非核化交渉に対し、柔軟な姿勢で臨んでいる点を合衆国が日本の戦略的展望を共有していない更なる証拠として指摘する(※29)。二国間同盟の弱体化は、日本の自身による抑止力発展の可能性を切り拓きたい者達の、影響力を強化するかもしれない。

 これらの懸念にも拘らず、多くの古顔の評論家達は、1980年代の激しい貿易戦争を潜り抜けたにも拘らず、長年の協調と強い防衛関係による同盟は、基本的に強固であると断言する。おそらく、より重要な事は中国の勃興は確実視されているため、地域における所定の位置に合衆国が軍事プレゼンスを保つ事を欲する事であろう。そして、日本は東アジアにおける、合衆国軍の主要な策源地である。合衆国が日本との同盟を、太平洋における軍事プレゼンスの基本的構成要素と見なし続けるならば、合衆国の指導者達は日本防衛に対する関与を、再度述べる以外の事を必要とされるかもしれない。しかし、同盟解消の懸念を鎮めるために、日本の指導者との高レベルの協議に従事しなければならない。公式な議論の必要性と、その他の戦略的曖昧さにおける美点が、国民と地域にデリケートな問題を与えるため、核シナリオにおける共同討論を行う価値に対する意見の相違が存在する(※30)。

 合衆国の態度、特に核兵器開発に対する様々な議論は、日本の戦略計画決定に巨大な役割を演ずる。日本の核オプションについて懸念する安保専門家は、合衆国当局もしくは有力な解説者が、日本の核装備に対しいかなる黙認のシグナルをも送ってはならないと力説する(※31)。例えば日本政府筋の賛成として、日本の核武装の可能性に脅える他の国が解釈するかもしれない。

 戦域ミサイル防衛システムの日米共同開発は、合衆国の日本防衛に対する関与を心理的にも実質的にも補強する。2006年6月の北朝鮮による数発のミサイルの試験発射は、既存のペトリオット能力改善3型(PAC-3)共同開発計画を加速した。PAC-3はイージス駆逐艦の海上発射システムと同様の地対空迎撃ミサイルである。実用化に成功したならば、飛来するミサイルの迎撃能力に対する信頼は、日本の外国からの攻撃に対する恐怖を、軽減する一助となるかもしれない。この安心感は、核抑止力の検討へ向う様々な潜在的要因を抑えるかもしれない。そのうえ、共同での努力は日米安保をより緊密に結びつける。しかし継ぎ目無き融和への障害は、今後なお残るだろう。

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※25:『Not Going Nuclear: Japan’s Response to North Korea’s Nuclear Test(核武装の否定:北朝鮮による核実験に対する日本の反応)』ノーチラス研究所政策フォーラム刊。伊豆見 元・古川勝久共著。2007年7月19日発行
※26:『U.S. Is Japan’s Nuclear Shield, Rice Says(合衆国は日本の核の盾:ライス長官談)』Los Angeles Times。2006年10月19日
※27:『Japan Tests the Nuclear Taboo(日本の試練・核タブー)』Nonproliferation Review第14巻第2号2007年6月発行
※28:『Japan Peers Into the Abyss(日本は深遠を覗き込む)』Brad Glosserman著。PacNet Newsletter #20。2008年3月20日発行
※29:『核に基盤をおいた同盟』Brad Glosserman著。PacNet Newsletter #21。2007年4月19日発行
※30:例として以下を参照:『Turmoil in Tokyo: Military Bases and the Nuclear Deterrent are Key to Reinvigorating the U.S.-Japan Alliance(東京の混乱:軍事基地と核抑止力は、日米同盟を蘇らせる鍵)』Armed Forces Journal。2008年10月18日及び『An Alliance in Need of Attention(同盟には配慮が必要)』International Herald Tribune。2009年1月22日発行
31 Kurt Campbell and Tsuyoshi Sunohara, “Japan: Thinking the Unthinkable,” The Nuclear Tipping Point, 2004.
※31:『日本:想像も出来ない事を考える』Kurt Campbell・春原剛共著。The Nuclear Tipping Point。2004年発行
※32:『集団自衛』の原則は、どの程度緊密にミサイル防衛強力を集約できるかについて、問題を提起している。この言葉は国連憲章の第51条が語源であり、武力攻撃が行われた場合、個別的又は集団的な自衛権を加盟国が行使する事を認めている。日本政府は集団的自衛権の下に交戦する国権を有すると主張する。しかし、1960年の内閣法制局の日本自身の防衛ではない、他国の防衛には熟慮が必要とする憲法判断により、集団的な行動は禁じられた。米軍と日本自身のどちらが標的とされているかを、日本の指揮官が如何に判断するのか。集団的自衛権の禁止はそのような疑問を提起している。現在の解釈の下、合衆国軍が攻撃された場合、日本は法的拘束により対応できない。

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(Part9・合衆国の政策における課題:アジアにおける軍拡競争の可能性に続く)