まだ春なのになぜか秋の栗拾いの事を思い出した。学校現場を離れて、社会教育施設に

6年間勤務した時である。学校で高校生と触れ合うことは人格がお互いにあるので、これは一生もので今でも多くの教え子たちと交流できている。ところが社会教育の現場では幼稚園児から高齢者までが対象であった。私も現在、後期高齢者になる直前なのだが、そうしたお年寄りのお手伝いのような研修も多く担当したものである。さて、最初のテーマに戻る。

 その施設は県立であったが、利用者を少しでも増やすように努力せよというノルマが常に課せられていた。NHK等のテレビ番組でも視聴率がいつでも気になるところと同じである。私の立場は研修課長というものであったので責任は重大であった。既に高齢者対応の事業はあったのでそれ以上の新企画として、地域の幼稚園や保育園の園児を対象とするものがいいのではと思いついた。お誘いのセールスポイントを何にするか・・。思いついたのは自然がいっぱいのその施設の環境では栗やドングリなど秋の木の実が沢山採れるから「当施設では園児の皆さんが栗やドングリ、とちの実、などなんでも拾えます。」と呼びかけたのである。するとそれは大反響を起こし、管内の全ての幼稚園と保育所からの申し込みとなったのである。

 しかし、困ったことがあった。利用を申し込んだすべての目的がなんと!栗拾いであったのである。」さあ、困った・・だって、栗を拾えるのは最盛期の一週間しかないからである。申し込みは10を超える園からであり、同じ日に複数の園児たちを受け入れる事は出来ないのである。さあ、どうしよう・・私はある考えをひねり出した・・・。

 ある風の強い日にアルバイトの女の子二人を誘って(もちろん仕事の一環として)大きな袋を持たせて3人で栗拾いをしたのである。予約してくれた最初の園児たちが来る直前であった。さあ、それからである。その施設には利用者のための食堂があり、その店長とはすっかり友達関係になっていた。そこで大きな冷凍庫を使わせてほしいと頼み込んだ。店長は勿論OKしてくれた。その場所に来所予定の幼稚園の数だけの十数個の栗満杯の袋をそのまま冷凍したのである。私の目論見は冷凍してしまえば栗の味は多少、落ちるだろうが可愛い我が子が自分の手で採ってきた栗の実を見てお母さん達は大喜びでその実を茹でて親子で食べてくれるだろうという狙いだった。1回目の幼稚園がやってきた。かわいい園児たちは案内役の私にひよこみたいにピヨピヨとついてきた。{叔父ちゃん!栗はどこにあるの?」こう言われて私は「ほら!そこにある!」「ほらここにも!」と栗を指さして園児たちに採らせた。・・・・

 なんのことはない!実は前の日の夜に栗の木の下に冷凍した栗を撒いておいたのである。 

 園児たちは大喜びで何人も私の腰に抱きついて離れなかった。

 あの時の幼子達のぬくもりは今でも忘れられない。

 ところがである!5~6番目の幼稚園の時、私はいつものように前日の夜に栗を撒くことをうっかり忘れていたのである。あわてて、早朝、施設に出かけてその予定の栗をまいた。

 しかし、幼子達の感性は鋭い・・・「おじちゃん!この栗冷たいね!」大慌てで「あのさ!昨日霜が降ったから冷たいんだよ」と汗だくで取り繕う私のうろたえた姿は見ものだっただろう・・・

 さて、最後の保育園児たちが大喜びで帰って行った後、偶然私は車のラジオで次のような嬉しい話を聞いた。自然に詳しい専門家はこう言ったのである。

 「栗の最善の保存法は採ってきたらすぐ冷凍することです。

 すると栗の実の中の虫は死にます。しかも味は変わりません。」

 この話は今でもkenpoku seishounen no ie のマニュアルとなっている事を一昨年のOB会で知らされ、嬉しかった・・・。