今回はしなの鉄道をご紹介致します。しなの鉄道は長野県の軽井沢駅から篠ノ井駅及び長野駅から妙高高原駅を結ぶ鉄道です。それぞれ軽井沢〜篠ノ井駅間はしなの鉄道線、長野県〜妙高高原駅間は北しなの線となっています。どちらも元々はJR東日本の信越本線でしたが、長野新幹線(現北陸新幹線)の開業に伴い第3セクター化された路線であります。


今回はその中でもしなの鉄道のメイン路線であるしなの鉄道線へ乗車しました。この路線は先述の通り、信越本線の一部でした。信越本線は特に、横川駅〜軽井沢駅の区間は勾配がきつく、専用の車両しか走る事が出来ない碓氷峠と呼ばれる鉄道の難所として昔から有名でした。そもそも鉄道は鉄の線路を鉄の車輪で走りますからゴムタイヤで走る自動車などとは異なり摩擦が少なく、勾配は大敵なのですが、当時の技術力から峠越えをしなければならないためやむを得ずこの区間は急勾配の区間となりました。その後時が経ち、東京から長野まで新幹線が開通する事となりました。碓氷峠の区間は山を貫く形でトンネルを掘り、勾配を回避する事に成功しました。結果、所要時間の大幅な短縮に貢献しました。技術力の進歩による恩恵であります。1997年の長野新幹線の開業に伴い、難所であった横軽間(碓氷峠の区間)は廃止、新幹線と並行する軽井沢〜篠ノ井駅間はJRから分離という形になりました。こうしてしなの鉄道線は開業した訳であります。


しなの鉄道線の区間は軽井沢〜篠ノ井駅間ですが、篠ノ井駅から長野駅まで信越本線に直通します。現在、しなの鉄道線ではJRから譲渡された115系と呼ばれる古い車両と新型のSR1系と呼ばれる車両が活躍しています。尚、しなの鉄道の115系は老朽化のため2028年迄に順次引退となる模様です。


そんな115系は国鉄が開発した寒冷地及び山岳地帯向けの近郊型車両です。近郊型車両とは、その名の通り首都圏近郊エリアで主に中・長距離を走る普通列車として使用するために作られた車両です。路線事情や製造時期、後年の改造により異なる場合も有りますが、ドアは片側3箇所でドア間にはボックスシート、ラッシュ時に混雑し易いドア付近と車端部はロングシートというのが基本的な仕様となっています。115系の登場は今から凡そ60年前の1963年。殆ど同じ外観ながら其々の路線事情に合わせた性能をもつ113系や415系(鋼製車)も存在しており、似た顔つきでドア数の少ない急行型車両も含めると全国各地で見られました。首都圏近郊エリアでは115系は嘗て高崎線や宇都宮線でも活躍し、上野駅迄顔を出していました。兄弟分である113系は東海道本線、横須賀線、415系は常磐線の中距離列車で活躍し、何処でも見る事が出来ました。然し、これらの車両の内、どんなに新しい車両でも製造から40年余り。老朽化により年々その活躍範囲は狭まりつつあります。415系鋼製車は既に九州地区を最後に全車引退(車体がステンレス製ながら鋼製車とほぼ同じ機器を搭載した後期車は九州で今も一部が活躍しています)。113系や115系は岡山や山口などJR西日本の一部地域ではまだ見られますが、JR東日本管内では新潟エリアを最後にこのタイプの車両は撤退しました。そのため、しなの鉄道で活躍する115系は東日本エリアでは最後の生き残りとなったグループであります。


岡山駅で見られる115系。113系、415系なども殆ど同じデザインでしたから全国各地で見られました。私も常磐線でよく目にしていましたから非常に懐かしい…。先頭車と中間車が連結されていたり、ステンレス製の後期車と連結されていたりと編成によるバリエーションが多く、見ていて面白かったです。岡山エリアでは今でも次々と国鉄型車両がやって来ますから羨ましい限りです。丁度原型に近い編成がやって来ました。この車両は方向幕がLEDに更新されているものの、車内は昔ながらのボックスシートが並び原型に近いものとなっています。塗装も東海道本線や高崎線、宇都宮線などでも見られた湘南色となっています。所謂かぼちゃ電車です。


岡山エリアではこの様な大規模修繕が行われた車両が大多数を占めます。因みに、この車両は115系だと思っていましたが、調べてみたらどうやら113系だったようです。ほぼ同じ見た目ですから判り辛い…。車内は新車並みに更新されている他、外観も窓サッシが原型の2段窓とは異なるものに交換されているのが特徴です。また、塗装は簡略化のため生まれた黄色一色(末期色と親しまれています)となっています。他にも、元々中間車だったものを先頭車にしたため顔が異なる車両も活躍しています。


東日本エリアでは最後となった115系。塗装こそ異なるものの外観は可成り原型に近いものとなっています。しなの鉄道では様々な塗装の115系が活躍しており、写真のしなの鉄道標準色の他、広告塗装や新潟エリアで見られた新潟色、そして湘南色などの車両も活躍しています。


今回は軽井沢駅から長野駅迄乗車しました。現在、新型車両の投入に伴い115系の運用が減少している模様で、乗車する列車に115系が充当されるか不安でしたが、運良く115系がやって来てくれました。発車近くなると国鉄型車両独特の床下の抵抗器を冷却するファンから発せられる掃除機の様な音、そして走行中モーターから響き渡る低音の力強い音…。正に昭和の風景です。乗客も始終殆どおりませんでしたので折角ですから窓を開けてみました。この日は気温が低く、上着が必要な程でしたので駅での停車中は特に床下の抵抗器からの排熱をとても感じました。


車内。床や座席が更新されていますが、ボックスシートとドア付近はロングシートという近郊型車両の基本的なレイアウトは変わっていません。壁も交換されているそうですが、国鉄時代に近い色合いです。窓は昔ながらの2段式です。このタイプの窓は安全面から更新の際に下段の窓が開かないように固定、又は途中で止まる様にストッパーが付けられている事も多いですが、この車両では珍しく大きく開ける事が出来ます。


ドア。ステンレス製でガラスは黒ゴムで固定されています。このタイプのドアもめっきり見かけなくなりました。しなの鉄道115系の特徴としまして、ドア上にモニターが付いています。このモニターでは広告などを流すそうですが、この日は作動していませんでした。


方向幕は昔ながらの字幕式。車端部に設けられた通風口が115系の特徴です。屋根上にもベンチレーター(灰色の四角い部品です)が残っています。車内の換気を行うための部品ですが、雨水が入り易いのが難点で、西日本エリアの車両は老朽化対策で撤去されてしまっていますから115系でこの装置が見られるのはここだけです。


しなの鉄道の115系は先述の通り、2028年迄に引退となる事が発表されています。それにより東日本エリアからこのタイプの車両は完全に消滅となる見込みです。一方、西日本エリアの113系、115系は未だ纏まった数の車両が残存しており、引退こそ発表されていないものの(※岡山地区では新型車両への置き換えが開始されており、近い将来見られなくなるでしょう)、経年を踏まえると5年後、10年後には残っているか分かりません。気になる方は是非乗りに行ってみる事をお勧めします。