「僕の名前はシラクラ。

第2回世界本戦で3位入賞、その他様々な大型大会で結果を残す、トッププレイヤーの一角だ。

ホビーステーションの店員という一面も有し、カードの販売、イベントの運営、プレイヤーにと八面六臂の活躍を続けている。

今の目標は勿論、来月の世界本戦だ。

 

『3位じゃ駄目なんですか?』

 

誰よりも高みを目指す矜持と向上心が、その問いにNOを突き付ける。

本戦まで1ヶ月、間もなく新弾が待ち受ける中、前哨戦としてのもちもち杯を迎えた。

環境の変遷を控え、まずは現環境に解答を示したい。

隣で奮闘する仲間、ホビーステーションの同僚、そして最愛の人に意志と実力を示すためにも・・・

 

絶対勝ちます!!!」

 

という筆者に捏造された決意表明文で始まったが、2月16日(日)17時、大田区産業プラザの一室にて、もちもち杯の準決勝が幕を開けた。

フィーチャーした卓はシラクラ選手VSコイト選手。

シラクラ選手は↑の捏造文で紹介済。使用デッキは華代。

 

一方のコイト選手。

筆者は面識が無かったが、主催のきなこ氏からフィーチャーの推薦を受けた。

八王子のウパでよく会う新参の方とのこと。八王子と言えば、都心から距離があり、地元民しか集まらないイメージを持たれないだろうか。筆者も普段は行く機会が無い。

だが実情は、ヨネカジ氏、きなこ氏という2人の世界王者が頻繁に出没する、隠れた激戦区なのである。両者に日々揉まれる中で成長を遂げ、彼もまた大舞台へ羽ばたくのかもしれない。その日の訪れを信じ、彼の歴史を逃さず記録しておきたい。

 

話は実戦に移る。

コイト選手の先攻で始まり、マリガンはコイト選手が4チェンジ、シラクラ選手は1チェンジとなった。

普段であれば淡々と進められるマリガンの時間も、本日は異なる様相を呈していた。

コイト選手はチームメイトのぴえん選手と談笑、一方シラクラ選手はチームメイトのザマシ選手と顔を近づけ、小声で語り合っていた。

 

そう、このもちもち杯はチームメイト間での相談が許されていた。

「三人寄れば文殊の知恵」

手出し無用の名の下に、普段は仲間に対し、ただ勝利を祈ることしかできない。しかし今日だけは、ある時は知恵を授け、ある時は知恵を授かる中で、チームとしての勝利を目指すことが出来る。

ただの実力者を集めるだけでは足りない。普段以上に、チームとしての一体感が求められる。

 

試合前は、「ねへほもんはチーム外の者なので、隣に居ても相談してはいけませんよ」などと冗談を飛ばす筆者であったが、真剣な空気感を前に、筆者もまた気を引き締めさせられた。一方で、コイト選手のように、チームメイトと談笑して緊張を緩めることも、落ち着いて実力を発揮るために有益であろう。

そんな事を考えているうちに、手札5枚、ライフ7枚がセットされ、試合開始の号令が響いた。

 

Turn 1

 

コイト選手の先攻。Lv1にグロウし、手札を1枚切ってコインを獲得。

そのままハナレキーを使用し、3枚落として2枚回収。

回収はアンミラとベルゼブブ、盤面はベビドラとボラゴで、空けた中央にハナレキーの起動を使用してターンエンド。
ハナレキーの回収先が上級シグニで、盤面にパワー1000焼きに有効なボラゴを立てたことを考慮すると、あまり下級に恵まれた手札では無さそうだ。
 
ここで気になるのは、ハナレキーの起動効果だ。
防御手段が有限なキーセレにおいて、ライフ1点の価値が非常に重いことは言うまでもない。ましてや高火力を誇る華代対面では猶更だ。華代はLv1にバニラが投入されることは稀で、後攻1ターン目に中央の防衛線を突破されることは想定しづらい。切った手札1枚が、後で戦力の息切れを招く場合もあり得るが、パワーラインの低い華代相手であれば、Lv4グロウ以降で除去に手数は要さない。
まず腐りづらい一手だろう。筆者がそう考えた時、とあるカードの存在が頭をよぎった。
 
続いて後攻、シラクラ選手のターン。
1ターン目とは思えぬ熟慮の末、Nceをチャージし、Lv1へグロウ。
その仕草を見るだけで、次の一手は容易に想像できた。
 
 
続いてLv2へグロウ。
「ダッシュ華代」と言われる、華代の構築の一形態だ。
これで中央のシグニゾーンに、Lv2・パワー5000のシグニを立てれば、ハナレキーの起動下でも生き残ることが出来る。起動は無意味な一手となってしまった・・・(注1)
 
(注1)意図がお察しの方には恐縮ですが、ただの前振りです。
 
続いて鎮護国禍を使用し、ベビドラをバニッシュしつつ1エナチャージ、破棄して立てたTntにダブクラを付与。
落ちた赤エナをコストにララルーキーを使用。最後の炎心爛漫に繋ぐまで、澱みの無い動きを見せる。後攻1ターン目で早くも、ルリグデッキ10枚のうち7枚が露わとなった。
初見では派手に映る動きも、華代が環境デッキの今となっては、使用するシラクラ選手は勿論、コイト選手も承知の動きであろう。しかし、慣れた道の上であっても、時として障害が現れる。
事件はララルーキー発動時に起こった。
 
シラクラ選手、デッキトップ4枚を公開。
 
 
【結果】1枚ヒット
 
結局、Tntをエナに置くのみで終わってしまった。
シラクラ選手から、「エナかつかつ・・・」という悲痛の声が漏れる。
 
シラクラ選手の構築では、30枚、つまりデッキの4分の3が原子シグニ。回収枚数が1枚となる確率を概算すると、4C1*(1/4)^3*(3/4)^1=3/64、5%未満となる。
2枚は十分想定されるが、1枚で終わることは珍しい。シラクラ選手にとっては不運であったが、このような不運は二度と起こらないであろう。今回の不運を跳ね返して勝利できれば、その勢いで決勝では幸運を掴み、更なる勝利が望めるはずだ。(注2)
 
(注2)筆者は事あるごとにフラグを立てます。真相は次のカバレージにて。
 
ララルーキーの事件は起こったものの、後攻1ターン目の急襲は、ダッシュ華代の望みの展開だ。続いて軽くボラゴも除去し、Tnt、Mdia、Nigという盤面でアタックに入った。ここで落ち着いて見ると、ダブクラを得られそうなNigが、左端のシグニゾーンに居る。
十分前振りがあったためお察しかもしれないが、ここでハナレキーの起動が役割を果たした。Lv2・パワー3000のNigは中央のシグニゾーンでは存在できない。相手が引いているか不明なカードに対し、事前に手札1枚を投げて備えるのは馬鹿らしいと思うかもしれないが、それだけライフ1枚の価値は大きいということだ。
 
Nigをケアしてなお、鎮護国禍でダブクラを付与されたTntが存在する。
コイト選手としては、早くも防御するかの選択を迫られたが、ここでハッピー5を使用。
残り2点が通り、ルリグアタックはT2でガードした。
爛漫の宣言「1」をまずは切り抜け、長い長い1ターン目が終わりを迎えた。
 
ライフ:コイト選手5点VSシラクラ選手7点
 
 
Turn 2
 
ダッシュ華代の長い後攻1ターン目を耐え凌ぎ、コイト選手の2ターン目が訪れた。
だが、ハナレキーの回収先と、1ターン目ボラゴの出現から、懸念された事態が発生した。

盤面はスワードとO2の2体のみ。他にサーバントがおらず、爛漫宣言1に耐えられないという判断だろうか。

ここで想定外の一手が繰り出された。

 

ハナレキー起動、Tntバニッシュ

 

筆者は驚き、ルリグの隣とルリグトラッシュを見比べた。

ハッピー5がルリグトラッシュにあり、ルリグの隣にはハナレキーが残っていた。

セオリーに背く一手だが、ハッピー5をLv4まで維持しても、爛漫のアーツ制限のせいで使いきれないことを懸念したのだろう。

盤面が形成できない状況下で繰り出された苦心の一手は、果たして吉と出るか、凶と出るか。

 

Mdiaの前にスワード、空いた盤面にO2という布陣でアタック。シラクラ選手はララルーキーでO2をバニッシュし、残ったスワードでMdiaをバニッシュ。ルリグアタックのみ通過し、ターンエンド。

 

再びシラクラ選手に攻撃のチャンスが巡る。

キーが絶えることは無く、すかさずゆきめキーを使用し、MdiaとAnfoをサーチ。

Anfoをルリグ効果でトラッシュに送って能力を使えば、即座に3面空け盤面の出来上がり。

 

悩ましいのはむしろここから。

アタックフェイズに入り、シラクラ選手が爛漫の宣言を考える。O2が登場したという事実をどう見るか。手札が苦しいことは想像できるが、それでもLv1サーバントが1枚しか無ければ盤面に立てないであろう。2枚目の存在を予感してか、再び「1」を宣言した。

 

一方のコイト選手。

こちらも防御の選択を迫られる。
ここで隣のぴえん選手が、コイト選手の手札を覗き込む。
二人の戦いに没頭して忘れかけていたが、今回は相談可のチーム戦だ。ぴえん選手はキーセレ華代で早々に勝利を掴み、仲間の戦況を確認しに来た。ハンドを見て思わず苦笑いを浮かべた辺りからも、苦境が窺える。
 
「逆転の一手はライフにあり」
 
相談の結果、何も使用せずにシラクラ選手の攻撃を通した。
1点、また1点と、何事もなくライフが砕かれていく。たまに発動したライフバーストは、コイト選手に非情な現実を突きつける。
 
捲れたのはヤミガネ。まず1ドロー、そして1エナチャージ。
ドロー札を見ても、サーバントを待ち望んだその顔に、光は戻らない。そしてエナチャージ。
ここで捲れたのは、
 
 
嗚呼、無情。
たったデッキ1枚の違いが、決定的な差を突き付けた。
ルリグアタックが通り、計4点、コイト選手のライフは1点と、危険水域に突入した。
 
ルリグアタックが通った瞬間、シラクラ選手の口から、思わず「勝った」という一言が漏れる。
フラグ回収人に取り立てられないか、いや、そうなることを、前振り大好きな筆者は密かに願っていた。
 
ライフ:コイト選手1点VSシラクラ選手6点
 
Turn 3
 
ライフ差では歴然たる差を付けられたコイト選手であったが、Lv3へグロウし、遂に華代のレベルを追い越した。
シラクラ選手の残りルリグデッキは2枚。攻めに精力を傾けた分、ここからはコイト選手がライフ差を詰める展開となろう。筆者自身、かつてダッシュピルルク相手にライフ7対0から逆転勝利した経験がある。
希望がある限り、託すチームメイトが隣に居る限り、投げ出すことは出来ない。
 
ハナレキーでPabをバニッシュ、そして1ターン目に回収したベルゼブブを立て、2面要求でアタック。
シラクラ選手はザマシ選手の方を振り向く。
残るルリグデッキは、恐らくハッピー5とぶりっつあーや!と予想される。
ゆきめキーを残すことで、対戦相手の牽制となる以上、ハッピー5で簡単に破棄することは無いだろう。
実戦もセオリー通り、さほど時間を掛けずに攻撃を通した。
すんなり2点が通り、残り4点に。
 
むしろシラクラ選手サイドとしては、攻撃の組み立てに時間を要した。
Lv4へのグロウを許せば、新規のキーが貼られ、ディスペアで回復され、ゆきめキー・バーニングでの対処が必要となる。3ターン目で可能な限り相手にプレッシャーを与え、Lv4での耐久に望みを繋ぎたいところだ。
 
ザマシ選手から、「華代だから・・・」という声が漏れ聞こえた。
予選で把握した一部の情報を基に、相手の防御手段を絞り、百発百中の詰めの構図を描いていく。
結果は、SkでOnをトラッシュに送り、スワードをバニッシュ、残り2面はOn2体にアサシンを付与し、3面要求でアタックへ。
宣言は引き続き1。
 
次はコイト選手の考慮時間。
といっても、ウリスが取れる防御手段は限られていた。リーサル・ブラックで1点回復、Onをバニッシュ。
盤面の2点は止まらず、最後のルリグアタック。
 
ここを止めれば、次のターンはゆきめキーを使われても、アウェイクでアンミラを絡めて3面防御する延命ルートが開ける。
シラクラ選手は既に大量のOnを消費しており、バーニングでディスペアのアンミラを割った上から、アウェイクアンミラの蘇生を防ぐ手段は乏しそうだ。華代キーの効果が復活すれば、もう1ターン延命の芽がある。
コイト選手、手札に手を伸ばす。
 
不意に手札を全公開した。
ボルドキ宣言・・・ではない。
ガードする手段が無い旨、つまり敗北宣言だ。
 
隣のザマシ選手の敗北を拾い、シラクラ選手が1-1のタイに戻した。
残り1枠はエクストラターンまで縺れ込み、チームメイトのだいじん選手が勝利。シラクラ選手は決勝戦に駒を進めた。