今回は1969年にリリースされたローリング・ストーンズのベスト盤”Through The Past Darkly”です。このアルバムは主に1960年代後半にリリースされた楽曲を集めた内容となっており、1960年代のストーンズを締め括る1枚です。また、本作の編集中にストーンズの初代ギタリストであったブライアン・ジョーンズが27歳の若さでこの世を去った事からブライアンを追悼する作品ともなりました。


本作はジャケットが8角形の所謂変形ジャケットである事で有名。UK盤の内容を踏襲した日本盤や収録楽曲が異なるUS盤でもこの独特の形状をしたジャケットが採用されました。但し、70年代後半になると通常の四角形のジャケットに変更されてしまいます。


今回はUK盤を御紹介いたします。ヒット曲を集めたUS盤とは異なり、当時イギリスでは未発表だった”Sittin’ On The Fence”や初期のEPからの楽曲”You Better Move On”といった楽曲も収録されており、より通好みな内容に仕上がっていると感じます。


今回はモノラル盤を御紹介致します。UK盤はステレオ盤の他、モノラル盤も作られました。(品番はそれぞれ MONO : LK 5019 / STEREO : SKL 5019 となっています。)丁度ステレオ盤へ移行する頃でしたからモノラル盤はあまり出回りませんでしたが”You Better Move On”は初期の楽曲でモノラルミックスしか作られなかった点(ステレオと書かれた盤に収録されているものは所謂擬似ステレオ音源)からモノラル盤の方がより自然な音を楽しむ事が出来るかと思います。


ジャケット。写真では見辛いですが例に漏れず表面にはコーティングが施されています。オリジナル盤ですが写真は何故か白飛び気味の物が使われています。因みに、この写真はブライアンがストーンズとしてバンド脱退前最後に参加したフォトセッションで撮られたものだそうです。タイトル下には収録楽曲が書かれていますが何故か順番は全くもってバラバラ。一方、日本盤は収録順となっています。当初はこの順番で収録する計画だったのでしょうか?


ジャケットは見開きタイプとなっています。盤は右側の内側から収納されます。見開きの内側に口が開いたジャケットはビートルズの”For Sale”位しか見掛けない様に感じます。右側にはブライアンの追悼文が書いてありますが黄色で印刷されているため見辛い…。因みに、右側がフリップバックになっているものとなっていないもの(写真は後者のタイプ)が存在しており、前者が最初期のものと言われていますが、両方ほぼ同時期に出回っていた模様ですからそこまで拘らなくても良いかと思います。


盤。レーベルはお馴染みの赤いオープン・デッカの初版。少々遅れてデッカのロゴが四角に囲まれたタイプへ変更されます。時代柄レーベル部分に溝の付いたタイプは存在しません。マトリクスは其々-P-1A / -P-3Aとなっており、此方が初回マトリクスであると言われています。最後のAはカッティングを担当したエンジニアを意味していますが頭に付いているPは何を意味するのでしょうか?


盤の状態は盤面に大きな擦れが見られるため見栄えは良く無いものの、非常に浅い擦れであるため音には全く影響有りません。


インナースリーブはジャケットに合わせて八角形の専用品です。モノラル盤用ですから赤色且つMONOの表記がなされています。


裏面。通常、スリーブはレコード会社の汎用品を使用し、ジャケットにMONO又はSTEREOと表記するのが普通ですが、何故わざわざモノラル盤専用のスリーブを用意したのでしょう?この意味は後程ご覧に入れましょう。


ジャケット裏面。一見何の変哲も有りませんが、右上の部分をよく見てみますと…


ステレオ盤、モノラル盤其々の品番が記されています。そしてその直ぐ左側に開けられた穴からはスリーブの赤い色の部分が見えています。


つまり、穴から見える中のスリーブの色でこの盤がモノラル盤なのかステレオ盤なのか判別出来る様になっているのです。当時はモノラル盤の生産数が減少しつつあり、わざわざモノラル盤のために専用のジャケットを作るのも手間になっていました。そこで、スリーブのみ専用品を用意する事で、ジャケットは共用出来る様にしたのです。何て賢いのでしょう!この方式は69年頃から英国デッカ社のみで採用された事から通称デッカ穴などとも呼ばれています。ストーンズでは本作の他、後にリリースされる”Let It Bleed”や過去の作品では”Satanic Majesties”(67年)、”Big Hits”(66年)等の追加プレスで見られます。


因みに、ステレオ盤のスリーブはこの様な青い色をしています。写真は”Beggers Banquet”に付いていたもの。尚、”Beggers Banquet”にはデッカ穴ジャケットが作られなかったため、モノラル盤、ステレオ盤のスリーブを入れても意味がありませんでした。