今回は1965年にリリースされたザ・フーの1stアルバム”My Generation”です(話がややこしくなりますのでUS盤に関してはここでは無視しますので、気になった方は調べてみて下さい…)。ザ・フーは1964年にデビューしたバンドです。日本では残念ながら少々影が薄いものの、ビートルズやローリング・ストーンズと並びイギリスを代表するロックバンドです。メンバーの死去や解散等、紆余曲折あったものの現在は再結成を果たし、第一線で活躍しています。


1stシングル”I Can’t Explain”は以前此方で御紹介しております。オリジナルアルバムには未収録ですからUKオリジナル盤で聴きたい場合はシングル盤を入手する必要があります。此方もブランスウイックレーベル(盤のプレスは英国デッカ社が担当)ですが、比較的入手し易いかと思います。


そんな1stアルバムは1965年にリリースされましたが、当時所属していたブランスウイックレコードの閉鎖により僅か2年で廃盤となり、契約の関係(当時プロデューサーを務めていたシェル・タルミーとバンドとの関係悪化が主な原因と云われています)で80年にレーベルをVirginに変更の上再発されるまでは一度も再発されず、廃盤の状態が続いておりました。80年の再発盤リリース以降は再度廃盤となり、CD化による復刻は何と2002年(日本では冷遇度合いが更に酷く、66年に内容とジャケットを独自のものへ変更した初回盤がリリースされて以降、この時まで一度も再販されなかった)に入ってからだったそうです。そんな不遇な歴史をもつ名盤です。


内容はオリジナル曲9曲にカバー曲3曲の計12曲という構成。ビートルズやストーンズの1stアルバムと比較するとオリジナル曲の比率が高く、ピート・タウンゼントの作曲能力の高さがよく分かります。吃る様な歌唱が特徴的でシングルでも大ヒットした”My Generation”やビートルズを意識したかの様なコーラスが美しい”The Kids Are Alright”といった60年代を代表する楽曲も収録されています。作風は当時若者の間で流行していたモッズの影響を色濃く受けており、演奏も非常にパワフルなものです。ザ・フーと云えばロジャー・ダルトリーのパワフルなボーカルは勿論の事、今尚高い評価を得ているキース・ムーンの激しいドラム(アルバムのラストに収録されているインストナンバー”The Ox”では彼のドラムを堪能する事が出来ます)やジョン・エントウィッスルの”リード”ベースばかりに目が行きがちですが、セレクタースイッチを使ったリードギターなどかなりユニークなギターを聴く事が出来ます。ギタリストとしてのピート・タウンゼントにも注目すべきでしょう。


今回は65年の初回盤と80年の再発盤を御紹介致します。


先ずはオリジナル盤から。品番はLAT 8616で、モノラル盤のみ作られました。Brunswickからリリースされた初回盤は先述の通り、僅か2年程で廃盤となってしまったため、そもそもの生産枚数が少なく、一種のコレクターズアイテムとなっています。とは云え、当時はそれなりの枚数が作られた筈ですから根気強く探せば見つかるかと思います。


因みに、レコードの製造は英国デッカ社へ委託しているため、盤やジャケットの質感はデッカ社のレコードと同じです。


当時のUK盤ではお馴染みの表面にコーティングが施されたジャケット。


ジャケット裏面。此方側にはコーティングが有りません。所々経年による染みが見られるものの裂けや破れといった致命的なダメージは無く、経年を踏まえると概ね良好なコンディション。


英国デッカ社純正のインナースリーブが付属。デッカ委託プレスのレコードですから恐らくオリジナルの組み合わせでしょう。状態も良好。


当時のデッカ社製レコードではお馴染みのレーベル部分に溝が有る盤。このアルバムは67年迄に廃盤となりますので68年以降使用される溝なし盤は存在しません。デッカと同様、レーベルの細かな表記違いによるバリエーションがあり、このアルバムでは3種類が確認されている模様です。マトリクスの表記もデッカ方式で、この盤は両面共に1Bです。例の如く最初から複数のラッカー盤を使い回してプレスいたようで、マトリクスは他にも2Bのものが存在している模様です。


盤の状態は細かな傷こそ見られるものの、音に影響するものは殆ど無く、可成り良好な状態です。音も素晴らしく、正に当時のスタジオの雰囲気を真空パックに詰めたかのよう。演奏も非常に際立っています。しかし、タイトルトラックのA6”My Generation”だけは音が小さく音質の劣化が感じられます。これはこの曲のみシングル用のマスターを流用しているためだそうです。尚、”My Generation”のシングル盤も所有しておりますのでいずれ御紹介します。


続きまして1980年の再発盤を見ていきましょう。品番はV2179で、初回盤と同様、モノラル盤のみです。レーベルはVirginに変更されています。


1980年の再発盤。コーティングは有りません。レーベルが”Virgin”に変更された以外はオリジナル盤のデザインをそのまま流用しています。写真はやや白飛び気味。


裏面。基本的なデザインはオリジナル盤と同じですが、クレジットの文字フォントが変更されており、新たに作成されたものである事がわかります。メンバーの写真は可成り画質が粗くなっており、如何にもコピーされたかのようなものです。


レーベルはオリジナル盤のものを可成り意識したデザインとなっています。マトリクスのナンバーも変更されておりますので改めてカッティングが行われています。


80年の再発盤の音も素晴らしく、充分満足出来るレベルだと感じました。特に、オリジナル盤では音質が悪化していた”My Generation”の音質が改善されている点は評価すべきでしょう。低音域も良く出ています。しかし、オリジナル盤と聴き比べてしまいますと矢張り演奏のキレがやや劣る印象を受けました。残念ながら、僕が所有している再発盤のB面は(恐らくプレスミスでしょう)全体的にピッチが不安定です。B1”The Kids Are Alright”イントロ部分でのピッチの揺れがどうも気持ち悪い…。


P.S.

オリジナル盤を聴いていますと”The Kids Are Alright”の間奏部分が長く感じ、再発盤やCD(ベスト盤ですが)と比較してみますとオリジナル盤では矢張り演奏の部分が長くなっています。初めての発見でした。気になって調べてみますと、どうもUKオリジナル盤に収録されたロングバージョンと米国でのシングル盤用に編集されたショートバージョンの2種類が存在している模様で、ショートバージョンの方が一般的に有名になったそうです。つまり、80年代の再発盤の”The Kids Are Alright”は米国向けシングル盤用の音源を流用しており、間奏がカットされていない本当のUKバージョンを聴きたい場合はオリジナル盤を入手しなければならないと云う訳ですね。


因みに、ミュージック・ビデオは間奏が長いロングバージョンが使用されていました。