平和を望むならば戦いに備えよ | 旗本退屈女のスクラップブック。
西村眞悟の時事通信

平成28年3月8日(火)

 中共の首脳は、全人代で、「海洋強国」を建設すると宣言し、
 東シナ海・南シナ海そして西太平洋に覇権を拡げて「中国の海」とするための
「軍事闘争への備えを統一的に推進する」国防費を提示した。
 その額、日本円で約十六兆七千億円であり我が国の国防費の三・三倍である。
 しかし、この公表された国防費は総額の二分の一に過ぎないと指摘されている。
 
 これは経済の失速のなかでも断じて軍事拡張を止めない姿勢を示したものである。
 
 産経新聞社説は、この状況に関して
 「自ら敵を増やすつもりか」
 という強烈な題名を与えて異常性を強調した上で、
 「習主席は異常な軍拡を思いとどまり、
 各国と手を携える道を探らなければならない。
 経済の回復にも国際協調は不可欠だ」
 と結んでいる(二十八年三月六日)。

 この社説の終わり方に、
 じょ、じょ、冗談言うな、となった。
 さんざん相手の異常性を強調しておいて、
 なんやこれは、
 異常な相手に、国際協調を勧めても聞き入れるはずがないではないか。
 そもそも、異常、なんやから。

 よって、産経新聞の社説の結論とは逆に、
 この相手に、
 国際協調を勧めるのはもう止めようと強く訴えたい。
 
 何故なら、軍拡を続ける独裁権力に対する「宥和」こそ、
 戦争の引き金になる
 「最も危険な錯誤!」
 であると歴史が教えているからである(チャーチルの第二次世界大戦回顧)。
 第二次世界大戦勃発の直前まで、
 つまりドイツのポーランド進撃直前まで、
 イギリスもフランスも、
 ヒトラーに国際協調を勧めていたことを忘れてはいけない。
 
 すなわち、
 我々は、頭から対中宥和思考を排除した上で、
 相手の「実態」を把握し、
 如何にして相手を抑止するか決断し実行に移さねばならないときがきている。
 その決断が、本稿の表題
 「平和を望むならば戦いに備えよ」
 である。

 この観点から眺めるならば、
 現在、韓国では、アメリカ軍と韓国軍が大規模軍事演習を展開し、
 南シナ海には、アメリカの原子力空母ジョン・ステニスを中心とする空母打撃群が展開している。
 また、我が国においても、
 昨日三月七日、秘匿性に優れた最新鋭潜水艦「じんりゅう」が
 三菱重工神戸造船所から就役して
 「そうりゅう型潜水艦」が次々と生まれており、
 フィリピン海域の海底に我が潜水艦が遊弋していると聞いている。
 いうまでもなく、秘匿性の高い潜水艦は、一発で空母を撃沈できる。

 これらを総合すれば、
 中共の全人代で喋っている連中と中共の軍隊は、
 海洋においてかなりの圧力を受けて抑止されており、
 八十年前の昔に、何の圧力も受けずにラインラントに進駐できて
 舞い上がったヒトラーの状況とは違うと思われる。

 アメリカ国内は、現在、
 不動産王と上昇志向が化粧をして歩いているような二人による
 内向きの大統領選の最中だが、
 軍事行動に消極的でアメリカの威信と国際的信頼感を失墜させたオバマ政権末期を迎え、
 オバマに辟易した国防長官と軍が、
 歴史の教訓に忠実な、きっちりとした行動を始めたと評価する。

 さて、原子力空母ジョン・ステニスの空母打撃群の周りには、
 「見たこともないほどの中国人民の艦船が来ている」ということだ。
 
 この情報に接して、思い出したのは、
 日中条約締結前の福田赳夫内閣の時、
 突如、尖閣周辺海域に百隻を超える中共の武装漁船が群れた情景である。
 之を見た福田内閣は驚き腰を抜かす。
 そして、そのタイミングを計っていた鄧小平の「尖閣棚上げ」提案に飛びつく。
 つまり、この時、我が内閣は、
 「自国の領土を他国に棚に上げてもらってホッとする」、
 という馬鹿よりもひどい痴呆を演じるのである。
 そして、この武装漁船の「船員」達は、
 リストラにあった元人民解放軍の兵士であったというわけだ。
 
 そこで現在、中共では、「軍の近代化」のために大リストラが行われているのだが、
 アメリカ空母打撃群の周りにいる「見たこともないほどの中国人民の艦船」は、
 福田赳夫内閣を慌てさせて「尖閣棚上げ」効果を獲得した例に倣って、
 中共首脳が、ひょっとして
 「スプラットリー諸島棚上げ」が
 転がり込むかも知れないと思って、
 リストラ兵士を繰り出しているかも知れないと思う次第だ。
 何れにしても、アメリカ空母打撃群の周辺に出てきた
 「見たこともないほどの中国人民の艦船」は、
 アメリカ軍の行動が、中共に効いている証拠である。

 なるほど、中共(中国共産党)は、軍備を増強して海洋に進出している。
 しかし、そのカラダの内部は、ガン細胞が増殖を続けている。
 その内蔵が腐れば生体は維持できない。
 従って、脆弱である。
 いたずらに、中共の軍備増強を怖れる必要はない。

 対中軍事行動は、明らかに平和を確保する。
 対中宥和は、中共を増長させ危険な軍事的冒険を誘発させる。
 よって、我が国は、「平和のための戦略」を確立し、
 軍備の充実に邁進する時に至っている。
 
 その「平和のための戦略」の大きな柱は、
 台湾そしてフィリピンからインドネシアというアセアン諸国との連携である。
 この中共を取り巻く「海洋の輪」が機能すれば、
 中共の「海洋強国」は停止する。
 陸上から飛び立ってイギリスの太平洋艦隊の旗艦である戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを撃沈した戦訓を思い起こすべきである。
 この「海洋の輪」が機能すれば、
 東アジアの海を乗っ取ろうとする中共の野望は必ず破綻する。

 最後に、最も警戒すべきことを記す。
 それは、中共の「対日工作」を見くびってはならないということである。
 
 冒頭に示した産経新聞の社説でも、
 中身は中共の「異常性」を説きながら、
 締めくくりは「中共に国際協調を勧めよう」という
 まことにしおらしい結論で終わるではないか。
 血に飢えた猛獣が平和の鳩になると本当に思っているのか。
 
 昨年に延々と続けられた国会における安保法制の議論の中で、
 「中共による南シナ海の埋め立てと軍事基地化工事の脅威」については
 民主党からはもちろん、
 自民公明の与党からも質問は出なかった。
 南シナ海に関する質問は、「日本のこころ」からだけであった。

 この国会は、明らかに中共に「配慮」していた。
 これを「異常」だと思わねばならない。
 反対から言えば
 「異常」と思っていないことが「異常」なんだ。
 すなわち、中共の工作活動が国会すなわち政府与党と野党に及んでいる。
 つまり、我が国国会は、中共に協力していたのである。
 一部は意識して、一部は無意識に。

 かつて、ソビエトのKGBのスパイであるレフチェンコは、
 「日本の世論をソビエトに有利になるように仕向ける」任務を受けて日本に来て、
 我が国の政界、官界、財界、マスコミ界等のエージェントと接触し工作活動を展開した。
 そして、アメリカに亡命して次の通り証言した(一九八二年)。
 「日本人はソビエトに協力しているという意識なく協力してくれた。
  日本はスパイ天国である。」


 ソビエト無き今、我が国において、
 この「スパイ天国」を満喫しているのは何処の誰か。
 中共の工作員ではないか。
 彼らは現在進行形で言うだろう。
 「日本人は中共に協力しているという意識なく協力している。
  日本はスパイ天国である。」

 まさに、レフチェンコの証言通りのことが、昨年の国会で起こっていたのである。
 それどころか、昨年起こっていたことは、
 今も各所で起こり続けている!

 そこで、痛恨、無念の思いを以て言っておく。
 昨日、田母神俊雄元航空幕僚長の事務所等を東京地検特捜部が家宅捜索した。
 その容疑は、「勇気ある内部告発者」の告白
 に基づく政治資金の業務上横領であると発表され、
 マスコミはその通り官に「言われるままの疑惑」を流している。
 これによって、
 全国津々浦々の日本国民に、
 我が国を取り巻く中共の軍事的脅威を
 権威を以て伝達できる軍事専門家が沈黙させられるのだ。

 これを喜ぶのは、何処の誰だ。
 喜ぶのは国内と国外にいる。

 都知事選挙から二年以上も経過したこの時期に、
 突然為された検察特捜部による田母神俊雄事務所家宅捜索が、
 「スパイ天国」における中共の工作活動と無縁の
 公明正大なもの、すなわち、社会正義の実現、であると、
 言い切る材料はない。
 つまり、政界における中共の工作に影響された国策捜査
 ではないと言い切れないということだ。